【感想】会わなくても元気だったらいいけどな 水たまり雨粒でいそがしい 永井祐
- 2016/01/13
- 23:36

会わなくても元気だったらいいけどな 水たまり雨粒でいそがしい 永井祐A×B→C、の形を近代の文芸用語では「二物衝撃」という。昔の言葉では取り合わせ・配合。発句で切れ字や切れを使うと取り合わせ、二物衝撃的になるのだ。 普川素床『文芸オクトパス』【授業中の落書きはすべて短歌になる】さいきん短歌について考えていたときに、短歌って〈意識の逸脱〉とけっこう関係があるんじゃないかなって思ったんですね。授業中...
【感想】心音のリズムも熱も知っていて今なにをしているか知らない 千原こはぎ
- 2016/01/13
- 00:01

心音のリズムも熱も知っていて今なにをしているか知らない 千原こはぎ世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ… 『更級日記』【わたしの今とわたしから逃れ去った今】この歌を読んだとき私が感じたのが〈短歌〉っていう形式は〈いま〉を逃してしまうものなのかもしれないな、っていうことです。もっというと、〈いま〉の逃してしまった〈いま〉を歌うものなのかな、ともおもうんですね。「心音のリズム...
【ふしぎな川柳 第六十四夜】修正主義者の集い-安藤なみ-
- 2016/01/12
- 00:05

「も」が消えてやせないゴミとやせるゴミ 安藤なみ赤ペンで修正できる熊野古道 〃【集会会場いっぱいの赤ペン先生】川柳って〈修正主義者の集い〉なのではないかと思うことがあるんですね。だけれども、たとえば歴史の修正が〈解釈〉=言葉によって行われるのとは違って、川柳においては言葉(書かれ・語られるもの)とモノ(書かれ・語られるモノ)を往還しながら〈修正〉されるのが特徴的です。「も」が消えるといった言語...
【感想】その町にいればどこからでも見れるでかい時計の狂ってる町 伊舎堂仁
- 2016/01/11
- 06:00

その町にいればどこからでも見れるでかい時計の狂ってる町 伊舎堂仁家中の時計がぜんぶ少しずつずれている。針の音が刻む波 常楽みちる【キキとキヅキは死ぬまでその町で暮らした】こないだ季語の「去年今年」をめぐる記事でも書いたこととも関連しているんですが、さいきん新聞歌壇でも〈時空〉がゆがんでいる短歌がみられるんじゃないかって思うんですよ。たとえば日経歌壇の短歌で、これは長野県の短歌の大会でも穂村弘さ...
【ふしぎな川柳 第六十三夜】むくむくとした時間-青砥和子-
- 2016/01/09
- 00:00

ピリオドを打つとむくむく出てくる無 青砥和子エプロンをぱさりと置いて春を追う 〃岩肌からぽろぽろ落ちてゆく谺 〃【いっしょにいたい、を訳しなさい】青砥さんの川柳連作「むくむく無」でちょっと考えてみたいのが、川柳における擬音です。上の句でいうなら、「むくむく」や「ぱさりと」「ぽろぽろ」です。で、川柳における擬音っていうのはなにかっていうと、語り手がそのモノやコトに向き合っている〈時間〉そのもの...
【お知らせ】「【短詩時評 十席目】新春一首徹底対談 法橋ひらく×柳本々々-柳谷あゆみを、今、連打する-」『BLOG俳句新空間 第34号』
- 2016/01/08
- 07:30
『 BLOG俳句新空間 第34号』にて「【短詩時評 十席目】新春一首徹底対談 法橋ひらく×柳本々々-柳谷あゆみを、今、連打する-」という記事を載せていただきました。『BLOG俳句新空間』編集部にお礼申し上げます。ありがとうございました!お時間のあるときにお読みくだされば、さいわいです。今回は、2016年の今いちどきちんと取り上げてみたい歌人の方をとりあげてみようという考えから、柳谷あゆみさんの短歌一首を、歌人の法橋...
【感想】ひとりずつスプーンとなってゆく二月 小倉喜郎
- 2016/01/08
- 00:30

ひとりずつスプーンとなってゆく二月 小倉喜郎【理由は、ない。急がねば】小倉さんの句集『急がねば』からの一句です。この句集の跋文も書かれている坪内稔典さんの帯文がこの句集の質感を的確に一文にまとめられていると思うんですが、「要するに、不思議にしておかしいのである」と。ほんとうに、そうだと思うんですよね。小倉さんの俳句は、ふしぎにしておかしい。だからちょっとその点、ふしぎな現代川柳に近いんです。川柳...
【感想】ぼたん雪ふる日をマスクしてゆけばすこし自分が大事と思へ 米川千嘉子
- 2016/01/08
- 00:00

ぼたん雪ふる日をマスクしてゆけばすこし自分が大事と思へ 米川千嘉子子供より親が大事、と思いたい。子供よりも、その親のほうが弱いのだ。 太宰治「桜桃」おしまいには、私もポオズをつけてみたりなどした。バルザック像のようにゆったりと腕組みした。すると、私自身が、東京名所の一つになってしまったような気さえして来たのである。東京名所は、大きい声で、「あとは、心配ないぞ!」と叫んだ。 太宰治「東京八景」...
【ふしぎな川柳 第六十二夜】音と罰-米山明日歌-
- 2016/01/07
- 12:00

罰として「ど」の音だけを聞かされる 米山明日歌【特徴のない罰】八上桐子さんが解説されていて、あ、そうなのか、って思ったんですが、「ど」って「音階の中では唯一の濁音」なんですよね。あとは「れ」とか「そ」とか「し」になる。あと考えてみると、「ど」れみふぁそらし「ど」で「ど」がもういちどひとまわりしてくるのも特徴的ですよね。で、そんなふうに「ど」をとらえていくと、「ど」の最大の意味っていうのは、他の音...
【ふしぎな川柳 第六十一夜】完璧な半券-八上桐子-
- 2016/01/07
- 01:33

植物園の半券に似たおわり 八上桐子弟はあの病室のあのベッドの上で、いつでも完璧に穏やかで、完璧に優しかった。弟の首筋は完璧に滑らかで、弟の吐く息は完璧に透明だった。だからよけいに、哀しい。わたしは発作に襲われるように、何度も何度も繰り返し、哀しんでいる。 小川洋子「完璧な病室」目新しいものを書こう、などと思う必要はないかもしれない。人間は長い年月、同じことを繰り返し書いてきた。自分もその繰り返...