【詩】「日曜日」『現代詩手帖』2019年4月号、松下育男・須永紀子共選
- 2019/03/31
- 02:21

「そういえば幽霊って時間の感覚がないじゃない? だから、あの、犬もないでしょ。犬とかとおなじじゃないかと思って」「幽霊が?」「いえ、犬が」「でんわ、だよ」かのじょは、もう、だれかと電話で話していて、あんな声はきいたことがなかった。(くちびるのひと。犬や霊。コップのあぶら。髪)「星空だったんじゃない? まるかった。高原にいたよ。きもち。眼を細めながら。うんと年をとったみたいに。あなたのこと。そこに星...
【詩】「おはよう」現代詩手帖2019年3月号 松下育男・須永紀子共選
- 2019/03/01
- 17:27

なんか、ぼくはずっと年末、部屋にあった箱をすてていて、箱をすてるたびに部屋はひろくなっていく、巨大なひかるテレビが目立つようになって、あの子と映画を観る約束をしていて、約束をしたのにそれをわざわざやぶって、ずっとそれから今も生きてて、テレビのまえでねむそうにしている、そのぼくが、テレビからの声で、「このシーツの幽霊、一体だけなのかと思ったら、二体いたんだね」「ベッドで抱き合うシーンもいようにながい...
【詩】「台湾の塵」『現代詩手帖』2019年2月号、松下育男・須永紀子 共選
- 2019/01/29
- 17:41

「引っ越したときに周囲の木や石や川があたらしくかんじられてしまうこととかなかった?」「ひっこすの?」「えっ、うん、ううん、もうすこししたらたぶんそうなる、でもまだ部屋のことかんがえたい、」「そう掛け時計を買ったの、ねえ、ガラスの内側のここ、塵がある、はりついてるの、内側だから、ぜったいとどかなくて、拭いても、ふれられないの、」「揺らせば落ちるよ、」かのじょはたてよこにしずかに、ちがう、「ほらこんな...
【詩】「壁と音質」『現代詩手帖』2019年1月号、松下育男・須永紀子 共選
- 2018/12/31
- 21:08

うとうとしていたらメールで写真が送られてきて開けてみると、黒いもやのようなものが写っている。なんかこわい。電話して、なにを撮ったの? ときくと、壁とかシーツ、という。なんかこわかった。「いい壁だね」「さぐってたよ」「なにをさぐってたの?」「音質」なんにも噛み合わなかった。それからしばらく光の写真、ブレた写真、コップの写真、戸の桟を半分だけわざわざ加工で消してある写真が送られてくる。富士山の前に笑っ...
【詩】「猫が理由」『現代詩手帖』2018年11月号、松下育男・須永紀子 共選
- 2018/10/30
- 18:52

部屋の暗がりを散らかすようにしてもう死んだはずの猫が宙に浮きながらとっても元気に旋回していたのをあのとき僕もいっしょに見たんだ。だから僕も今泣いてもいいはずなのに僕は泣きじゃくるかの女を黙ってみていた。眼を眼で隠しながら。あのとき僕はむちゃくちゃに回る猫をみながらかの女の肩をずっと抱いていた。そのときじぶんの指のちりちり生えた指毛をみていた。俺の指毛こんなだったっけなあというかんじで。かの女がごそ...