【短歌】全力で…(毎日新聞・毎日歌壇2014/6/23 加藤治郎 選)
- 2014/06/23
- 20:40
全力で無力なんだよ(気づいたら手押し車で運ばれている) 柳本々々
(毎日新聞・毎日歌壇2014/6/23 加藤治郎 選)
ときどき、保育園の園児たちがおおきな手押し車にたくさんのせられて、わたしの横をすれちがって、ゆく。
かれらは、意思も目的もわからないままに、運ばれてゆく。もしかしたら、世界のほうが泳いでいる、とかんじているのかもしれない。
いいな、っておもう。わたしも乗せてくれよ、と。
あるよく晴れた朝、園児たちがやはりおおぜい詰め込まれて、手押し車ではこばれてゆく。でも、きょうはかんじが、なんだか、ちがう。
なにかが、中央に、いるのだ。うずくまってる。うずくまりながらも、すこし、のりのりである。
園児たちも、なにかの異変にきづいている。すこしいつもとちがう太陽のいろ。保育士のえりのみだれ。ほ乳瓶のちちくびの弾力。いやちがう。こいつだ。
みんなが、わたしを、みる。わたしはたくさんの園児たちにかこまれて、手押し車の中央で、うずくまってる。でも、みんな、わたしを表現する言語をもたない。だから、ただ、みているだけだ。こんな状況をことばにするにはまだもうすこし時間がかかるから。だから、みんなして、言語化できないうずのなかを運ばれていく。ふいうちの江戸川乱歩的状況に対して、こいつはなにものなんだ、という想いをめいめい胸にして、ことばにできない中心の核(コア)をみんなで円卓状になって、たいせつにまもりながら。言語化できない、むにゃむにゃした同心円状の々々々々々々の羅列。
わたしも、かれらも運ばれていく。わたしはことばがつかえるけれど、かれらはまだことばがつかえないけれど。わたしよりもかれらのほうが未来をたっぷりふくんだじんせいだけれども。わたしはソフトでマイルドな人間椅子的状況になっちゃってるけれど。
でも、おもいは、いっしょのはずだ、とわたしはおもう。わたしは、うたう。かれらも、喃語で、むにゃむにゃと、うたった。すなわち、
全力で無力なんだよ(気づいたら手押し車に運ばれている)
保育士「!?」
(毎日新聞・毎日歌壇2014/6/23 加藤治郎 選)
ときどき、保育園の園児たちがおおきな手押し車にたくさんのせられて、わたしの横をすれちがって、ゆく。
かれらは、意思も目的もわからないままに、運ばれてゆく。もしかしたら、世界のほうが泳いでいる、とかんじているのかもしれない。
いいな、っておもう。わたしも乗せてくれよ、と。
あるよく晴れた朝、園児たちがやはりおおぜい詰め込まれて、手押し車ではこばれてゆく。でも、きょうはかんじが、なんだか、ちがう。
なにかが、中央に、いるのだ。うずくまってる。うずくまりながらも、すこし、のりのりである。
園児たちも、なにかの異変にきづいている。すこしいつもとちがう太陽のいろ。保育士のえりのみだれ。ほ乳瓶のちちくびの弾力。いやちがう。こいつだ。
みんなが、わたしを、みる。わたしはたくさんの園児たちにかこまれて、手押し車の中央で、うずくまってる。でも、みんな、わたしを表現する言語をもたない。だから、ただ、みているだけだ。こんな状況をことばにするにはまだもうすこし時間がかかるから。だから、みんなして、言語化できないうずのなかを運ばれていく。ふいうちの江戸川乱歩的状況に対して、こいつはなにものなんだ、という想いをめいめい胸にして、ことばにできない中心の核(コア)をみんなで円卓状になって、たいせつにまもりながら。言語化できない、むにゃむにゃした同心円状の々々々々々々の羅列。
わたしも、かれらも運ばれていく。わたしはことばがつかえるけれど、かれらはまだことばがつかえないけれど。わたしよりもかれらのほうが未来をたっぷりふくんだじんせいだけれども。わたしはソフトでマイルドな人間椅子的状況になっちゃってるけれど。
でも、おもいは、いっしょのはずだ、とわたしはおもう。わたしは、うたう。かれらも、喃語で、むにゃむにゃと、うたった。すなわち、
全力で無力なんだよ(気づいたら手押し車に運ばれている)
保育士「!?」
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