【感想】鯛焼に危機を感じてゐた吉田 西原天気
- 2015/12/28
- 00:30

鯛焼きに危機を感じてゐた吉田 西原天気 (『はがきハイク』13号・2015年12月)眼底に焼き付けたまへほら菅井きんそつくりに暮れてゆく街 西原天気 (「かの夏を想へ」『連衆』72号・2015年10月)世界の意味は世界を超越し、世界は私の意志を超越している。 ウィトゲンシュタイン トニー滝谷の本当の名前は、トニー滝谷だった。 村上春樹「トニー滝谷」 人は魂を持つことによってのみ語る存在となること...
【感想】水母らの五里霧中をひくくひくく 野間幸恵
- 2015/12/28
- 00:02

水母らの五里霧中をひくくひくく 野間幸恵【ひくひくするハイク】『made in haiku』12号から野間さんの一句です。これどうしても、「ひくひく」の〈ブレ〉として私にはみえるんですよ。で、これは〈視える俳句〉なんではないかとおもうんですよ。眼で娯しむ俳句というか。まず「水母ら」のという「く・ら・げ・ら」で、認識のブレのようなものがくる。くらくらするわけです。くらげら、ってなんだと。つぎのしゅんかん、くらげ...
【感想】目覚めるといつも私がいて遺憾 池田澄子
- 2015/12/08
- 08:00

目覚めるといつも私がいて遺憾 池田澄子 目がさめきってみると、自分は、やっぱり、いつもの自分だ。ちっともかわっていない。──また、一日がはじまるんだ。夜までつづいて、また、あくる日がやってきて、また、やってきて、いつまでたっても、きまりきったヘムレンのくらしが、毎日毎日つづいていくんだ。ヘムレンさんは、たのしいゆめを見るまで、じっと待っていた。いつまで待っても、たのしいゆめなんて、見られっこないん...
【感想】カメムシが2n+1いるとする 小倉喜郎
- 2015/12/01
- 17:35

カメムシが2n+1いるとする 小倉喜郎【俳句と任意】「~いるとする」っていう構文はよく算数や数学で使われる構文だとおもうんですよ。以前、塾で働いていたのでわたしもよく使いました。で、じつはそういうふうに、構文や文の組立(シンタクス)っていうのは〈場〉によってけっこう変わってきたりする。たとえば、算数や数学の問題にあたっているときに、「2n+1いるとする」という構文は違和感がないけれど(算数〈場〉では違和...
【感想】サングラス五人もゐてはそれはもう 星野麥丘人
- 2015/11/26
- 08:01

サングラス五人もゐてはそれはもう 星野麥丘人六人中五人バンダナ巻いている 榊陽子【類とねじれ】〈ひと〉が〈風景〉になるときってどんなときなんだろう、と考えたときに、それは〈ひと〉が〈類〉になったときなんじゃないかな、っておもうんですよ。たとえば、ミレーに「落穂拾い」という有名な絵画があるけれど、ここでは〈個〉よりも農作業に従事する〈ひと・びと〉の〈類〉になっているわけですよね。だから、〈風景〉...
【感想】フェリーニの大田区秋鯖買う夫人 近藤十四郎
- 2015/11/21
- 06:10

フェリーニの大田区秋鯖買う夫人 近藤十四郎【フェリーニの枕草子】じぶんにとってフェリーニ映画ってなによりも〈いかがわしさ〉、手間をかけた〈いんちき〉にあると思っているんですね。で、これはルカーチの虚偽意識に近いのかなあってちょっとおもうんですが、それがいんちきだとわかってるしいかがわしいとも自覚しているけれど、でもそれをやってしまうそのなかにいるんだというようなそういう〈虚偽意識〉への駆り立てを...
【感想】約束は《いま・ここ》の反故イワシグモ 小津夜景
- 2015/11/20
- 07:00

約束は《いま・ここ》の反故イワシグモ 小津夜景アルチュセールが起源の不在を言ったように、いかなる方法論も相対的な価値しか持ちえないのではないでしょうか。 小嶋菜温子『女性作家《現在》』おふくろよ、わしの宿命のベンディシオン・アルバラドよ、もう百年になるんだいや驚いた、もう百年たったんだ、 光陰矢のごとしというが マルケス『族長の秋』【長い歳月が流れて銃殺隊の前に立つはめになったとき、恐らくア...
【感想】中年や意味も分からずいぢくれば 筑紫磐井
- 2015/11/18
- 07:03

