【感想】ゆきはうごいとる病院はうごいとらんもうわしだけになってしもうた 吉岡太朗
- 2016/03/14
- 20:31

ゆきはうごいとる病院はうごいとらんもうわしだけになってしもうた 吉岡太朗【饒舌な意識】吉岡さんの短歌を読み返すたびに、じぶんが死ぬときにふっとなんの理由もなく思い出す短歌があるとしたらそれは吉岡さんの短歌なんじゃないかってちょっとおもったりもするんです。で、それはなんでかっていうといくつか理由があるんですが、基本的には〈意識の饒舌〉というものと関係があるようにおもうんです。たとえば上の短歌なので...
【感想】乳房ふたつ横むきに寝てわれとちがふ考へごとをしてゐるやうな 米川千嘉子
- 2016/03/14
- 17:23

乳房ふたつ横むきに寝てわれとちがふ考へごとをしてゐるやうな 米川千嘉子【身体を、さがす】米川さんの歌集『たましひに着る服なくて』からの一首です。この歌集のタイトルが象徴的だと思うんですが、〈たましひ〉と〈身体〉の過不足のような凸凹したかんじが米川さんの短歌の身体観になっているのではないかとおもうんです。たとえば、魂の衣服は身体だって過不足なく魂と身体が調和をとっているひともいるわけです。たとえば...
【短歌】Kさんに…(毎日新聞・毎日歌壇2016年3月14日・米川千嘉子 選)
- 2016/03/14
- 14:33
Kさんにいろいろききたいことがある 漱石の肩にあたまを載せる 柳本々々(毎日新聞・毎日歌壇2016年3月14日・米川千嘉子 選)私は突然Kの頭を抱えるように両手で少し持ち上げました。私はKの死顔が一目見たかったのです。しかし俯伏しになっている彼の顔を、こうして下から覗き込んだ時、私はすぐその手を放してしまいました。ぞっとしたばかりではないのです。彼の頭が非常に重たく感ぜられたのです。 夏目漱石『こころ』...
【短歌】会議中…(日経新聞・日経歌壇・穂村弘 選・2016年3月13日)
- 2016/03/13
- 18:04

会議中わたしはゆっくり立ち上がりゆめをみている(ご覧ください) 柳本々々 (日経新聞・日経歌壇・穂村弘 選・2016年3月13日)【倒れるようにみる夢】高橋順子さんの詩に、 倒れるように夢をみている 夢はひとの頬に さみしい分別の跡を残した 高橋順子「夢」というとても短い詩があるんですが、いつもこの「倒れるように夢をみている」状態がいいなとおもうんですね。倒れる、ってことは、そのま...
【お知らせ】「【筑紫磐井一句評】欲動と断念-俳句は欲動できるのか-」『俳句新空間 No.5』2016・春
- 2016/03/12
- 08:37

紙媒体である冊子版の『俳句新空間 No.5』(2016・春)に「【筑紫磐井一句評】欲動と断念-俳句は欲動できるのか-」を載せていただきました。問いかけても、頑なに答えようとしないこと。どれだけ欲動しても、断念させること。妻も、俳句も、〈わたし〉がどれだけ問いかけても答えようとはしない。俳句は欲動を完遂させる形式ではないから。でもそれゆえにこそ、はじめて現れる〈行く先〉がある。未来は断念としてあらわれる場合...
【感想】枕元に眼鏡と靴と携帯を置いて眠れば現実の如し 穂村弘
- 2016/03/11
- 13:20
枕元に眼鏡と靴と携帯を置いて眠れば現実の如し 穂村弘現実なるレベル・セブンの春の昼 関悦史【〈現実〉が少しずつ変わっていった】〈震災〉をめぐる歌と句なんですが、穂村さんの歌も、関さんの句にも「現実」という言葉が埋め込まれています。ただそれら〈現実の位相〉が、「現実の如し」や「現実なる」という言葉遣いのように、今までふつうに接していた〈現実〉ではなくて、これまでであったことがないような〈現実〉に...
【感想】山田航さんの『桜前線開架宣言』を持ち歩く日々のなかで-ヒア & ゼア こことよそ-
- 2016/03/09
- 00:31

