【こわい川柳 第九十四話】うずく○-○について語るときに○の語ること-
- 2015/10/21
- 00:30
旅図形乱した○がいくつもある 前田一石
本当の○だろうか舐めてみる まきこ
【それは、○だろうか。或いはそれとも○なんだろうか】
川柳でひとつおもしろいのがときどき図形があらわれてくるってことなんじゃないかなとおもうんですね。
川柳では図形もひとつの言語として捉えている。
それがちょっと不思議なんです。
たとえば大正の未来派の詩には言語を記号化したものがみられるけれど、川柳は未来派のような記号を〈図示化〉した言語のありかたというよりも、記号に細かな質感や肉を与えてそこに語り手が向き合うというような〈ことばの肉〉のようなものがみられるんじゃないかともおもうんです。
前田さんの句には「乱した○がいくつもある」と語られていますがそれによって「○」と語られながらも「○」でない乱れた、それぞれに固有の性質をそなえた「○」があらわれる。読み手がこのイデアのような完璧な「○」をぶよぶよとゆがませながら大量生産させていくようにつくられている。ここには○がばらけながら生産される○の質感がある。
まきこさんの句は、「○」を「舐めてみる」という〈味覚〉からとらえることで、文字コードを解体して、身体コードに「○」を移している。そこには手にとる・さわる・ふれる・舐めるという肉感的な「○」があらわれる。そしておもしろいのはここにも前田さんの「○」
にみられたような複数生産される○があらわれることです。なぜなら「本当の○」といっている以上、「にせものの○」がそこらじゅうあるはずなので。
そうしたばらけた質感をもち受肉化された記号が川柳には出てくる。
岡本太郎にも、カービィにも、日の丸にも、ドラえもんにも、禅画にも、鍋にもあらわれる○。
なんなんだろう、○
_〇_〇_〇_〇_〇_〇_〇_◎_〇_〇_〇_〇_ 柳本々々
水木しげるの描く妖怪べとべとさん。べとべとさんも○である。水木しげるが図画化したこのべとべとさんの歯は非常に特徴的だが、ちょうど人間の上下の歯と反転するように描かれている。○というどこからも対照的な図形に対して反転した口=□=歯を埋め込むことで、べとべとさんの〈固有性〉としての妖怪化がなされている。ちなみにこれはサンガッツのべとべとさんのソフビ。
記号が言語化され、その図地化が詩という行為になる未来派の詩。未来派の詩は自動車や飛行機など〈機械〉と親和性が高いが、印刷〈機械〉の礼讃ともいえる
本当の○だろうか舐めてみる まきこ
【それは、○だろうか。或いはそれとも○なんだろうか】
川柳でひとつおもしろいのがときどき図形があらわれてくるってことなんじゃないかなとおもうんですね。
川柳では図形もひとつの言語として捉えている。
それがちょっと不思議なんです。
たとえば大正の未来派の詩には言語を記号化したものがみられるけれど、川柳は未来派のような記号を〈図示化〉した言語のありかたというよりも、記号に細かな質感や肉を与えてそこに語り手が向き合うというような〈ことばの肉〉のようなものがみられるんじゃないかともおもうんです。
前田さんの句には「乱した○がいくつもある」と語られていますがそれによって「○」と語られながらも「○」でない乱れた、それぞれに固有の性質をそなえた「○」があらわれる。読み手がこのイデアのような完璧な「○」をぶよぶよとゆがませながら大量生産させていくようにつくられている。ここには○がばらけながら生産される○の質感がある。
まきこさんの句は、「○」を「舐めてみる」という〈味覚〉からとらえることで、文字コードを解体して、身体コードに「○」を移している。そこには手にとる・さわる・ふれる・舐めるという肉感的な「○」があらわれる。そしておもしろいのはここにも前田さんの「○」
にみられたような複数生産される○があらわれることです。なぜなら「本当の○」といっている以上、「にせものの○」がそこらじゅうあるはずなので。
そうしたばらけた質感をもち受肉化された記号が川柳には出てくる。
岡本太郎にも、カービィにも、日の丸にも、ドラえもんにも、禅画にも、鍋にもあらわれる○。
なんなんだろう、○
_〇_〇_〇_〇_〇_〇_〇_◎_〇_〇_〇_〇_ 柳本々々
水木しげるの描く妖怪べとべとさん。べとべとさんも○である。水木しげるが図画化したこのべとべとさんの歯は非常に特徴的だが、ちょうど人間の上下の歯と反転するように描かれている。○というどこからも対照的な図形に対して反転した口=□=歯を埋め込むことで、べとべとさんの〈固有性〉としての妖怪化がなされている。ちなみにこれはサンガッツのべとべとさんのソフビ。
記号が言語化され、その図地化が詩という行為になる未来派の詩。未来派の詩は自動車や飛行機など〈機械〉と親和性が高いが、印刷〈機械〉の礼讃ともいえる
中家菜津子の詩歌集『うずく、まる』のなかにおける詩「うずく、まる」には、女性の身体を○のイメージによって解体する〈ジェンダーコード/身体コードの解体〉としての○(と共にアンチ○)があふれる。「「術日を決めましょう」/うずく、まる/「わたしはおんなとして星であるべき身体なのです」」/ふとももと胸のふくらみくっつけて立派な椅子を信じていない」。完璧な○を求められつつも完璧な○はあるのかどうかという○の問題。
コーエン兄弟『バーバー』(2001)。コーエン兄弟の映画においても○という図形は特権的な主題として現れる。死の前の緩慢な自動車のタイヤ、医者の額帯鏡、とつぜん刑務所に現れた無意味なUFO。ぐるぐるまわる○の円環のなかで主人公はなんの意味も見出さないことに意味を感じ死を受容する
コーエン兄弟『バーバー』(2001)。コーエン兄弟の映画においても○という図形は特権的な主題として現れる。死の前の緩慢な自動車のタイヤ、医者の額帯鏡、とつぜん刑務所に現れた無意味なUFO。ぐるぐるまわる○の円環のなかで主人公はなんの意味も見出さないことに意味を感じ死を受容する
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プロフィール
Author:柳本々々(やぎもともともと)
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inm7050※gmail.com(※を@にしてお送りください)
【著作】
・句と文・柳本々々/絵・安福望『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』春陽堂書店、2019年8月28日発売
『もともと予報 ポストカードブック』春陽堂書店
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