【川柳と絵】みみもとみみもと『川柳マガジン』2015年9月号掲載作
- 2015/08/31
- 21:20

トンネルのなかで耳元ためしあう 柳本々々 (新鋭柳壇・題「耳元」・赤松ますみ 選・特選)【赤松ますみさんからの選評】「えっ?」と思わず立ち止まってしまった一句。「ためしあう」からさまざまなシーンが連想できておもしろい。想像力を“ためされる”のは読者である。 *22番地に落とされる子・子・子・子 柳本々々 (印象吟・片岡加代 選・佳作) *箱座りできない猫を箱に置く 柳本々々 (川柳画ミ...
【川柳連作と散文】「2020年の啄木忌」『川柳の仲間 旬』201号・2015年9月号掲載作
- 2015/08/31
- 21:05

球根を持ったまま出る啄木忌だあれだと弥勒菩薩の手ですね2020年にきみの手をけなす『東京日記』に見切れて映る啄木瀕死の啄木にカロリーメイトを頬張らせる少女革命、と最後に口にした啄木啄木の手だけが展示されている機械化がほどこされてる「ぢつと手をみる」『ローマ字日記』のNはのびのび太マスオさんが着るABC浴衣 啄木忌 「2020年の啄木忌」2020年以前にも「ぢつと手をみ」ていたが、2020年を超えるまさに...
【短歌】たこめし…(毎日新聞・毎日歌壇8月31日・加藤治郎 選)
- 2015/08/31
- 07:44
たこめしたいむましんたこめしたいむましんうたう木下龍也をみていた 柳本々々 (毎日新聞・毎日歌壇8月31日・加藤治郎 選)【たいめしたいむましん、としての記憶の方舟】ととととライブのときを詠んだもので、木下さんがうたわれていた朗読ラップは「鯛めしタイムマシン(たいめしたいむましん)」だったのですが、そのときわたしは木下さんがうたうのを聴きながら闇のなかでふっと未来彼方に蛸飯が回転しながら燦然と光り...
【川柳・連作】「最後まで真顔」『おかじょうき』2015年8月号掲載作
- 2015/08/27
- 21:29

