【感想】たてがみを失ってからまた逢おう 小池正博
- 2014/08/27
- 00:49
たてがみを失ってからまた逢おう 小池正博水牛の余波かきわけて逢いにゆく 〃【動物園で逢いましょう】〈逢う〉っていうのはけっこうむずかしいことばだとおもっていて、そもそも〈逢う〉そのものには辞儀的にはそれほど〈会う〉と意味の位相は変わらないようなんです。ところが、〈逢瀬〉や〈逢い引き〉といったように熟語の文脈から〈恋愛〉の枠組みが加味されているのがこの〈逢う〉ってことばのようにおもいます。で、こ...
【感想】コンビニの自動ドアにも気づかれず光として入りたくもなる 石井僚一
- 2014/08/26
- 00:09
コンビニの自動ドアにも気づかれず光として入りたくもなる 石井僚一【悲しい口舌(メディア)で、うたう/えない歌】短歌研究新人賞受賞作の石井僚一さんの連作「父親のような雨に打たれて」から一首です。はじめて読んだときになぜかこの一首がとても気になってたびたび思い返していたんですが、もういちど〈父親の喪失〉としての連作のなかで読み直してみてわたしなりに感じたことがあったので深読みになるかもしれませんが、感...
【感想】ギアチェンジする前に言ってもう好きじゃないとか終わりにしようとか、とか 嶋田さくらこ
- 2014/08/25
- 21:45
ギアチェンジする前に言ってもう好きじゃないとか終わりにしようとか、とか 嶋田さくらこ【ギアチェンジする恋と言辞】嶋田さくらこさんの短歌のひとつのおもしろさに、〈恋愛の多層化〉というものがあるように思うんです(嶋田さんの歌集タイトルは『やさしいぴあの』ですが、そもそも〈ぴあの〉とは音の多層性を奏でる装置です)。たとえば、うえの歌をみてください。結語に「、とか」が「とか/とか」にさらに重ねがけされる...
【感想】北山あさひ「グッドラック廃屋」-わたしの廃屋化-
- 2014/08/25
- 20:18
巨大なる会いたさのことを東京と思うあたしはわたしと暮らす 北山あさひ【ハロー、廃屋】北山あさひさんの短歌研究新人賞の連作「グッドラック廃屋」の感想です。この短歌がおもしろいのは、〈東京〉が再文脈化され、脱地政化されて、〈東京〉を遍在化させている点にあるのではないかとおもうんです。「巨大なる会いたさ」=「東京」なので、それは東京でなくてもいい。北海道でも、沖縄でも、ベルリンでもいい。そしてそれは〈...
【感想】このオレの入浴シーンを謎として見る猫アリス牝7ヶ月 工藤吉生
- 2014/08/25
- 18:15
このオレの入浴シーンを謎として見る猫アリス牝7ヶ月 工藤吉生【感情の特異点への感受性】以前からこの工藤さんの短歌について考えていたのですが、そんなときにこの短歌はたとえばデリダから考えてみるのはどうだろう、とおもいました。デリダが『自伝的動物』という本の「ゆえにわれあるところの動物」において、こんなふうに述べています。 私はよく自分に、ちょっと試しに、私は誰なのかと自問する。私は誰なのか、裸でい...
【感想】アサガオノカスカナカオススガシカオ 八上桐子
- 2014/08/25
- 13:31
アサガオノカスカナカオススガシカオ 八上桐子(週刊俳句・柳俳合同誌上句会)【〈文法〉とは、わたしが〈決め〉たこと】カタカナ表記ってなんだろう、とおもうんですが、カタカナ表記のひとつのポイントは、分節の破砕にあるとおもうんです。たとえば、アーティストに「スガシカオ」がいますが、「スガシカオ」というこのことばのポイントは、「スガ/シカオ」だけでなく、「スガシ/カオ」でもあり、「スガ/シカ/オ」で...
【感想】〈毎日歌壇〉という〈場〉のダイヴ-それは、ノーチラスなのか-
- 2014/08/25
- 13:06
【ゆるやかなメール・シュトローム】去年のちょうど年末から毎日歌壇に投稿させていただいているのだが(いちばん最初に投稿した歌が「ふゆの日のリア獣」というクリスマスに送った歌だった)、さいきん毎日歌壇をみていると、加藤治郎さんの〈場〉の編成=生成力といったものを感じることがある。そこには各回ごとに加藤さんが設定しているゆるやかなテーマによる連節があるようなのである。たとえばそれは〈恋情〉だったり、〈海...
【感想】フラワーしげる「二十一世紀の冷蔵庫の名前」-名前と、叛逆-
- 2014/08/25
- 12:36
棄てられた椅子の横を通りすぎる 誰かがすわっているようで振りむけない フラワーしげる【名前の格差の世界の周縁で】第57回短歌研究新人賞最終選考通過作の連作であるフラワーしげるさんの「二十一世紀の冷蔵庫の名前」の感想です。何だっけ映画に出てくる動物の名前 何だっけ動物の種類 何だっけ動物ってこの歌によくあらわれていると思うんですが、〈名前〉のぐるりを徘徊しつつも、その名前の〈内実〉にたどりつけず、む...
【感想】山本まとも「デジャ毛」-世界のそこかしこにあるデジャ毛-
- 2014/08/25
- 12:05
玄関を開けたら風が激しくて80円分くらいうれしい 山本まとも【デジャ毛的感性の生成】第57回短歌研究新人賞候補作の連作である山本まともさんの「デジャ毛」の感想です。この山本まともさんの連作に通底しているのは、〈かたち〉への〈気づき〉なのではないかとおもったんです。いろいろな形の鉢のいろいろの形に土がおさまっている土という内容物が、「いろいろな形の鉢」をとおして「いろいろの形」式をとる。そのときに大事...