【こわい川柳 第九十五話】エスカレーターを旅する-ぶらりでもなく-
- 2015/10/21
- 07:00
エスカレーターが動く私の未来とは別に 楢崎進弘
エスカレーターから降りると火鍋 湊圭史
エスカレーターの上り 全面自供中 森重春江
【ひとはデパートで駅で時の哲学者になる】
川柳のなかのエスカレーターってなんだろうっていう話なんですが、エスカレーターをふだん乗っていてもわかるようにエスカレーターってまずなによりも〈時間〉の場所だとおもうんですね。
ひとはエスカレーターに乗って自分の〈時間〉ではなく、エスカレーターの〈時間〉に合わせる。そのときひとの意識に〈時間〉というものそのものがせり出してくる。
だからそういう〈時間〉を意識にのぼらせる装置がエスカレーターということになります。ひとはエスカレーターに乗っているときは誰しも〈時間の思想家〉になっているとおもうんですよ。〈時間の哲学者〉に。
楢崎さんの句の「未来」や、湊さんの「から降りると」といった時間の転回、森重さんの句には一見時間が無さそうだけれども、この「自供中」の「中」が〈時間〉だとおもうんです。
で、〈時間〉は〈時間〉でもふだん感じている時間のチャンネルとはちがうチャンネルを引き寄せるのがエスカレーターの時間だとおもうんですよ。つまり楢崎さんの句のことばを借りれば「別の時間」がやってくるわけです。それはとうとつな「火鍋」的時間かもしれないし、ふだんの自分とは異なる「全面自供」している裏の自分の「時間」かもしれない。
そういうエスカレーターとしての時限=次元発生装置の役割が川柳にはみられるんじゃないか。
そしてなによりもおそろしいのはそういう時間発生装置のエスカレーターが停止している、その〈時間のゼロ度〉のしゅんかんのなかを歩くことです。エンデのモモのように〈どこにもない時間〉のまっただなか亀のカシオペイアと歩くこと。
停止中のエスカレーター降りるたび声たててふたり笑う一月 穂村弘
『刑事コロンボ』。ピーター・フォークと親しく自身の映画でも使っていた映画監督ジョン・カサヴェテスが指揮者として犯人で出ていた際の「黒のエチュード」から。刑事コロンボはある意味で〈時間〉の物語といえる。犯罪者の語りの時間をずらし、コロンボの語りの時間(「あともうひとつだけ」)にずらすことによって、犯罪者の語りのモードを狂わせていく。語りのチャンネルを変えることによって、コロンボの時間のなかで犯罪者はふだん意識下に抑圧してあるものを語ってしまうのだ
エスカレーターから降りると火鍋 湊圭史
エスカレーターの上り 全面自供中 森重春江
【ひとはデパートで駅で時の哲学者になる】
川柳のなかのエスカレーターってなんだろうっていう話なんですが、エスカレーターをふだん乗っていてもわかるようにエスカレーターってまずなによりも〈時間〉の場所だとおもうんですね。
ひとはエスカレーターに乗って自分の〈時間〉ではなく、エスカレーターの〈時間〉に合わせる。そのときひとの意識に〈時間〉というものそのものがせり出してくる。
だからそういう〈時間〉を意識にのぼらせる装置がエスカレーターということになります。ひとはエスカレーターに乗っているときは誰しも〈時間の思想家〉になっているとおもうんですよ。〈時間の哲学者〉に。
楢崎さんの句の「未来」や、湊さんの「から降りると」といった時間の転回、森重さんの句には一見時間が無さそうだけれども、この「自供中」の「中」が〈時間〉だとおもうんです。
で、〈時間〉は〈時間〉でもふだん感じている時間のチャンネルとはちがうチャンネルを引き寄せるのがエスカレーターの時間だとおもうんですよ。つまり楢崎さんの句のことばを借りれば「別の時間」がやってくるわけです。それはとうとつな「火鍋」的時間かもしれないし、ふだんの自分とは異なる「全面自供」している裏の自分の「時間」かもしれない。
そういうエスカレーターとしての時限=次元発生装置の役割が川柳にはみられるんじゃないか。
そしてなによりもおそろしいのはそういう時間発生装置のエスカレーターが停止している、その〈時間のゼロ度〉のしゅんかんのなかを歩くことです。エンデのモモのように〈どこにもない時間〉のまっただなか亀のカシオペイアと歩くこと。
停止中のエスカレーター降りるたび声たててふたり笑う一月 穂村弘
『刑事コロンボ』。ピーター・フォークと親しく自身の映画でも使っていた映画監督ジョン・カサヴェテスが指揮者として犯人で出ていた際の「黒のエチュード」から。刑事コロンボはある意味で〈時間〉の物語といえる。犯罪者の語りの時間をずらし、コロンボの語りの時間(「あともうひとつだけ」)にずらすことによって、犯罪者の語りのモードを狂わせていく。語りのチャンネルを変えることによって、コロンボの時間のなかで犯罪者はふだん意識下に抑圧してあるものを語ってしまうのだ
- 関連記事
-
-
【こわい川柳 第七十話】死はいつも明るいね-石部明- 2015/07/24
-
【こわい川柳 第五十七話】動物の言葉わかれば怖いだろう 佐藤みさ子 2015/07/06
-
【こわい川柳 第九十六話】もう一度くるさようなら-重森恒雄- 2015/10/22
-
【こわい川柳 第五十九話】中央分離帯に飾っておく真昼 赤松ますみ 2015/07/09
-
【こわい川柳 第六十七話】原っぱに消える姉妹たち-横澤あや子- 2015/07/21
-
スポンサーサイト
- テーマ:読書感想文
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:こわい川柳-川柳百物語-