中年や意味も分からずいぢくれば 筑紫磐井【文学における〈中年〉をめぐる】これから書くのはあくまで〈中年ノート〉で、なにか中年について解き明かしたり、中年を研究するものではありません。ただ、筑紫さんのこの句ってじぶんにとってはとてもふしぎで、表現や文学における〈中年〉ってなんだろうって考えるときによく思い出している句です(ちなみに文学研究には〈35歳問題〉という研究があって、たしか村上春樹や芥川龍之...
【感想】さくらさくら泪には表面張力 小林苑を
- 2015/11/18
- 00:48

さくらさくら泪には表面張力 小林苑を これほどいろいろの泣き方があるというのも、おそらくは、わたしが常に誰かに向って泣いているからであり、わたしのこぼす涙の宛名が、常に同じ人物ではないからであろう。 ロラン・バルト『恋愛のディスクール』憐れんでください、私の神よ! 私の涙ゆえに、私をご覧ください。 バッハ『マタイ受難曲』【表層への愛】以前、西原天気さんの、心より見た目がだいじ扇風機 西原天...
【感想】面白くかなしく遠く涅槃かな 岸本尚毅
- 2015/11/10
- 00:00

面白くかなしく遠く涅槃かな 岸本尚毅岸本さんのリフレインの俳句が決定的な形になったのは『感謝』の「面白くかなしく遠く涅槃かな」ではないかと思います。 生駒大祐「岸本尚毅の『小』を読んでみた」『オルガン』3号【Tha Man Who Wasn't There】さいきん考えていたのが、短詩のなかの〈長さ〉ってなんだろうっていうことで、で、この岸本さんの句にひとつの〈ながさ〉のようなものがあらわれているんじゃないかとおもう...
【感想】tttふいに過ぎゆく子らや秋 鴇田智哉
- 2015/11/07
- 23:07

tttふいに過ぎゆく子らや秋 鴇田智哉あまり倦みたれば、一ツおりてのぼる坂のくぼみにつくばひし、手のあきたるまま何ならむ指もて土にかきはじめぬ。さといふ字も出来たり。くといふ字も書きたり。 泉鏡花「竜潭譚」我々の世界はどこが始まりどこが終わりか分からないぎっしりと「書き込まれた」、エクリチュールの構成物である。無数の人によって「書き込み」「書き出された」エクリチュールの共同世界に生きながら我々...
【感想】 人参を並べておけば分かるなり 鴇田智哉
- 2015/11/04
- 19:07

人参を並べておけば分かるなり 鴇田智哉一列に並んで壁をなだめてる 一帆【俳句と魔術】以前も川柳のなかの〈並ぶ〉ことについてすこし考えてみたことがあるんですが、〈並ぶ〉ことって、マジカルというか、並ぶだけでちょっと魔術的になるんですね。で、それはなんでだろうっていう。で、実はちょっとそれって定型とも関わってくるようにおもうんですよね、図像学的な定型のありかたとも。定型って本来は縦書きで、ネットで...
【感想】牛久のスーパーCGほどの美少女歩み来しかも白服/まぼろしの館の中の水着かな 関悦史
- 2015/11/04
- 12:00

牛久のスーパーCGほどの美少女歩み来しかも白服 関悦史まぼろしの館の中の水着かな 〃 僕はひとり散歩してゐるうちに歯医者の札を出した家を見つけた。が、二三日たつた後、妻とそこを通つて見ると、そんな家は見えなかつた。僕は「確かにあつた」と言ひ、妻は「確かになかつた」と言つた。それから妻の母に尋ねて見た。するとやはり「ありません」と言つた。しかし僕はどうしても、確かにあつたと思つてゐる。その札は齒...
【感想】空気なんて信じてゐない蝶が好き 佐藤雄志
- 2015/10/30
- 23:27

空気なんて信じてゐない蝶が好き 佐藤雄志髪を気にする赤い羽根募金の子 〃月眩しプールの底に触れてきて 〃【ふっとした逸脱】わたしが感じる佐藤さんの句の面白さのひとつに〈主目的〉からふっと逸れたところにある〈なにか〉というのがあるのかなあと思ったんですね。たとえば〈空気〉だからこその飛ぶ蝶なんだけれども、〈真空状態〉のなかの蝶や、「赤い羽根募金」という〈他者への献身行為〉にありながらも〈対自的...
【感想】戦争・藤木清子・ボディ-或いは現代俳句と刑事フォイル-
- 2015/10/23
- 06:00