かみさまと名乗ったしゅんかん捨てられる らりるれろ抜ければ青い森へ出る たましいとクッションの差がわかる夏 最後まで真顔でしゃべる人面犬 ふろしきをひろげた俺を見てしまう 柳本々々「最後まで真顔」『おかじょうき』2015年8月号 *むさしさんから次の評をいただきました。ありがとうございました!かみさまと名乗ったしゅんかん捨てられる 柳本々々「かみさま」=「神様」でしょうね。違うかな…。神...
【こわい川柳 第七十九話】しいたげられるもなか-石田柊馬-
- 2015/08/27
- 12:00
縄跳びをするぞともなかは嚇かされ 石田柊馬【サド/マゾともなか】『セレクション柳人 石田柊馬集』からの一句です。柊馬さんの句集には〈食べ物〉がたくさん出てくるのも特徴的なんですが、ほぼしいたげられているのも特徴的です。たべものは、柊馬さんの川柳空間においては、たべるものではなく、しいたげるもの、被虐的なものなのです。で、そのなかでももっとも虐待をうけているのが〈もなか〉です。先頭になるのを恐れて...
【感想】これがハイスピードカメラで記録した好きだと思い込む瞬間です 鯨井可菜子
- 2015/08/27
- 01:00
これがハイスピードカメラで記録した好きだと思い込む瞬間です 鯨井可菜子 写真はますます近代化し、その結果、今や共同住宅やゴミの山を撮影すれば必ずそれらを変貌させることになる。川や電線ケーブルは言うまでもないわけで、これらの前で、写真は今は「なんと美しい」と言うばかりである。 ベンヤミン「生産者としての作家」【しゅんかんは、ながい。】鯨井可菜子さんの『歌集 タンジブル』からの一首です。岡野大嗣...
【感想】おだやかに間違えてゆくひとたちと急に間違えるひとがいるだけ 松木秀
- 2015/08/26
- 20:24
おだやかに間違えてゆくひとたちと急に間違えるひとがいるだけ 松木秀【ひとは短歌を詠むと何キロカロリー消費できるか】今週の毎日歌壇・加藤治郎欄から松木さんの歌です。さいきん短歌におけるカロリーが気になっているんですが、この歌って〈カロリー=熱量〉をめぐる歌なんじゃないかとおもうんです。もちろん、読み方によってはこの歌は政治的な歌としても読めるし、人生のなかの日常的なひとこまの歌としても、読める。だ...
【感想】まだ間に合う夏のじゆうけんきゅう「短歌・川柳における〈換気〉問題-かんきのふしぎ-」
- 2015/08/26
- 12:30
換気扇の中から電車の音がする不思議な部屋に棲み始めたり 前田康子換気扇で“科学的”を追い払う 石田柊馬そのほかに除霊もできる換気扇 荻原裕幸【私の自由研究2015-かんきのふしぎ-】以前からきょうみをもって考えていたことに、短詩のなかの〈換気〉というものがあります。これはそもそも柳誌『ねじまき』における荻原さんの〈換気〉の句が印象的だったので、ずっとじぶんのなかでこだましていた問題です。で、さいき...
【こわい川柳 第七十八話】ささやかれるぜったい-石田柊馬-
- 2015/08/26
- 12:00
杉並区の杉へ天使降りなさい 石田柊馬【恐怖の形式】『セレクション柳人2 石田柊馬集』からの一句です。柊馬さんの有名な句に妖精は酢豚に似ている絶対似ている 石田柊馬というものがあります。これはいろんな解釈ができるとおもいますが、ひとつは、〈認識〉をめぐる句だということができるとおもうんですね。〈絶対的主観〉としての〈認識〉の句です。それは間違っているかもしれない。くつがえされるかもしれない。反証...
【感想】懸命にさがす昭和の句読点 佐藤古拙
- 2015/08/25
- 12:30
懸命にさがす昭和の句読点 佐藤古拙【言説の句読点を、ズラす】古拙さんの句集『人畜無害』からの一句です。佐藤卓己さんの『八月十五日の神話:終戦記念日のメディア学』などの研究からさいきんよくいわれるようになったことでもあるんですが、なぜ〈日本人〉は〈終戦記念日〉の〈8月15日〉から〈アジア=太平洋戦争〉を考えつづけるのか、という問題があります。〈戦後70年〉もそうなのだけれど、〈終戦記念日〉に「句読点」を...
【感想】はつなつになる方法がひとつある 近恵
- 2015/08/25
- 12:00
はつなつになる方法がひとつある 近恵【自信過剰な秘密主義者たち】この句に対して六番町さんが「ほほう。自信家のうえ秘密主義。」(「創刊6周年記念誌上句会 【法】」)と評されていて、すごくおもしろい寸評をなさるなとおもったんですが、じつはこの寸評が的確にそっくりあてはまるのが川柳界にもあってですね、これじゃないかと、わたし、おもったんですよ。まだ言えないが蛍の宿はつきとめた 八木千代近さんの句の語...
【こわい川柳 第七十七話】うみおとす-現代川柳の〈産む〉をめぐって-
- 2015/08/24
- 12:00

産の上にて身まかりたりし女、その執心このものとなれり。その形、腰より下は血に染みて、その声、をばれう、をばれうと鳴くと申しならはせり。 『百物語評判』【私は生まれなおしている、とスーザン・ソンタグは言った】今回お話してみたいのは、川柳のなかの〈産む〉という行為はひじょうにどくとくだという話です。もっといえば、川柳のなかでは〈誰か〉を〈きちんと〉産むことはできない。産むことは〈ノイズ〉をめぐる行為...
【短歌】タケコプター…(毎日新聞・毎日歌壇8月24日・米川千嘉子 選・特選)
- 2015/08/24
- 08:00

タケコプター無いから君に会うまでを噛み締めているホモ・エレクトゥス 柳本々々 (毎日新聞・毎日歌壇8月24日・米川千嘉子 選・特選)【米川千嘉子さんの評】逢いたい人の元へすぐ飛んで行けないからこそ、思いを育めるのかも。直立歩行するヒトになった時代から。【体育座りする最終回】ドラえもん最終話といわれている「さよならドラえもん」の最終コマでなぜのび太がすわっているのか、体育すわりをしているのかをときど...
【感想】おふとんも雲南省も二つ折り なかはられいこ
- 2015/08/24
- 01:00

