【感想】金子兜太推奨の尿瓶(しびん)デパートの介護用品売場に鎮座す 奥村晃作
- 2014/10/23
- 00:01
金子兜太推奨の尿瓶(しびん)デパートの介護用品売場に鎮座す 奥村晃作【おしっこと私性】佐佐木幸綱さんにこんな指摘があるんです。古典和歌では、「ものを食う自分」「排泄する自分」は、絶対に歌の中に登場させない。近代になって物を食う歌、排泄する歌が作られるようになる。 佐佐木幸綱『角川短歌』2012年9月以前も感想文に書いたんですが、〈おしっこ〉っていうのは割と現代短歌においては重要な主題として出てきま...
【感想】囮鳴くあなたもきつとさうだらう 小津夜景
- 2014/10/22
- 19:51

囮鳴くあなたもきつとさうだらう 小津夜景わたしが誰か、あなたは知りたいと思っていることだろう。わたしはきまった名前を持たない人間のひとりだ。あなたがわたしの名前を決める。あなたの心に浮かぶこと、それがわたしの名前なのだ。 ブローティガン『西瓜糖の日々』【西瓜糖俳句によって書かれた西瓜糖感想文】小津夜景さんの「西瓜糖ほどの場所」からの一句です。ちなみにこの小津さんのタイトルにあ...
【感想】しろながすくじらのようにゆきずりぬ 小津夜景
- 2014/10/22
- 07:56

しろながすくじらのようにゆきずりぬ 小津夜景このリヴァイアサン[巨大な白鯨モービー・ディックを指す]に関して思いを巡らし、その思いを文字に写すというただそれだけのことで、俺は消耗しきって、失神寸前になってしまうのだから、友よ、俺の腕を支えていてくれ。何しろこの思いは果てしなく包括的な範囲にまで拡がらずには済まされないのだ。俺の思いは、科学の全領域と、鯨種と人類と巨象種の過去・現在・未来にわたる全世...
【感想】吉岡太朗『歌集 ひだりききの機械』の〈手書き〉の定型観
- 2014/10/22
- 00:16

吉岡太朗さんの〈手書き〉についてはずっと考えている。印刷文字メディアは無意識に〈きちんと〉した定型を前提とする。定型が印刷文字メディアの整然さに宿っているようにすら思うのだが、吉岡さんの溶解するような手書きにおいてはそうしたメディアの身体的無意識が浮き彫りにされているようにも思う。文字 対 マス目の1対1対応が崩れ、文字はもう一つの文字へと侵食し、分数的な文字のありかたが定型の印刷文字メディアによる...
【感想】マフラーの匂ひの会話してをりぬ 佐藤文香
- 2014/10/20
- 12:00
マフラーの匂ひの会話してをりぬ 佐藤文香【すべての〈わたし〉にマフラーを巻かす】短詩っていうのは、自分の〈場所〉が〈いま・ここ〉にしかないことを再帰的に確認し記述することなのではないか、ということをときどき思っていて、とくにこの佐藤さんの句にそのことがよく現れているのではないかとおもいます。この句には「会話」ということばがありますが、ここでこの句の語り手が確認しているのは、「会話」ということばを...
【感想】豊年の良寛の里コンバイン 永山華甲
- 2014/10/19
- 19:57

豊年の良寛の里コンバイン 永山華甲【コンバインから/への冒険】定型のおもしろさのひとつに、〈投げ飛ばす〉こと、〈いいっぱなし〉であることというのがあるように思っていて、そのひとつの例としてこの句をあげてみたいとおもいます。この句では下五に「コンバイン」といいきり、そこで定型として終わることによって読むひとによってはいろんな読みが展開できるとおもいます。農業機械のコンバインがゆっくりと動いていく叙...
【感想】エアコン大好き二人で部屋に飾るリボン 長嶋有
- 2014/10/19
- 13:48
エアコン大好き二人で部屋に飾るリボン 長嶋有夏シャツや大きな本は置いて読む 〃【アウトドア俳句とインドア俳句】〈室内俳句〉というカテゴリーの俳句があるのかなと勝手に思っていて、たとえば正岡子規の場合は病んでいたせいでやむなく〈室内俳句〉になったのかなとも思うんですね。だから「いくたびも雪の深さを尋ねけり」と〈外〉への志向と〈室内〉にいることの屈託がある。でもそんな子規の句からしてみると、この長...
【感想】もう追うな 回遊槽に銀色のさかなは廻りつづけていても 錦見映理子
- 2014/10/17
- 18:00
もう追うな 回遊槽に銀色のさかなは廻りつづけていても 錦見映理子【〈忠告〉の短歌化】水族館の回遊槽をみているとわかるんですが、〈どこにもいけない〉んだけれども、でも回遊しつづけることによって〈どこにもいけない〉場所を〈どこにでもいけるかもしれない〉場所として遅延しつづけているのが回遊魚だとおもうんです。だからこの歌から読みとれるのは、「追う」という行為がそういった〈どこにもいけない〉場所なのに〈...
【感想】「昔のコンクリートは気合い入っとる」母は原爆ドーム見て言う 松木秀
- 2014/10/17
- 12:01

「昔のコンクリートは気合い入っとる」母は原爆ドーム見て言う 松木秀【メッセージ化しえない関係性】奥田亡羊さんがこの松木さんの歌に対しては『短歌年鑑平成23年』においてこんなふうに評しています。「原爆ドームの歌を不謹慎だと怒るのはあまりい読み方ではない。「青柳町」の歌も同じだが、対象を違う文脈にのせかえ、それまでの存在意義を無化しているのだ」。この松木さんの短歌からわたしが思ったのは、短詩、それは短...
【感想】どの虹にも第一発見した者がゐることそれが僕でないこと 光森裕樹
- 2014/10/17
- 12:00
どの虹にも第一発見した者がゐることそれが僕でないこと 光森裕樹【第一発見者ではないが第一人者になるということ】この歌ってとても不思議な歌で、意味内容としては〈「僕」でないひとたちのすべて〉=〈「僕」を省いたすべてのひと〉のことが歌われているんですが、意味の形式としてはここにいるのは「僕」だけであり、「僕」以外には誰もいないというふしぎな〈僕〉倒錯の歌になっています。どうしてそんなことが、起きたの...