今ずっと山田航さんの『桜前線開架宣言』を持ち歩いていて、それを読んでは考え、考えては読んでをしているんですが、このアンソロジーのひとつの特徴にその短歌がどういう社会的磁場のなかにあるのかを意識してみようというのがあると思うんです。これは山田航さんが毎日歌壇賞をとられた「ペットボトル」の歌が象徴的だと思うし、このアンソロジーのなかでも山田さんはとくにそこを意識して各歌人の方を解説されたと思うんだけれ...
【感想】正論でもきみでも触れえぬ場所にあるあかいかたちを守りておりぬ 野口あや子
- 2016/03/08
- 17:44

正論でもきみでも触れえぬ場所にあるあかいかたちを守りておりぬ 野口あや子【大いに語るのは誰なのか】野口さんの短歌のなかで〈触れる/触れない/触れえない〉って大事なキーワードだと思うんですが、この「あかいかたち」って野口さんの短歌のなかでさまざまに変奏されて出てきているんじゃないかと思うんですね。舐められた傷口がまた甘いから痛いいたいと繰り返してた 野口あや子窓ぎわにあかいタチアオイ見えていてそ...
【感想】たとえば火事の記憶 たとえば水仙の切り花 少し痩せたね君は 服部真里子
- 2016/03/08
- 13:30

たとえば火事の記憶 たとえば水仙の切り花 少し痩せたね君は 服部真里子 片岡くんが会いませんかと言う会いませんか こんどあ、あ、あい、あいませんか、あい、あと言うので、はいと言った片岡くんは、くまもと県の生まれである私はけっこんしたばかりであった片岡くん、やせたねと言うと十キロ、と言ったベストです、と言った片岡くん、やせたね頬、こけてるよ私はつまらないことばかり言ってしまうのでだまってしまった ...
【感想】鮭の死を米で包んでまたさらに海苔で包んだあれが食べたい 木下龍也
- 2016/03/08
- 13:00

鮭の死を米で包んでまたさらに海苔で包んだあれが食べたい 木下龍也木下龍也の短歌のほとんどは一貫して「死」をテーマとし続けている。それも単なる死ではなく、記号的な死、誰の記憶にも残してもらえない死、メディアに消費されるだけの死というイメージが氾濫する。 山田航『桜前線開架宣言』【「あれ」の詩学/死学】木下さんの学研ウェブマガジン連載の「笑ってるけどたぶん折れてる」って面白いタイトルだなあって思っ...
【感想】シャツに触れる乳首が痛く、男子として男子として泣いてしまいそうだ しんくわ
- 2016/03/08
- 12:30

シャツに触れる乳首が痛く、男子として男子として泣いてしまいそうだ しんくわ【厭な感触の発見】山田航さんの『桜前線開架宣言』でしんくわさんの短歌をまとまったかたちで読むことができるんですが、しんくわさんの短歌のおもしろさのひとつに〈厭な感触の発見〉というのがあるようにおもうんですよ。うえの歌も、「シャツに触れる乳首」というどくとくの〈厭な感触〉です。わかるひとはわかるのだし、わからないひとはわから...
【感想】家のなかにいることが大好きになれる俳句-部屋のなかで冒険しよう-
- 2016/03/07
- 23:58

冬の金魚家は安全だと思う 越智友亮わが部屋のきれいな四角夏痩す 高柳克弘エアコン大好き二人で部屋に飾るリボン 長嶋有【室内俳句をさがせ!】前から少し気になっていたんですが、俳句のなかには〈家にいることが好きなひとたち〉がときどき出てくるような気がするんですね。わたしも家のなかにいることが好きなので、そういう俳句が好きなのですが、なんといえばいいのか、〈正面きったインドア派〉といえばいいのか、...
【感想】どんなにか疲れただろうたましいを支えつづけてその観覧車 井上法子
- 2016/03/07
- 17:30

どんなにか疲れただろうたましいを支えつづけてその観覧車 井上法子【世界への慰労】井上法子さんの短歌を山田航さんが「「異なるもの」との対話を図るときの、「巫女」「シャーマン」の文体ということなのかもしれない」と解説されていて、たしかにモノや世界との会話がなんというか屈託がないんですね。すっ、と会話してしまう。ナチュラルに。で、ですね。モノと会話しているというよりも、もっと踏み込んで、この「観覧車」...
【感想】輪廻など信じたくなし限りなく生まれ変わってたかが俺かよ 松木秀
- 2016/03/07
- 13:30

