【感想】九・一一わたしは何も見なかった 田口麦彦
- 2015/10/17
- 12:50
九・一一わたしは何も見なかった 田口麦彦
【みることをつっかえる】
311でもそうだったと思うんですが、とても大きな、言葉にしがたい出来事が起こるたびに、言葉のしがたさに比例して、視覚化されたイメージの流通量が多くなっていっているんじゃないかとも思うんです。ひとはなにかをいうことをやめるけれど、なにかをみることはやめないようにおもうので。
ただ問題は自分でそういっておきながらもほんとうに〈多い〉のだろうかということでもあるんじゃないかともおもうんです。
たまたま映像の強度によってその出来事を代替してしまうような映像があらわれて、あたかも〈あふれた映像〉のなかでこんなにもたくさんのことを〈目撃〉したと錯覚してしまう。自分はなんて多くの映像をみたんだろうとおもってしまう。
でも実際はそうでもない。ある部分的な、しかし強度のある映像をみただけで、なにもみていないんじゃないか。
たとえば、2003年のイラク戦争でフセイン像が倒されたときに民衆は熱狂していたようにみえたけれど、ロングショットの映像では像の周囲だけが熱狂しているんだとわかる(といわれている)。でも映像では〈部分〉が〈代表〉し〈再現〉になってしまうっていうことはよくあるんですよね。
だからなにか、どんな映像でもいいとおもうんだけれど、わたしがなにかをみたときに、その〈み〉ることと〈み〉たことと〈み〉ていないことのあいだのなかに「わたしは何も見なかった」をどれだけ挟み込んでいけるのかというようなことも気もするんです。
ビルが倒壊しているのを〈み〉ている〈わたし〉と「わたしは何も見なかった」と発話した〈わたし〉との間で拮抗する。でもその拮抗のなかに〈視線〉や〈視覚〉といったものが浮き彫りになるようにもおもうんです。
〈みる〉、っていうことは量でも質でもなくて、〈みない〉ということを〈みる〉のなかでいかに探していけるか、という問題のようにおもうんです。
過呼吸の、か、か、過呼吸の鳥/霧/光 なかはられいこ
ベルイマンの映画『魔笛』。ベルイマン映画はつねにスクリーンのなかに〈顔〉が唯物的にひしめいてるが、このモーツァルト歌劇においてさえベルイマンを通せば、顔が冒頭からあふれることになる。だから、だれが・なにを〈み〉ているのかという問いからこの映画ははじまるのだが、そもそもわたしたちは一度でもだれかの〈顔〉を目撃したことがあるのだろうか
【みることをつっかえる】
311でもそうだったと思うんですが、とても大きな、言葉にしがたい出来事が起こるたびに、言葉のしがたさに比例して、視覚化されたイメージの流通量が多くなっていっているんじゃないかとも思うんです。ひとはなにかをいうことをやめるけれど、なにかをみることはやめないようにおもうので。
ただ問題は自分でそういっておきながらもほんとうに〈多い〉のだろうかということでもあるんじゃないかともおもうんです。
たまたま映像の強度によってその出来事を代替してしまうような映像があらわれて、あたかも〈あふれた映像〉のなかでこんなにもたくさんのことを〈目撃〉したと錯覚してしまう。自分はなんて多くの映像をみたんだろうとおもってしまう。
でも実際はそうでもない。ある部分的な、しかし強度のある映像をみただけで、なにもみていないんじゃないか。
たとえば、2003年のイラク戦争でフセイン像が倒されたときに民衆は熱狂していたようにみえたけれど、ロングショットの映像では像の周囲だけが熱狂しているんだとわかる(といわれている)。でも映像では〈部分〉が〈代表〉し〈再現〉になってしまうっていうことはよくあるんですよね。
だからなにか、どんな映像でもいいとおもうんだけれど、わたしがなにかをみたときに、その〈み〉ることと〈み〉たことと〈み〉ていないことのあいだのなかに「わたしは何も見なかった」をどれだけ挟み込んでいけるのかというようなことも気もするんです。
ビルが倒壊しているのを〈み〉ている〈わたし〉と「わたしは何も見なかった」と発話した〈わたし〉との間で拮抗する。でもその拮抗のなかに〈視線〉や〈視覚〉といったものが浮き彫りになるようにもおもうんです。
〈みる〉、っていうことは量でも質でもなくて、〈みない〉ということを〈みる〉のなかでいかに探していけるか、という問題のようにおもうんです。
過呼吸の、か、か、過呼吸の鳥/霧/光 なかはられいこ
ベルイマンの映画『魔笛』。ベルイマン映画はつねにスクリーンのなかに〈顔〉が唯物的にひしめいてるが、このモーツァルト歌劇においてさえベルイマンを通せば、顔が冒頭からあふれることになる。だから、だれが・なにを〈み〉ているのかという問いからこの映画ははじまるのだが、そもそもわたしたちは一度でもだれかの〈顔〉を目撃したことがあるのだろうか
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