【感想】そこにいて必ず見つけ出すからね 変な踊りを見せてあげるね 斎藤見咲子
- 2015/11/02
- 23:35
そこにいて必ず見つけ出すからね 変な踊りを見せてあげるね 斎藤見咲子
【変な踊りドラマツルギー】
『かばん』2015年10月号から斎藤さんの一首です。
なんでやっと見つけてもらえたのに「変な踊りを見せ」られるんだろうっていうのが凄くおかしくてすてきでいいなっておもうんですよね。
「必ず見つけ出す」って、それだけの〈距離〉なんだとおもうんですね。たとえば映画とかで、「おまえのことを必ず見つけ出すから」っていうときには、それは伏線であって、オーラスまでまあたいていは〈見つからない〉わけです。それだけながい距離がある。
でもやっと見つけたとおもったら「変な踊り」なんですよ。
「変な踊り」ってなんだろう、っておもうんですが、ひとつはロマンチックなドラマツルギーの破壊としてあるんじゃないかとおもうんですよね。
すごくロマンチックに過不足なくふたりが出会うというのではなくて、「変な踊り」によって、世間一般のドラマツルギーがズレてしまう。でもたとえばそれは東村アキコの漫画にありそうですよね。東村アキコの漫画ではそういうズレのドラマツルギーを採用しているかもしれない。変な踊りドラマツルギーを。
で、この短歌で、いいなって思うのがですね、語り手は「変な踊り」って「変な」といっているのだから、ちゃんと自分では気が付いているんですよね。「変な」ことに。つまりかなり自覚的な語り手なんです。だからこの「変な」っていうのはいちおうなにかの戦略のための「変な」といえそうなんですよ。
そしてだからこそこの語り手は「変な踊り」を踊っていても切実なんじゃないかなとおもうんですよ。真摯に、誠実に、変な踊りをおどっている。やっとわたしを見つけ出してくれたそのあとに。すごくうつくしいきらきらした変な踊りを。
王子なら私がなるね髪型がたやすく変になる今は風 北山あさひ
ヴィスコンティ『ルートヴィヒ』(1972)。虚構のような、ある意味においてはディズニーランド化されたルートヴィヒの〈作品〉でもあるノイシュヴァンシュタイン城で、身体が醜く朽ち果てていく狂王ルートヴィヒ。ヴィスコンティの人物=貴族・ブルジョワジーたちはいつも〈黒〉に汚染されているのだが(ルートヴィヒは歯が真っ黒になり、『ベニスに死す』のアッシェンバッハ教授は白髪染めが血のように黒く垂れてくる)、ヴィスコンティは美しい虚構世界を映画にやきつけると同時にそれが汚染される過程そのものを映画として描き出している
【変な踊りドラマツルギー】
『かばん』2015年10月号から斎藤さんの一首です。
なんでやっと見つけてもらえたのに「変な踊りを見せ」られるんだろうっていうのが凄くおかしくてすてきでいいなっておもうんですよね。
「必ず見つけ出す」って、それだけの〈距離〉なんだとおもうんですね。たとえば映画とかで、「おまえのことを必ず見つけ出すから」っていうときには、それは伏線であって、オーラスまでまあたいていは〈見つからない〉わけです。それだけながい距離がある。
でもやっと見つけたとおもったら「変な踊り」なんですよ。
「変な踊り」ってなんだろう、っておもうんですが、ひとつはロマンチックなドラマツルギーの破壊としてあるんじゃないかとおもうんですよね。
すごくロマンチックに過不足なくふたりが出会うというのではなくて、「変な踊り」によって、世間一般のドラマツルギーがズレてしまう。でもたとえばそれは東村アキコの漫画にありそうですよね。東村アキコの漫画ではそういうズレのドラマツルギーを採用しているかもしれない。変な踊りドラマツルギーを。
で、この短歌で、いいなって思うのがですね、語り手は「変な踊り」って「変な」といっているのだから、ちゃんと自分では気が付いているんですよね。「変な」ことに。つまりかなり自覚的な語り手なんです。だからこの「変な」っていうのはいちおうなにかの戦略のための「変な」といえそうなんですよ。
そしてだからこそこの語り手は「変な踊り」を踊っていても切実なんじゃないかなとおもうんですよ。真摯に、誠実に、変な踊りをおどっている。やっとわたしを見つけ出してくれたそのあとに。すごくうつくしいきらきらした変な踊りを。
王子なら私がなるね髪型がたやすく変になる今は風 北山あさひ
ヴィスコンティ『ルートヴィヒ』(1972)。虚構のような、ある意味においてはディズニーランド化されたルートヴィヒの〈作品〉でもあるノイシュヴァンシュタイン城で、身体が醜く朽ち果てていく狂王ルートヴィヒ。ヴィスコンティの人物=貴族・ブルジョワジーたちはいつも〈黒〉に汚染されているのだが(ルートヴィヒは歯が真っ黒になり、『ベニスに死す』のアッシェンバッハ教授は白髪染めが血のように黒く垂れてくる)、ヴィスコンティは美しい虚構世界を映画にやきつけると同時にそれが汚染される過程そのものを映画として描き出している
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