戦死せり三十二枚の歯をそろへ 藤木清子ひとりゐて刃物のごとき晝とおもふ 〃しろい晝しろい手紙がこつんと来ぬ 〃晝寝ざめ戦争厳と聳えたり 〃【戦争と固形物】いまNHKBSで『刑事フォイル』がやっていますが、この第二次世界大戦さなかのイギリスに時代設定された『刑事フォイル』の基本的なテーマは、戦争の大量死とそのなかで起こる個人的な殺人事件の〈固有死〉をめぐるものだとおもうんですね。戦争でたくさんひ...
【感想】中空の0おごそかに回転す 佐々木貴子
- 2015/10/18
- 00:30

中空の0おごそかに回転す 佐々木貴子焼鳥の串一本が宇宙の芯 〃【2015年なんでもなく旅】貴子さんの句集『ユリウス』を読み直していたんですが、貴子さんの俳句のなかの〈超越性〉というか〈形而上俳句〉がおもしろいなとおもったんです。たとえば貴子さんのこんな句も形而上俳句だとおもいます。宇宙船無音で滑る枯野道 佐々木貴子鬱蒼と繁るパセリのなか涅槃 〃どっちも好きな句なんですが、たとえば最初にかかげた...
【感想】攝津幸彦と濡れること-或いは攝津幸彦と『ONE PIECE』-
- 2015/10/17
- 00:30

階段を濡らしてひるが来てゐたり 攝津幸彦野薊の付近に濡れし釘を打つ 〃荒れし夢濡れし兎を追ひまはす 〃心中の森 少年軟骨までも濡れ 〃 蟻地獄濡らすは二○三高地 〃透明なあなたの馬が濡れてくる 〃【濡れる、ってなんだろう】攝津幸彦の俳句のなかではいろんなものが濡れているんですよ。階段が濡れていたり、釘が濡れていたり、兎が濡れていたり、少年の軟骨が濡れていたり、二〇三高地が濡れていたりする...
【感想】攝津幸彦さんとみんなが集まってくることをめぐって-それはマルクス兄弟的な-
- 2015/10/17
- 00:00

包丁に集まるをみな倒立す 攝津幸彦噴水に集まりながら消えながら 倉本朝世ローソクもってみんなはなれてゆきむほん 阿部完市俳句の片言性は、人と人を結ぶ、あるいは人と事物を結ぶ言葉の仕掛けとなる。 坪内稔典【みんなあつまろう】集まってくる/ゆく句をみっつ並べてみました。坪内稔典さんが攝津さんの俳句の解説で〈俳句の片言性〉ということについて言及されていたのですが、その〈片言性〉=言い足りなさの空...
【感想】攝津幸彦と〈である〉体-魂は魂自身さえも覗きこむとプラトンは言うが-
- 2015/10/16
- 00:30

夢である小鳥は父で舌である 攝津幸彦沈黙や夕べはひどく犀である 〃ビーフカリーは最も淋しい朱夏である 〃【である(のか)】ときどき気になっているのが短詩型における断定の「である体」です。「である」っていうのはそもそも根拠や論拠があって結論として「である」として結ぶはずなのに、音数が限られた短詩型でも「である」がときどき出てきます。これは、なんなのか。たとえば攝津幸彦の俳句にも印象的なかたちで...
【感想】攝津幸彦とまんじゅしゃげパッケージング-最後にムーミン谷へ-
- 2015/10/15
- 00:00

性交のまへとうしろに曼珠沙華 攝津幸彦快晴の警察と寝る曼珠沙華 〃敵性といふ言葉あり曼珠沙華 〃曼珠沙華かの細胞をうらみけり 〃【ちょっとした超越】ちょっと攝津幸彦さんの曼珠沙華の句がおもしろかったので数句抜き出して並べてみました。ちょっと思うのが、攝津幸彦さんの俳句にとって曼珠沙華っていうのは〈パッケージング〉としてあったのではないかということです。たとえば、性交のまへとうしろに曼珠沙華...