【感想】雨の日は、椎名林檎と珈琲とアフリカの本で神保町に いとうそらこ
- 2016/02/21
- 10:00

雨の日は、椎名林檎と珈琲とアフリカの本で神保町に いとうそらこ【生の文法】たしか加藤治郎さんの欄の毎日歌壇の一首からメモした短歌だと思うんですが、「椎名林檎と珈琲とアフリカの本」と「神保町」という組み合わせがすごくパワフルでおもしろいなと思いました。つまりなんというでしょうか、すべての名詞のそれぞれが短歌一首にひとつくらいで十分な質量をもっている濃厚な名詞だと思うんですね。たったひとつ入ってくる...
【ふしぎな川柳 第七十八夜】ゆめのりんかく-月波与生-
- 2016/02/21
- 08:37

この先の夢はむかしもみたような 月波与生【夢をみている私は私をみている夢にみられる】夢ってたぶん誰もが毎日行っているひとつの〈表現〉だとはおもうんですね。この「表現」って言葉はいま、《理屈がいまいちわからない表出》という意味でつかってみたんですが、夢ってこれだけ毎日みているのにぜんぜん理屈や構造がつかめない。形式的〈りんかく〉がよくわからない。だからおなじ夢をリピートしようとしてもなかなかむずか...
【感想】元彼や LINE にゐなくなつても好き 佐藤文香
- 2016/02/21
- 07:49

元彼や LINE にゐなくなつても好き 佐藤文香此の河は絶えず流れゆき/一つでも浮かべてはならない花などが在るだろうか/無い筈だ/僕を認めてよ 椎名林檎「月に負け犬」【フローする俳句】『しばかぶれ』の「ヒビのブブン」から佐藤さんの一句です。この『しばかぶれ』、中山奈々さんの特集が奈々さんをめぐる旧作(文香さん選)・新作・小論・しばかぶれメンバーによる奈々さんの一句鑑賞・エッセイ・年表・ブロマイドなど...
【感想】落ちてきた君は重たし星月夜 佐々木貴子
- 2016/02/20
- 01:00

落ちてきた君は重たし星月夜 佐々木貴子【天空の俳句】わたしは『天空の城ラピュタ』を観るたびにいつも貴子さんのこの句を思い出すんで、かってにこれは〈ラピュタ俳句〉だと思っているんですが、下五の「星月夜」という季語によってもういちど上昇するというか、空へ重心がうつるのがいいなと思うんですね。考えてみると、ラピュタも〈落ちる→上る〉という巨大なベクトルをなぞったアニメなんですよね。上っていくと次々シー...
なまえのふしぎ-あなたが初めて呼ばれ振り返るとき-
- 2016/02/20
- 00:10
かつて西原天気さんが「(いままったく関係のないことを思った。俳句では「下の名前」で呼ぶのが一般的だったはずなのに、その伝統は薄らいでいる。私も「紗希さん」「秀彦さん」と書かなかった)」と書かれていてとても興味深くおもったことがあるんですが、この《苗字で呼ぶか、名前で呼ぶか》というのは短歌・俳句・川柳をめぐってはけっこう独特なのかなっておもうんですね。その境界線ってどうなっているんだろうと。たとえば...
【感想】対岸で手をふっている人がいるこちら側には僕しかいない ながや宏高
- 2016/02/19
- 08:00

対岸で手をふっている人がいるこちら側には僕しかいない ながや宏高【いつか本気で手を振る日】『かばん新人特集号』2015からながやさんの一首です。このながやさんの歌わたしはとても好きなんですが、短歌のなかの〈ためらい〉ってなんだろうって思ったんですね。短歌って31音の定型なのでほんとうはためらっている〈ひま〉なんてないんじゃないかと思うわけですよ。31音しかないのだから、「対岸で手をふっている人がい」たら...
【ふしぎな川柳 第七十七夜】相対地獄から-清水かおり-
- 2016/02/18
- 23:48

血族は可動橋からやって来る 清水かおり目隠しをしてオルガンを弾いている 〃【現代川柳相対性理論】『川柳木馬』147号・2016冬から清水さんの句です。ここにある清水さんの句のひとつのおもしろさって〈相対性の挿入〉なんじゃないかと思うんですね。たとえばそれは「可動橋」といったあげさげできる橋や、「目隠し」という視覚遮断にあらわれている。どっちも相対的なシャットダウンです。可動橋は通行させようと思えばそ...
【感想】オナニーと俳句をめぐって-喪字男さんの俳句作品「昼寝用」の詞書から-
- 2016/02/18
- 00:18

一日ひとこすりで一年くらいかけてオナニーしてみたい。 喪字男(俳句作品「昼寝用」の詞書)オナニーは自己の生理調節だけではなく、増殖し収集不能になりつつある記憶、思い出などを「管理」するための、きわめて人工的な摩擦運動である。 寺山修司「幸福論」【記憶の管理者たち】『しばかぶれ』の中の喪字男さんの俳句作品「昼寝用」には上記の詞書が添えてあるんですね。で、俳句っていうのは季語があることからもわかる...
【感想】長き夜の外から鍵のかかる部屋 喪字男
- 2016/02/17
- 23:23

長き夜の外から鍵のかかる部屋 喪字男孤独は牢獄のようなものだと彼は思った。もし彼女が結婚したくないと言ったら俺はこのまま死んでしまうかもしれない。 市川準『トニー滝谷』ときには自分が誰なのか、一瞬垣間見えることさえある。だが結局のところ何ひとつ確信できはしない。人生が進んでゆくにつれて、われわれは自分自身にとってますます不透明になってゆく。自分という存在がいかに一貫性を欠いているか、ますます痛...
【短歌】交番が…(毎日新聞・毎日歌壇2016年2月16日・加藤治郎 特選)
- 2016/02/16
- 16:32

交番が無人化してる街並みをさわやかに走る 文学は不要 柳本々々 (毎日新聞・毎日歌壇2016年2月16日・加藤治郎 特選)【加藤治郎さんから頂いた選評】交番の無人化。全てシステムが対応してくれるのだろう。結句は想像力を否定する社会を暗示している。【カツ丼と走行】さいきんずっとジョギングをしているんですが、街のなかを走りながら気がついたんだけれど、〈走ること〉って街の無意識と呼応することなんじゃないかな...