【詩】「三十分」『現代詩手帖』2018年10月号、松下育男・須永紀子 選
- 2018/09/28
- 11:19

ねえ、台風の日なのかどうなのか風なのかどうなのか、夜中にめがさめ、なにかがたべたく、わたしはとなりにいたひとに、ねえあの、なにかたべたいんだけど、あの、おどろかないでほしいんだけど、いまから国道をずっとあるいて、いまでもやっているファミレスにはいって、いまやっているのにふつうに応対してくれる深夜アルバイトの店員のひとにおじぎして、葉っぱにまいた肉とか味のついた椎茸とか入ったご飯とかたべたいんだが、...
【詩】「幽霊」『現代詩手帖』2018年9月号、松下育男・須永紀子 選
- 2018/08/30
- 16:10

たくさん話をしたのでソファーでうとうとしていた。すごく大きなしっかりとしたつくりのソファーだ。このソファーでかのじょは眠ることもあるんだろうか、ぼくがたちあがって本棚からチェーホフの本を引き抜くとそこには男の顔がある。男はゴム製の置物みたいに本と本の隙間にむっちりと挟まっていて、ぼくをみつめている。ゆっくりとした眼球がぼくのために動いている。男の顔にはまばらな髯がある。そして、少しだけ、臭う。草み...
【詩】「あかるいふくろ」『現代詩手帖』2018年8月号、松下育男・須永紀子 選
- 2018/07/31
- 12:52

音のしない目黒通りのしずかな家具店が並ぶ路をわたしはころげるようにあるいていたバス停では、三月だったので、マスクをして、ならんでいる、モスバーガーのふくろや東急ストアのふくろをさげて、あかるいふくろを手でもって、こなをふりはらう、「八雲のあたりで降りれば自由が丘まであるいていけるんじゃないかな、みてよこれ、あしがすごいことになってる」「ねえ、まどのそとをみて、あのひと、こわいすごい、さゆうにゆれて...
【詩】「タニカワというひとの書いた小説」『現代詩手帖』2018年7月号、松下育男 選・須永紀子 選外佳作
- 2018/06/30
- 21:18

目黒を出たのはほんとうにそれからだったと思う目黒の外には出たことがなかったがわたしはずっとそう書いていたしその書いたものだけがわたしを目黒の外に出そうとしていたちからだった一冊の本を閉じたときタニカワというひとの書いた小説をかの女は句集と呼んだクシュウ? とわたしは言った苦しみみたいなもの?わたしはすぐどっちでもいい、ともかくすぐにこの手を引っ張ってくれと言った耐えられなかったわたしはたぶんぜんぶ...
【詩】「目黒と真実」『現代詩手帖』2018年3月号・広瀬大志 選
- 2018/02/28
- 15:45

目黒のわたしたち、というのはたぶんわたしたちのことだが、わたしたちはふだんのくらしをつづけていた「ときどきはたいようをうつくしいとおもおうか」とわたしはかのじょにいった。かのじょはとてもこまった顔をしたおもいだしたようにノートをひらきにっきをつけたりもしたがある日ひからびたみかんをみたときにわたしはこのままずっと目黒にいるんじゃないかというきがしたみんな、えらくなっていったのにしぼんでいく髪やペニ...