【川柳】印鑑を…(第11回大野風柳賞・入選・大野風柳 選)
- 2014/06/15
- 13:40

印鑑を宇宙の隅でそっと捺す 柳本々々 (第11回大野風柳賞・入選・大野風柳 選)【不可逆としての捺印】大野風柳さんの句に次の句があります。非常用ベルを押したくなってくるこの句に緊張感があるのは、「非常用ベル」を一回押すと、それはシーンが不可逆として次のシーンに変わってしまうこと。かんたんにはもうもとには戻せないということです。「非常用ベル」は「非常用」なので、「押した」いという欲動で押し...
【感想】A子さん(四〇歳・河童) 西原天気
- 2014/06/15
- 13:37
A子さん(四〇歳・河童) 西原天気【浪人生、教師、無職、フリーター、主婦、河童】この俳句を読もうとするときに、どうやって読んだらいいのか見当がつかないんですが、それでもじゃあなぜじぶんはこの句が気になってしまうんだろうというところからてさぐりではじめてみます。まずこの句のおもしろさは、よく雑誌にみられるような投稿者の名前表記の言説を借用しているところにあるとおもうんです。これは、形式としての引用...
【感想】そうですかきれいでしたかわたくしは小鳥を売ってくらしています 東直子
- 2014/06/14
- 22:17
そうですかきれいでしたかわたくしは小鳥を売ってくらしています 東直子【形容詞 対 動詞の決闘】以前、東直子さんの歌集の感想文を書いてみたときに、読み手が文脈を形成するように仕掛けられているのが東さんの短歌のひとつの特徴ではないかと書いてみたのですが(参照:「【感想】『セレクション歌人26 東直子集』-読み手を歌い手に変える鍵-」)、この短歌も読み手がどのような文脈を持ちこむかによって、どこに「。」と...
【感想】ほんとうのこと(今日世界で死に果てた羽虫の総数など)を知りたい 田中ましろ
- 2014/06/14
- 16:08
ほんとうのこと(今日世界で死に果てた羽虫の総数など)を知りたい 田中ましろ【かたすみソムリエのほんとうのこと】田中ましろさんのこの短歌にはひとつの〈諦念〉、あきらめとしてのモチーフがうかがえるように思うんです。でもその諦念というのは、なにかがピックアップされることによってあきらめざるをえないという、こんないいかたをあえてしてみるならば、〈対位法的諦念〉です。語り手が選んいとったものがあるのだけれ...
【感想】寄り弁をやさしく直す箸 きみは何でもできるのにここにいる 雪舟えま
- 2014/06/13
- 22:17
寄り弁をやさしく直す箸 きみは何でもできるのにここにいるなめらかにちんちんの位置なおした手あなたの過去のすべてがあなた 雪舟えま【語り手が立ち会うふたつの誤差修正】少し異色な読みかもしれないんですが、雪舟さんの短歌をもう一首の雪舟さんの短歌とかけあわせて読んでみる、といったことをしてみたいと思います。この二首にはふたつの共通点があります。ひとつめは、どちらも〈直す〉=修正することによって語り手の...
【感想】かなしくてベルリンと言う強く言う 倉本朝世
- 2014/06/13
- 18:20
しんりん、とくちびるがいう性的に 柳本々々【くちびるの森でとなえたなつかしい呪文】なかはられいこさんが私の「しんりん、とくちびるがいう性的に」の句の評を書いてくださった(参照:「 おかじょうきとか、サムライジャパンとか 」『そらとぶうさぎ』)。なかはらさんのことばを引用させていただくと、 この「しんりん」は「森林」なのですが、ひらがな表記によって、意味としての森林は初期化されています。はじめて出会...
【感想】なつかしい未来 あなたともう一度にくんだりあいしあったりしたい 村上きわみ
- 2014/06/12
- 23:36
なつかしい未来 あなたともう一度にくんだりあいしあったりしたい【語り手にゆだねられた愛の選択肢】「なつかしい未来」というと、あれ、この語り手は時間が倒錯=転倒してるな、っておもいますよね。語り手の「あなた」への愛憎が時間を転倒させたんじゃないかなとわたしはおもうんですね。「なつかしい未来」っていうのは、過去でも未来でもありません。これは語り手が〈いま、ここ〉でうみだしている、うみだしつづけている時...
【感想】不気味からいい人までの創世記 月波与生
- 2014/06/12
- 00:51
不気味からいい人までの創世記訓練にしては鋭い矢印だ 月波与生【おや、この句には、弾力がある!?】月波与生さんのこのふたつの句は、ある意味どちらも同じ構造をもっているといえるとおもうんです。上の句は、(不気味からいい人までの)創世記下の句は、(訓練にしては鋭い)矢印だと、下五の名詞に上五中七が一気に修飾していき、結語で体言止めもしくは断定で終わるかたちになっています。でもこれら二句のおも...
【感想】懸賞にあたってもうてあまがさが二時間おきにとどくめでたしめでたしや 吉岡太朗
- 2014/06/11
- 22:42
懸賞にあたってもうてあまがさが二時間おきにとどくめでたしめでたしや 吉岡太朗【昔話のディスクールの波間に】すごい歌だと思うんです。懸賞にあたってまず傘が二時間おきに届くという状況が、すごい。傘というのは基本的に一本あれば事足りるわけですから、二時間おきに、一日に12本も届いても困るわけです。それはどういう傘かというと、すでに用途を放棄している過剰としての傘だとおもうんですよね。祝祭としての傘といっ...
【感想】姉をおくる 脣は ゆ が む 徳田ひろ子
- 2014/06/11
- 12:20
姉をおくる 脣は ゆ が む 徳田ひろ子【口(くちびる)を奪われた語り手】眼にした瞬間気になってしまう句だと思うんですが、なにが気になるかといえば、それは二点にまとめられるようにおもうんです。ひとつめは、唇が「脣」と常用漢字ではない「くちびる」が選択されている点。二点目は、どうあがいても試行錯誤しても定型にまったくおさまらない点。ひとつめの、「脣」に関していえば、語り手が「唇」ではなく、「脣」を...
【川柳】いままでのすべてのうそをもらう吽(うん)
- 2014/06/10
- 15:47

