【短歌】きみの日記…(東京新聞・東京歌壇2016年5月22日・東直子 特選)
- 2016/05/22
- 11:29

きみの日記を読む朝がくるなんて「でも」や「しかし」がきらきらしてる 柳本々々 (東京新聞・東京歌壇2016年5月22日・東直子 特選)【東直子さんから頂いた選評】気になっている人がブログを始めたのか。あるいは、一緒に暮らして日記が読めるようになったのか。いずれにしても逆説の接続詞への感覚が新鮮。【ぼくたちは日記になれない】日記ってなんだろう、ってときどき考えているんですが、日記ってたぶん、《日付によっ...
【短歌】夫にも…(日経新聞・日経歌壇2016年5月22日・穂村弘 選)
- 2016/05/22
- 10:26

夫にも会っていきますかと言われ、だいじょうぶですと答えるときの 柳本々々 (日経新聞・日経歌壇2016年5月22日・穂村弘 選)【穂村弘さんから頂いた選評】「だいじょうぶです」という答えのズレ方と、言いさしの終わり方が不穏な空気を生み出した。【ゼリーのために】さいきん出た俳誌『オルガン』に福田若之さんが小津夜景論を書かれていて、ロラン・バルトのような断片形式の《アバラヤ化》されたスタイルの文章でとても...
【短歌連作】「待って。」『かばん』2016年5月号掲載作
- 2016/05/19
- 05:10

【詞書】ティラミスや答えがあるとは限らない 野間幸恵次に来た客がギプスを着けてたら告白するって決めてるの。待ってぜんぶのきもちがはいかいいえで決められたらな 信号を渡る母の呉れたおみくじだから信じるしかないの、と彼女は言った「占いと祈りは違うものでしょう?」俺を見つめる戦闘美少女占いでおまえのラッキーイベントは米騒動だと指摘された日占い結果は「少し考えさせてほしい」 それからずっと音沙汰がない占い...
【川柳連作】「てがみ、べろをだす」『おかじょうき』2016年4月号掲載作
- 2016/05/18
- 05:27

とどかないてがみがべろをだしているゴジラ忌の飛ばない鳩のにさんびき最後までみぶりてぶりがありがたい「ララララ」はやすうりしないで呉れるかなすごおおくしんちょうにやってきた鶴 柳本々々「てがみ、べろをだす」『おかじょうき』2016年4月号掲載作 *蹴りますか売られますかと山がいう 柳本々々 (題「蹴る」・きさらぎ彼句吾 選・佳作) *【研究吟】柳人と呼んでいいですか青コーナー 柳本...
【希望の川柳 四日目】すべての希望はじゅもん-Sin-
- 2016/05/18
- 05:03

さいごまでいけなかったのはじゅもんのせい Sin【川柳と呪文】さいきん割と本気で思っていることなんですが、川柳って呪文に近いんじゃないかなと思っているんですね。前から川柳ってふしぎだなと思ってはいたんですが、川柳がふしぎなのではなくて、川柳は呪文だからふしぎに見えるだけなんじゃないかと。で、呪文ってなんなのかというと、一見世界のなかで意味が通らなさそうなものが世界の意味を通す言葉ですよね。意味がわ...
【感想】コピー本薄し八月十五日 松本てふこ
- 2016/05/17
- 13:53

コピー本薄し八月十五日 松本てふこ近代戦争の伝統からすれば、日本の終戦記念日も休戦文書調印の九月二日ということになる。これが「グローバル・スタンダード」であり、外国の歴史教科書の多くはそう記述している。 佐藤卓己『八月十五日の神話』【八月十五日というトポス】てふこさんの連作「コミケに行ってきました」からの一句です。八月十五日がメディア論の方からよく言われているのは、八月十五日というのは生成され...
【短歌連作】「本のお供え」『かばん』2016年4月号掲載作
- 2016/05/17
- 09:11

【詞書】こうやってわけもわからずに百年歩いている 吉田知子図書館でさがす享楽的なもの わけもわからず生き急ぐ日に図書館の奥にふとんが敷いてあり司書にいおうかどうするか迷うもし俺がしんだらひまで図書館にいくんだろうな みんなもそうか図書館てかんがえてみればただじっとするためだけにむらがる場所だ真夜中の図書館にいるこの俺はしんでいるんだやっとわかった図書館は全集読めずに亡くなった亡霊たちでいっぱいであ...
【感想】いつもこうだ巨大な猿に襲われてどこへ逃げてもすぐに見つかる まぬがれてみちお
- 2016/05/16
- 06:56

いつもこうだ巨大な猿に襲われてどこへ逃げてもすぐに見つかる まぬがれてみちおまただ のり弁掻き込んでいるときに後頭部から撃たれる夢だ 岡野大嗣【どうやったら抜け出せるのか】ときどき、短歌において、悪夢のような循環地獄にハマってしまっているひとがいてちょっとそれが興味深いなって思うんですね。まぬがれてさんの短歌なら「いつもこうだ」、岡野さんなら「まただ」が循環地獄を〈端的〉に指し示しています。語...
【希望の川柳 三日目】的確な希望-津田暹-
- 2016/05/16
- 00:35

10時10分35秒です僕も 津田暹【「僕も」の転換】この津田さんの句でおもしろいなと思ったのが、ピンポイントな時間のあり方とその共有なんですね。「10時10分35秒です」はピンポイントなぎりぎりまでせばめられた時間のありようだと思うんです。もうほんとうに限界までせばめられた。極小化された。これって実は〈共有〉できない時間感覚なんじゃないかとおもうんですよ。ふだんひとはもっと茫漠とした時間を生きていますからね...
【短歌】サボテンの…(東京新聞・東京歌壇2016年5月15日・東直子 選)
- 2016/05/15
- 18:28

サボテンの配置を変えた。背中から抱擁をするやり方もある 柳本々々 (東京新聞・東京歌壇2016年5月15日・東直子 選)【いっしょに暮らすれんしゅう】サボテンを昔プレゼントとしてもらったことがあって、そのときちょっとおもしろいなと思ったのが、サボテンって針がたくさんついていて触れれば痛いわけですよね。そういう傷つく可能性というか、可傷性を贈り物としてもらうっておもしろいなっておもったんです。なにかこう...