【感想】国家よりワタクシ大事さくらんぼ 攝津幸彦
- 2015/10/08
- 01:00
国家よりワタクシ大事さくらんぼ 攝津幸彦
恋文の起承転転さくらんぼ 池田澄子
子供より親が大事、と思いたい。 太宰治「桜桃」
「私情は禁物よ。悲しいけど、これ戦争なのよね」 スレッガー中尉「機動戦士ガンダム 第36話 恐怖!機動ビグ・ザム」
【紅茶の香りのこの平原であなたにさよならしなくてはいけないのか】
さくらんぼをめぐる〈ワタクシ性〉ってちょっと面白いなとおもうんですよ。
あえて攝津さんの句から〈ワタクシ性〉としてみたんですが、兼ね合いのなかというか、機構との関係において出てくる〈ワタクシ性〉のようなもの。
たとえば池田さんの句なら、「恋文」なので相手との兼ね合いのもとで「転転」と出てくる〈ワタクシ性〉なんだとおもうんですよ。これが「転結」とうまくいってしまうと〈共同性〉になる。ところがどちらかが過剰か欠乏になって、「転転」となる。回収されなかったわけです。どちらかの〈ワタクシ〉によって。
つまり、攝津さんの句のことばでいうなら、「あなたよりワタクシ大事さくらんぼ」になったんじゃないかと。
太宰の「桜桃」のこのフレーズは有名だけれども、これも攝津さんのことばを借りるならば、「家庭よりワタクシ大事さくらんぼ」です。
さくらんぼには兼ね合いにおける〈エゴ〉のようなものがつきまとう。
では、川柳はどうでしょう。こんなさくらんぼの句があります。
内臓がときどき動くさくらんぼ 加藤久子
これはもしかしたら攝津さんの句の解説にもなっているんじゃないかともおもうんです。
「内臓」っていうのは〈ワタクシ〉的なもので、「国家」に回収されないものです。たとえ国家のイデオロギー装置によってことばや思想は回収されても、内臓は国家と関わりなく動いている。そういう〈ワタクシ性〉なんじゃないか。国家よりワタクシ大事。
だって、そうですよ、いきていたいじゃないですか。動く内臓をかかえて。あいたいひともたくさんいるじゃないですか。動く内臓をかかえたまま。
何となく生きてゐたいの更衣 攝津幸彦
しかし、父は、大皿に盛られた桜桃を、極めてまずそうに食べては種を吐き、食べては種を吐き、食べては種を吐き、そうして心の中で虚勢みたいに呟く言葉は、子供よりも親が大事。 太宰治「桜桃」
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