いままでのすべてのうそをもらう吽(うん) 柳本々々もらったりもらわれたりして家族です (『おかじょうき』2014年6月)【いま、そこにある、ファイナル・うん】題詠「貰う」で、選者の奈良一艘さんから佳作として選んでいただいた二句。俳句も川柳も575ではあるが、季語の有無によって俳句か川柳かが違う。季語というのは巨大な他者としてのシステムであり、そのシステムに参入しつつも、システムごとなんとか...
【川柳】「帰ったの?」押入に棲むひかるひと
- 2014/06/10
- 14:39

「帰ったの?」押入に棲むひかるひと 柳本々々 (『おかじょうき』2014年6月号)【話しかけては、ひかるひと】むさしさんから次のような評をいただいた。 柳本々々さん、なぜ押入に「ひと」が棲んでいるのですか。「帰ったの?」と聞くということは、そのひとは柳本さんを待っている。柳本さんとどういう関係があるひとだろう。そのひとはなぜ「ひかる」んだろう。「ひと」「ひかる」はなぜ平仮名なんだろう。ここからもう...
【感想】守田啓子さんと西原天気さんが食べるかき氷
- 2014/06/09
- 20:49
後継ぎはいないいちごのかき氷 守田啓子かき氷この世の用のすぐ終る 西原天気【生々流転するかき氷】575としての短詩型におけるかき氷とはいったいなんなのだろうかということを考えてみるのが今回の文章です。守田さんの川柳と西原さんの俳句をかき氷を軸にして並べてみてわかってくることは、なぜかかき氷が世代としての位相とともに語られているのではないかということです。守田さんの句でいえば、「後継ぎはいない」...
【感想】質問を変えます私好きですか ひとは
- 2014/06/09
- 19:29

質問を変えます私好きですか ひとは【この句からさらに質問を重ねてみる】川柳における口語の役割について興味がある。ひとはさんの上の句が前から気になっていてずっとかんがてえいたのだが、この句に実は口語体を選択することの大切なヒントがあるのかなと思うようになった。どういうことか。上の句は「ます」「ですか」といった口語体になっているのだが、575しかないなかで決してエコノミカルな文体とはいえない口語体を...
【短歌】花にもね…(『抒情文芸 第151号』2014年7月 佳作・小島ゆかり 選)
- 2014/06/04
- 15:05

花にもね幽霊がいてそこここにただ咲いている明滅してる 柳本々々 (『抒情文芸 第151号』2014年7月 佳作・小島ゆかり 選)【幽霊に/で/を、なる/ある/すること】以前、霊感の強いひとに、幽霊もつまずいて転んだりすることがあるんでしょうか、ときいたら、ああときどきは転んでますよね、といったのでびっくりしたおぼえがある。そのときわたしは、死後になっても、まだ、おっちょこちょいに気遣わなければなら...
【感想】ひらくもののきれいなまひる 門、手紙、脚などへまた白い手が来る 大森静佳
- 2014/06/04
- 07:31
ひらくもののきれいなまひる 門、手紙、脚などへまた白い手が来る 大森静佳【むすんで(ならべて)ひらいて】「門、手紙、脚」が並列化されていることに注目してすこし読んでみたいとおもいます。それぞれのひらかれた後のアクションをまとめると次のようになるのではないかとおもいます。門=ひらいて・入るもの(通過するもの)手紙=ひらいて・視るもの(読むもの)脚=ひらいて・行き止まるもの(ひらいても奥を抜けること...
【短歌】バイソンが…(毎日新聞・毎日歌壇2014年6月2日 加藤治郎 選)
- 2014/06/02
- 08:15

バイソンが交尾をしてる動物園デートは起承転(←いま・ここ) 柳本々々 (毎日新聞・毎日歌壇2014年6月2日 加藤治郎 選)【断裂しつつはあるが流れつつわたし】うえの短歌の場合、バイソンの交尾がシーンの主体になってしまい、そのことによって語り手の意識に「起承転」というシステムの流れの意識がうまれているとおもうんですが、システムのなかで流れるように生きざるをえないような瞬間があるのではないかと思っ...
【感想】恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の死 穂村弘
- 2014/06/01
- 08:13
恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の死 穂村弘【恋人の死を語るということ-おいキズキ、と語り手は思った-】とてもいろんな読解がなされている短歌なんですが、ひとまず定型にそって句分けしてみるとつぎのようになります。恋人の/恋人の恋/人の恋/人の恋人/の恋人の死こうして定型でわけてみてひとつ気づくのは、(の死)をのぞけば、ちょうど反転されるようなかたちで「人の恋」を軸にして対照をなしている点です。恋...