【感想】入れることうなずく妻がわれに背をむけて遠くへ差し置くめがね 久真八志
- 2015/10/26
- 20:15

入れることうなずく妻がわれに背をむけて遠くへ差し置くめがね 久真八志赤茄子の腐れてゐたるところより幾程もなき歩みなりけり 斎藤茂吉【眼鏡と赤茄子】加藤治郎さんが「独特の生々しさをもった性愛の歌」と評されていた歌なんですが、この歌の「遠くへ差し置くめがね」という〈距離感〉がおもしろいなとおもったんですね。〈視覚〉を分割するというんでしょうか。で、ちょっとあわせて読んでみたいのがこの茂吉の有名な赤...
【感想】たぶん今ニトリに行ったら吐く 風が動いて他人を抱く他人は 北山あさひ
- 2015/10/26
- 19:11

たぶん今ニトリに行ったら吐く 風が動いて他人を抱く他人は 北山あさひあかねさす IKEA へゆこうふたりして家具を棺のように運ぼう 岡野大嗣【まだ発明されたことのない感情】現代短歌から〈家具屋さん〉をめぐる二首をあげてみました。この二首から思うのが、〈家具〉が〈家具〉として機能しなくなっているんじゃないかっていうことなんです。栗木京子さんがこのあさひさんの短歌の「ニトリ」を「ファミリーの象徴」と指摘...
【短歌】窓にある…/ウィンドウズ…(「第四六三回 公募短歌館・加藤治郎選・特選/香川ヒサ選・秀逸」『角川短歌』2015年11月号)
- 2015/10/24
- 20:17

窓にあるきみの指紋を消せないで今回の生を終える気がする 柳本々々 (「第四六三回 公募短歌館・加藤治郎選・特選」『角川短歌』2015年11月号)ウィンドウズ150くらいになったら逢おうよっていわれてる午後 柳本々々 (「第四六三回 公募短歌館・香川ヒサ選・秀逸」『角川短歌』2015年11月号) *加藤治郎さん、香川ヒサさんからていねいな選評を頂きました。ありがとうございました。【加藤治郎さんから頂いた...
【短歌】長葱が…(「短歌研究詠草 佐佐木幸綱 選・佳作」『短歌研究』2015年11月号)
- 2015/10/24
- 10:57

長葱がシュバッと抜き身になっていて兜割りされわたしが終わる 柳本々々 (「短歌研究詠草 佐佐木幸綱 選・佳作」『短歌研究』2015年11月号) *痙攣する日付のたうつ日付たち日付が死ぬ日人も死ぬだろう 佐佐木幸綱...
【こわい川柳 第九十七話】はんぶんはあっち-倉本朝世-
- 2015/10/24
- 09:32

山田さんの靴を片方持っている 倉本朝世記憶とは、新しい事件に出会うたびに総体が大きく組み変えられる一つの生きものである 中井久夫「心的外傷寸感」【記憶のシンデレラとVUE(未知の暴力的出来事)】過去の記憶や思い出って不思議なものだとおもうんですけど、なにか新しいことがあるたびに意味合いが変わってくるんですよ。だから〈それ〉だけを記憶したり思い出したりしているわけではなくて、全体の変動しつつある...
【感想】妹が五月姉が七月出産す 城後朱美
- 2015/10/24
- 00:30

妹が五月姉が七月出産す 城後朱美誰に打ち明けたらいいのでしょう? 誰に訴えたらいいのでしょう? 誰と一緒に喜んだらいいのでしょう? 人間は誰かをしっかりと愛していなければなりません。 チェーホフ『三人姉妹』【ひとはみなワーニャ叔父さん】『おかじょうき』2015年9月号から朱美さんの一句です。この朱美さんの句のひとつのおもしろさは、クールにシステムのなかの〈わたくしごと〉を描いている点なのではないか...
【川柳】こんにゃくと気もち(はじめの一歩句会・題「気」)
- 2015/10/24
- 00:00

こんにゃくは花束のような気がします 柳本々々 (はじめの一歩句会・題「気」・朱美、一艘、ひろ子、しんのすけ 選)【朱美さんから頂いた選評】うんうん。そうだねこんにゃくの気持ちがわかるよ主役にはなれないこんにゃくにスポットライトあててあげよう【一艘さんから頂いた選評】第18回杉野土佐一賞大賞、竹内ゆみこさんの「こんにゃくの素質も少しおありです」を思い出してしまった。ぷるぷるしてて一見つかみ所の...
【感想】戦争・藤木清子・ボディ-或いは現代俳句と刑事フォイル-
- 2015/10/23
- 06:00

戦死せり三十二枚の歯をそろへ 藤木清子ひとりゐて刃物のごとき晝とおもふ 〃しろい晝しろい手紙がこつんと来ぬ 〃晝寝ざめ戦争厳と聳えたり 〃【戦争と固形物】いまNHKBSで『刑事フォイル』がやっていますが、この第二次世界大戦さなかのイギリスに時代設定された『刑事フォイル』の基本的なテーマは、戦争の大量死とそのなかで起こる個人的な殺人事件の〈固有死〉をめぐるものだとおもうんですね。戦争でたくさんひ...
【こわい川柳 第九十六話】もう一度くるさようなら-重森恒雄-
- 2015/10/22
- 01:00

もう一度蹴られる場所に腰かける 重森恒雄【何度でもするさようなら】前からちょっと不思議だったのが川柳ってさよならとかお別れの雰囲気を出している句が多いんですね。で、よく俳句って挨拶の文芸と言われたりもしますよね。すごくそっけない句がとてもよいといわれるのはそういう〈挨拶性〉があるからだとおもうんですね。だって、たとえば、学校や職場で毎日会う人から、こんにちは、を毎日劇的に言われたらいやじゃないで...
【感想】ディズニーシー日本国家の骨密度 竹内ヤス子
- 2015/10/22
- 00:30

ディズニーシー日本国家の骨密度 竹内ヤス子【虚構をめぐる冒険】以前、80年代頭に生まれたさんにんとして岡野大嗣さん、安福望さん、わたしの三人でお話させていただいたときに(ちなみにスタッフとして一緒にやってくださった牛隆佑さんもおなじ世代です)、80年代初頭に生まれた人間っていうのはどういう時代を生きてきたんだろうって考えてみたことがあるんですが、ひとついえるのは、80年代初頭っていうのは〈巨大な虚構〉...