未来の僕たちのあとがき
- 2016/06/17
- 23:11
僕たちはこうした高野の読む行為の切実さにどこまで想像力を及ぼすことができるだろう。僕は、このような読みかたが適切であるとか、このような読みかたが栗林のこの句にとって幸福なことであるとか、そういうことをいいたいのではない。ただ僕は、このような高野の読む行為を高野と僕たちとがいずれ共有できなくなるであろうと予想される寂しい未来のとば口に立っているひとりとして、せめて今だけでも高野の読む行為に対して...
【あとがき】小池正博『蕩尽の文芸』のあとがき
- 2016/06/17
- 00:24
他者の言葉に自分の言葉を付ける共同制作である連句と、一句独立の川柳の実作のあいだに矛盾を感じることもあったが、いまは矛盾が大きいほどおもしろいと思っている。連句と川柳──焦点が二つあることによって大きな楕円を描きたいのだ。未完性・未了性はのぞむところである。先へ進む精神を私は連句から学んだのではなかったか。 小池正博「あとがき」『蕩尽の文芸』...
【お知らせ】「なぜ〈一九七〇年〉以後なのか-サブタイトルから読む『桜前線開架宣言』-」『かばん』2016年6月号
- 2016/06/16
- 22:12

現代短歌を読み解くうえで、「古典和歌」が重要であることを山田ほど鋭く見抜いた歌人はいなかったのではないか。例えば、今橋愛の歌について「自己を過剰に表現しようとしない精神性は、実は近代短歌よりも古典和歌の方に近い」という指摘には、本当に大きな衝撃を受けた。 松村由利子「快刀乱麻の鋭い切っ先」『かばん』2016年6月号本書はこの「開架」の立場からわたしたちの「広場(アゴラ)」「閉架」の両方のロジック...
【短歌】眼鏡って…/潜水プールの…(毎日新聞・毎日歌壇2016年6月14日・加藤治郎/米川千嘉子 選)
- 2016/06/14
- 13:32
一度位ぶちまけてみないと惨状が分からぬ給食のシチュー大鍋 村田一広いつの間にか外されていた上向きに倒されている眼鏡を拾う 瀬戸さやか (毎日新聞・毎日歌壇2016年6月14日・加藤治郎 選)みどり、緑どこまでいっても新緑で少女がすらすら回す一輪車 水野真由美 (毎日新聞・毎日歌壇2016年6月14日・米川千嘉子 選)【上向きに倒されている世界】短歌のなかの主体っていうのはモノに宿っているんじゃないか...
【感想】木下闇せなかに触れるものは手か 近恵
- 2016/06/14
- 01:00

木下闇せなかに触れるものは手か 近恵【たそがれはだれがつくるの】『はがきハイク 女子回』(第14号・2016年6月)の近恵さんの「ぷくぷく」からの一句です。木下闇(こしたやみ)って、樹林で出来た暗がりをいうんですが、面白いなって思うのは、ふだん自明なものが「闇」を通過することによって〈おののき〉あるものになってしまうということです。考えてみると、「闇」のなかっていうのはほとんど薄暗がりで見えないわけだか...
【短歌】「部屋にあった…(東京新聞・東京歌壇2016年6月12日・東直子 特選)
- 2016/06/12
- 23:17

「部屋にあった眼鏡は捨てて呉れて、いい」冷えた銀河みたいな顔ね 柳本々々 (東京新聞・東京歌壇2016年6月12日・東直子 特選) 【東直子さんから頂いた選評】眼鏡がないと視界がぼやける。焦点の合わない目のぼんやりとした顔。そんな表情を「冷えた銀河みたい」と喩えるのは、突飛なようで説得力がある。【ノーティッシュ、ノーライフ】『週刊俳句』にはじめて投稿した感想文「ノーティッシュ、ノーライフ」が丸山進さ...
【感想】写メでしか見てないけれどきみの犬はきみを残して死なないでほしい 岡野大嗣
- 2016/06/11
- 00:46

写メでしか見てないけれどきみの犬はきみを残して死なないでほしい 岡野大嗣 (『かばん』2016年5月号)【死にたいが、生きたい。】岡野大嗣さんの歌集『サイレンと犀』の帯文に長谷川健一さんが「死にたいが、生きたい。」って書かれていて、岡野さんの短歌を読んでいるときにわいてくる気持ちとしてほんとにそうだなとおもったんですね。わたしは上の歌のように岡野さんの短歌って〈祈り〉のかたちに近い感覚があるとお...
【感想】玉川上水いつまでながれているんだよ人のからだをかってにつかって 望月裕二郎
- 2016/06/10
- 13:00

玉川上水いつまでながれているんだよ人のからだをかってにつかって 望月裕二郎【漱石『こころ』やカフカ『城』のKはなぜKだったんだろう】もうすぐ桜桃忌ですね。よく望月さんのこの歌のことを考えているんですが、ふしぎな歌ですよね。〈太宰治〉とは明示されていないけれど、なんとなく〈太宰治〉のことだとわかるし、でも〈太宰治〉だけでなく〈わたしたちの身体〉ともなんとなくつながっているようにも思う。で、どうして...
【お知らせ】「〈わたし〉を呼びにゆく-ムーミン・江代充・佐藤みさ子-」『BLOG俳句新空間 第44号』
- 2016/06/10
- 12:06

『 BLOG俳句新空間 第44号』にて「〈わたし〉を呼びにゆく-ムーミン・江代充・佐藤みさ子-」という文章を載せていただきました。『BLOG俳句新空間』編集部にお礼申し上げます。ありがとうございました!お時間のあるときにお読みくだされば、さいわいです。今回、江代充さんの詩や佐藤みさ子さんの川柳の〈わたし〉について考えながら、〈わたくし性〉の問題というのは〈文体〉の問題なんじゃないかとも思ったんです。〈文体〉っ...