【こわい川柳 第八十七話】Xファイルと現代川柳-或いはデイヴィッド・ドゥカヴニーとゆく秋のムー大陸-
- 2015/10/06
- 12:00
南無阿弥陀 巨大なキャベツ貰いけり 松永千秋
川柳ってひとつの事件としてみるとわかりやすくなるんじゃないかと思ってるんですね。もっというと、Xファイルのようなものだとわかりやすいのかなと。
飯島章友さんがよく川柳とプロレスの関係性について話しておられて川柳は異種格闘技的なところがあるとたしかおっしゃられていたと思うんですが(これは小津夜景さんが川柳はSF的雑食性があるんじゃないかという言い方をされていたことにも通じていると思います)、川柳ってXファイル的なところがあるんじゃないかとおもうんですね。
Xファイルっていうドラマのシリーズが昔あったんですが、主にUFOや未確認生物(UMO)などの超常現象を事件として捜査する内容なんですね。で、超常現象ってなにかっていうと、それは〈当事者の不在〉っていうことなんですよ。事件や出来事は起こっているんだけれども当事者がわからない。それが超常現象ですね。
で、わたしはその当事者の不在感がとても川柳的なんじゃないかなあっておもったんですね。だから〈覆面レスラー的〉だよなあともおもったんです(反して、短歌は〈当事者性〉が強くなるので、コンテンツの虚実がときどき大きく問題になるのだともおもいます)。
たとえばこんなふうにするとわかりやすいとおもいます。
Xファイル1「豆腐屋の揺れるタイルに犬の顔」
Xファイル2「妻連れていきます竹刀のこします」
Xファイル3「そういえばヒロシも居ない「ごはんだよ」」
Xファイル4「人形の部屋でひとりはいけないよ」
Xファイル5「手足から喰って月夜を待っている」
Xファイル6「果てしないループの結び目を齧る」
Xファイル7「笑い袋山ほど鏡のない部屋に」
Xファイル「忘れっぽい天使が窓ですずなりに」
これはファイル=事件のタイトルにそのまま川柳をつっこんでみました。こうしてみると、〈お話〉みたいなのがぱっとふくらむとおもうんですけど、そもそもが川柳ってそういうXファイル的な枠組みに置かれているからなんじゃないかともおもうんですね。
ちなみに句の作者はこうでした。
豆腐屋の揺れるタイルに犬の顔 くんじろう
妻連れていきます竹刀のこします きゅういち
そういえばヒロシも居ない「ごはんだよ」 一戸涼子
人形の部屋でひとりはいけないよ 井上せい子
手足から喰って月夜を待っている 重森恒雄
果てしないループの結び目を齧る 山田ゆみ葉
笑い袋山ほど鏡のない部屋に 前田一石
忘れっぽい天使が窓ですずなりに 江口ちかる
飯島章友さんがよく川柳は未開拓な部分がたくさんあるからたのしいとおっしゃられているんですが、わたしも感じるのは、川柳っていうのはXファイル的なところがあって、各人が各人のやりかたで川柳をやっている、そういう場所なんじゃないかということです。だからじぶんはこんなふうにXファイルを捜査していこうかなとじぶんで捜査方法を決めることができる。で、飯島さんのおっしゃった未開拓っていうのはコロンブス的な植民地的見方じゃなくて、たぶん、ムー大陸というえたいのしれない大陸にであっているおどろきとおののきなんじゃないかとおもうんですよね。まだ奥があるよ、と。
ゆるやかに流れていった謎の謎 樋口由紀子
- 関連記事
-
-
【こわい川柳 第四十九話】母のこと以外を想う母といて 大川博幸 2015/06/28
-
【こわい川柳 第五十三話】眠れないすっかり白に包囲され 浮千草 2015/06/30
-
【こわい川柳 第九十二話】いやがられる、島に-峯裕見子 2015/10/20
-
【こわい川柳 第十四話】いま君と椅子のかたちになっている 徳永政二 2015/06/08
-
【こわい川柳 第十五話】吊るされた干鱈がヤアと手を挙げる 角田古錐 2015/06/08
-
スポンサーサイト
- テーマ:読書感想文
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:こわい川柳-川柳百物語-