【ふしぎな川柳 第三十一夜】ああ鬼だ-中村冨二-
- 2015/11/24
- 12:30

立ち上がると 鬼である 中村冨二二百とは脱げてしまった靴である 榊陽子【二百とは鬼である】短詩のなかの「デアル形」ってちょっとふしぎなんですね。「である」っていうのは〈断定〉ですから、まずそう言われてしまったらこちらが何かを切り返す余裕がないという質感があります。たとえば榊さんの句で「である」と言われてしまったので「二百ってなんですか?」と聞く余裕はありません。それはわたしたちが自分で考えなけ...
【ふしぎな川柳 第三十夜】どどどどどどどどど-小池正博-
- 2015/11/24
- 12:00

襖絵の檜がどどどっと倒れる 小池正博家娘(いへむすめ)電話に出むとどどどどと階段くだる象かとおもふ 小池光【擬音ハイパークリエイターになるために】石田柊馬さんが小池さんの句集のタイトルになぞらえて小池さんの川柳をこんなふうに評されているんですね。『水牛の余波』という小池の句集の表題が近景と遠景と意識の及ぶ時間を示唆しており、遠近の双方が響き合う手法に、伝統的な問答体の書き方が活かされている。 ...
【感想】忘れられやすい去りかた企てる いわさき楊子
- 2015/11/24
- 06:00

忘れられやすい去りかた企てる いわさき楊子よしや人情を写せばとて、其皮相のみを写したるものは、未だこれを真の小説といふべからず。其骨随を穿つに及びて、はじめて小説たるを見るなり 坪内逍遥『小説神髄』【企てられたさようなら】いわさきさんの句集『らしきものたち2014』からの一句です。川柳は〈さよならの文芸〉なんじゃないか、と以前ちらっと書いたんですが、それは川柳がほかの文芸とはちがったかたちで〈私性...
【ふしぎな川柳 第二十九夜】100000を超える-兵頭全郎-
- 2015/11/21
- 08:01

レフェリーの10万カウント過ぎの声 兵頭全郎【十万キロの隣人】『川柳結社ふらすことてん』42号2015年11月からの一句です。全郎さんの川柳をみていて思うのが、全郎さんの川柳に向かい合うときにたぶんふつうの意味論や記号論では太刀打ちできないというか読み解けないとおもうんですよね。別の言い方をすれば、全郎さんの川柳っていうのはそういうふうにつくられている川柳だということもできます。川柳を解釈するひとつの方法...
【ふしぎな川柳 第二十八夜】 UFOは終わらない-くんじろう-
- 2015/11/21
- 06:47

空からはきっとUFOしか来ない くんじろう【オカルトの代数学】『川柳北田辺62号』2015年11月から、くんじろうさんの一句です。木原善彦さんの『UFOとポストモダン』という本や、一柳廣孝さんの一連の〈学校の怪談〉や〈オカルトブーム〉に関する仕事をずっとみていて思っていたことではあったんですが、UFOってたぶんなによりも〈言説〉としてあるとおもうんですよ。つまり、UFOっていうのは〈みた/みてない〉という視覚が...
【感想】フェリーニの大田区秋鯖買う夫人 近藤十四郎
- 2015/11/21
- 06:10

フェリーニの大田区秋鯖買う夫人 近藤十四郎【フェリーニの枕草子】じぶんにとってフェリーニ映画ってなによりも〈いかがわしさ〉、手間をかけた〈いんちき〉にあると思っているんですね。で、これはルカーチの虚偽意識に近いのかなあってちょっとおもうんですが、それがいんちきだとわかってるしいかがわしいとも自覚しているけれど、でもそれをやってしまうそのなかにいるんだというようなそういう〈虚偽意識〉への駆り立てを...
【ふしぎな川柳 第二十七夜】真夜中の逆上がり-藤田めぐみ-
- 2015/11/21
- 00:00

流星になる真夜中の逆上がり 藤田めぐみ (「週刊俳句 春のすごろく」)逆上がりするときに出る百舌の声 いわさき楊子【統覚をずらすぐるぐる】川柳が〈逆上がり〉のことを〈好き〉なのってなんとなくわかる気がするんですよ。もちろんたぶん5音だから好きだていうのもあるだろうし、そういう音律だけでなくて、〈逆上がり〉という世界の統覚を崩す運動ってとても川柳的なきがするんですね。たとえば、藤田さんの句だ...
【ふしぎな川柳 第二十六夜】羊のフォルムで-前田一石-
- 2015/11/20
- 07:15

タイムカードを打つあくまで羊のフォルムで 前田一石いつもより正しくつなぐ月曜日つながるためにはたらいている 法橋ひらく「働く意欲」によって両者を分かつ分割線は、そんなに強固なものなのだろうか。生の可能性を縮減されるただなかで、「でも働くしかない」と思うことと「もう働けない」と思うこと、あるいは「働きたいと思い、体が動くこと」と「働きたいと思っても、体が動かないこと」とのあいだには、いかなる違い...
【感想】約束は《いま・ここ》の反故イワシグモ 小津夜景
- 2015/11/20
- 07:00

約束は《いま・ここ》の反故イワシグモ 小津夜景アルチュセールが起源の不在を言ったように、いかなる方法論も相対的な価値しか持ちえないのではないでしょうか。 小嶋菜温子『女性作家《現在》』おふくろよ、わしの宿命のベンディシオン・アルバラドよ、もう百年になるんだいや驚いた、もう百年たったんだ、 光陰矢のごとしというが マルケス『族長の秋』【長い歳月が流れて銃殺隊の前に立つはめになったとき、恐らくア...
【ふしぎな川柳 第二十五夜】大いなる困惑-内田万貴-
- 2015/11/19
- 23:18

ポストです鳥の行方を聞かれても 内田万貴赤いポストがある。「ああ、赤いポストだ」と思っている人間の脇で、世界中の他の人間が「いや、このポストは青だよ」と言えば、赤いポストだと思う人間の気は簡単に狂わすことが出来る。創作にのぞむ時の状態は、この時、それでもこのポストは赤いと言い張ることに似ている。 岩松了 【大いなる困惑】清水かおりさん発行の『川柳木馬』146号から内田さんの句です。川柳のひとつの主...