おふとんも雲南省も二つ折り なかはられいこ【不健全は、希望】『週刊俳句』のなかはられいこさんの「テーマなんてない」からの一句です。御前田あなたという人間の絵川柳ってどこから始まっているかっていうと、なかはられいこさんのこの句をふっと描いてみたところから始まってるんです。行かないと思う中国も天国も なかはられいここの句はもともと好きな句で、まず〈不健全〉なのでいいなとおもっていたんですね。天国に...
この国ではひざにねむりこんで書くあとがき
- 2015/08/23
- 21:23

安福望さんに猫と膝をめぐる短歌を絵にしていただきました。ありがとうございました!やすふくさんの絵は、こちらです。やすふくさんの絵は短歌をそのまま〈解釈〉していないところがすてきだなとおもうんですね。だから「短歌の絵」ではなく「短歌と絵」になっているとおもうんです。やすふくさんが描かれる短歌はゆめやねむりをめぐる短歌がおおかったりもしますが、ゆめやねむりは、それそのものが解釈として限定できないものが...
【感想】ラジオより流れる呪文死になさい 石部明
- 2015/08/22
- 21:50

ラジオより流れる呪文死になさい 石部明【生き延びるための川柳入門-不健全は、たくましい。-】どうしてじぶんは川柳につかまっちゃったんだろう、どうしてじぶんは川柳に魅力をかんじたんだろう、どうしてじぶんは川柳にときどき勇気づけてもらえるんだろう、ってかんがえたりすることがあるんですが、ひとつはっきりといえるのは、わたしにとっては川柳が〈不健全〉だったから、じゃないかとおもうんですね。〈不健全さ〉を...
【感想】おかあさん白線ちゃんとわたろうとしたよ白線わたろうとした 遠野真
- 2015/08/22
- 00:13

おかあさん白線ちゃんとわたろうとしたよ白線わたろうとした 遠野真【横断と水着】第58回短歌研究新人賞受賞作「さなぎの議題」からの一句です。遠野さんの連作のいちばんさいごにある歌がこのうたなんですが、きょうたまたま山田露結さんのこんな句についてかんがえていたんです。水着に始まり水着に終る雑誌かな 山田露結露結さんの俳句の空間のなかでは〈くりかえし〉という意味のプロセスが句になっていることが多いんで...
【川柳】きりんの…(はじめの一歩句会・題「音」)
- 2015/08/21
- 21:04
きりんの第二関節で鳴る音色 柳本々々 (はじめの一歩句会・題「音」・奈良一艘・徳田ひろ子 選)今回は、奈良一艘さん、徳田ひろ子さんから選と選評をいただきました。ありがとうございました!【一艘さんの選評】第二関節ってあの指をボキボキ鳴らすとこでしょ。でもキリンの第二関節ってどこですか?これって、単なる身体的な物差しではありませんよね。心象的物差しと受け取りました。ふーむ、面白くてとても不思議な...
【短歌】この国で…『短歌研究』2015年9月
- 2015/08/21
- 20:59

この国でわたしはおもに猫だからあなたの膝にとても詳しい 柳本々々わたしには文体がないと泣く君のなみだが話すレトリック入門 〃 (第五十八回 短歌研究新人賞予選通過作) *真夜中に細胞分裂する音をひとりきいてるしろながすくじら 柳本々々 (短歌研究詠草・高野公彦 選)...
【感想】だいじょうぶ、昨日さんまさんもそう言ってた。 巻民代
- 2015/08/21
- 20:16

だいじょうぶ、昨日さんまさんもそう言ってた。 巻民代【あたしのさんまさんと俳句をめぐって】〈巻民代/外山一機〉という表現主体をかんがえるときにひとつこんなことばがとっかかりになるのではないかとおもうんですね。 巻民代は外山一機の別称です。…思えば、外山一機の名で発表していた作品の裏側に、袋小路へと入っていくことを是とする人間の見せるあのいやらしい顔つきがちらつき始めたのは、『新撰21』刊行以後...