輪廻など信じたくなし限りなく生まれ変わってたかが俺かよ 松木秀【かなしみをかなしめない】この松木さんの歌の「たかが」っていうのがけっこう大事だと思っていて、これって「輪廻転生」という概念が〈平板化〉しているっていうことだと思うんですよ。「たかが俺かよ」でもあるんだけれど、同時に、「たかが輪廻転生」でもある。そういう価値が平板化していく時代をうたっているのが松木秀さんの短歌なんじゃないかとおもうん...
【感想】やれそうと思われたのは悔しいが事実やったんだからまあいい 佐藤真由美
- 2016/03/07
- 13:00

やれそうと思われたのは悔しいが事実やったんだからまあいい 佐藤真由美【裏切りの連鎖】この短歌を加藤治郎さんが解説で「棒で殴られたような感じがする」と書かれていたんですが(加藤治郎「現代の恋歌-仮想題詠によるアンソロジー」『國文學』2006・8)、この「棒で殴られたような感じ」ってこの歌の語り手がもっている「まあいい」という〈ひらきなおり〉のようなものだけでなくて、この歌がもっている〈前後する時間構造〉...
【ふしぎな川柳 第八十五夜】ラスト・オブ・ニッポン-川合大祐-
- 2016/03/06
- 13:02

兄弟よわたしは한が読めません 川合大祐【一歩手前でたちずさんで】この「한(ハン)」っていう字は《長い時間のなかで堆積された気持ち》をあらわす韓国語らしいんですが、「読めません」という時にそういう《長い時間における感情》がいったんシャットダウンされるのかなとも思うんですよね。時間が無化されて、言語的共有もできないなかで、それでも「兄弟よ」と呼びかける《連帯しようのない連帯》がここにはある。それって...
【感想】まさか蛙になるとは尻尾なくなるとは 池田澄子
- 2016/03/06
- 09:36

まさか蛙になるとは尻尾なくなるとは 池田澄子【失ってみよう、しっぽ】池田さんの俳句のなかで、〈他人〉ってとても大事なコンセプトだとおもうんですよ。たとえば、屠蘇散や夫は他人なので好き 池田澄子という句は「はじめに他人ありき」の世界だと思うんです。でも「夫」を「他人」とおいたときには〈夫婦〉というユニットであるみずからも夫にとっての「他人」になるはずなんですよ。で、考えてみると、「他人」からはじ...
【川柳連作と散文】「2020年のコンビニ忌」『川柳の仲間 旬』204号・2016年3月号
- 2016/03/06
- 08:53

の広がる夜になったらコンビニ忌あのひとは違うファミマにコンビニ忌抱き合えばびるだとわかるコンビニ忌産卵は高層ビルのコンビニ忌コンビニ忌ファミマで渡す光線銃コンビニ忌太陽の塔に覗かれる蝶がいて(コンビニ忌だし)荘子かもコンビニ忌羽は鍛えるための塔青空の計ってみればコンビニ忌コンビニ忌割り箸だけの闇の音 柳本々々「2020年のコンビニ忌」『川柳の仲間 旬』204号・2016年3月号「むかしむかしこの世界にはコ...
【お知らせ】「【短詩時評 14時】フローする時間、流れない俳句 喪字男×柳本々々-『しばかぶれ』第一集の佐藤文香/喪字男作品を読む-」『BLOG俳句新空間 第38号』
- 2016/03/06
- 08:17
『 BLOG俳句新空間 第38号』にて「【短詩時評 14時】フローする時間、流れない俳句 喪字男×柳本々々-『しばかぶれ』第一集の佐藤文香/喪字男作品を読む-」という文章を載せていただきました。『BLOG俳句新空間』編集部にお礼申し上げます。ありがとうございました!お時間のあるときにお読みくだされば、さいわいです。今回、喪字男さんと俳句の連作をめぐるお話をさせていただいたんですが、そのなかで〈横書き〉と〈短詩〉を...