【ふしぎな川柳 第九十五夜】認識がくる-筒井祥文-
- 2016/05/03
- 05:41

こんな手をしてると猫が見せに来る 筒井祥文【「認識をもってこい!」とかつてキルケゴールは叫んだ】この句ってなにかとてもフシギですよね。で、なんでだろう、って考えてたんだけれども、ひとつに、「こんな手をしてる」という〈認識〉をもった猫のふしぎさっていうのがあるんじゃないかとおもうんですよね。「こんな手」っていう認識のなかには「あんな手」や「そんな手」っていう認識が埋め込まれているはずなんですね。そ...
【ふしぎな川柳 第九十四夜】ほんとうってなに-岩井三窓-
- 2016/05/03
- 02:14

ほんとうの咳をだまって聞いている 岩井三窓【本当は、ほんとうは、ない】「ほんとう」ってたぶん「ほんとう」ではないんですよね。「ほんとう」っていうのは存在していないものなんだと思うんです。でも、それでも、「ほんとう」はある。だとしたらその「ほんとう」とはなんなのか。それってこの句がえぐりだしているように〈関係的〉なものだと思うんですよ。わたしがこうだと決めたから「ほんとう」なのではなくて、眼の前の...
【ふしぎな川柳 第九十三夜】あっちが主語-Sin-
- 2016/05/02
- 23:58

あの雲は僕が嫌いだ 猫のヒゲ Sin【僕は僕を嫌いだ】このSinさんの句でひとつ面白いなと思ったのが「僕が」と言いながらも、主語が「雲は」にあるんですね。「僕が」と言いながらもその「僕」は「雲」の目的語というか対象物なんですよ。つまりこれって〈雲〉が主体の句なんですね。雲がなにかを考えている句なんです。でも実は事態ははもっと込み入っているわけです。「猫のヒゲ」みたいに敏感でびりびりしていてマジカルです...
【ふしぎな川柳 第九十二夜】接近不可能性と猫-新家完司-
- 2016/05/02
- 17:24

猫に石投げて当たったことがない 新家完司ハイゼンベルク「不確定性原理」;物質の最も微少な構成要素の場合、各観測過程が観測対象に大きな攪乱を惹き起こすため、観測者は観測対象を正確に記述することができない。 土田知則『文学理論のプラクティス』【猫と不確定性理論】『猫川柳アンソロジー ことばの国の猫たち』からの一句です。この句ってすごくよく《猫の根っこ》を描いているような気がするんですね。それはなに...
【フシギな川柳 第九十一夜】わたくしと火星猫-木本朱夏-
- 2016/05/02
- 17:04

わたくしを跨いで猫が出て行った 木本朱夏ゆめのなかの母は若くてわたくしは炬燵の中の火星探検 穂村弘【わたくしのふしぎ】『猫川柳アンソロジー ことばの国の猫たち』からの一句です。〈わたくし〉ってまえから不思議だなあっておもってたんですが、このわたくしって短詩独特の質感だと思うんですよ。散文とかでとつぜん「わたくし」って言ったらかなりのバイアスがかかってしまう。そこからすべての意味的背景が変わって...