【感想】寂しいよ 遺伝子が混ざり合う音が聞こえるくらい気持ちよくして 田丸まひる
- 2015/10/05
- 23:59
寂しいよ 遺伝子が混ざり合う音が聞こえるくらい気持ちよくして 田丸まひる
【寂しい語り手からさみしい語り手へ】
この短歌のひとつのおもしろさって、この短歌が〈短歌
〉であるという点なんじゃないかとおもうんですね。
それはどういうことか。
この短歌は「寂しいよ」という初句で直情的にストレートな発話から始まっています。
でもそのあとなんです。「遺伝子が混ざり合う音が聞こえるくらい」と、修辞をつかっています。
レトリックをひとが使うときってどういうときかというと、言語操作をできるくらいには冷静なとき、だとおもうんですね。
たとえば「骨の髄まで愛して」といったときに、この「骨の髄まで」という程度のレトリックがある限りにおいてひとは冷静なはずです。本能的に直情的にいうなら、「寂しいよ」のように「愛して!」しかないとおもうんですね。もしくはもううめき声とかおたけびのような非言語だとおもう。
つまり、レトリックって距離感だとおもうんです。だからこの短歌はこうした発話が短歌というレトリック表現をとおして奇妙な距離感が愛の発話のなかに生まれているしゅんかんが描かれている。
愛のことばっていうのはレトリックを混ぜるとなぜか愛からすこし遠くなる。
なんでなんだろう、っていうことです。
レトリックを使わなければ使わないほどそのひとがその状態のぎりぎりの臨界のなかでいわば〈瀕死〉のように接しているのがわかる。
たとえば、短歌のなかでレトリックを捨て直情的に瀕死だったやはり〈さみしい〉語り手といえば、
サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい 穂村弘
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