【ふしぎな川柳 第二十六夜】羊のフォルムで-前田一石-
- 2015/11/20
- 07:15
タイムカードを打つあくまで羊のフォルムで 前田一石
いつもより正しくつなぐ月曜日つながるためにはたらいている 法橋ひらく
「働く意欲」によって両者を分かつ分割線は、そんなに強固なものなのだろうか。生の可能性を縮減されるただなかで、「でも働くしかない」と思うことと「もう働けない」と思うこと、あるいは「働きたいと思い、体が動くこと」と「働きたいと思っても、体が動かないこと」とのあいだには、いかなる違いがあるのだろうか。 湯浅誠+仁平典宏
【短詩と労働】
短詩のなかでどんなふうに〈働く〉ということが歌われるのかを考えたときに、〈働く〉ということによってその〈働く〉を包んでいる形式(フォルム)がどう〈変化〉しているかを歌うことが、〈働く〉を歌う、ということにつながってもいるんじゃないかとおもうんですよね。
〈働く〉っていうことは、ある固有の〈場〉に参入しながら、普遍的な交換体系のなかに入っていくことです。その場その場の固有のルールに則りながらも、普遍的には労働と資本を交換して生活をつくっていく。
だから、その職場職場によって、〈働く〉ことを包み込む固有のフォルムがそのふたつの体系が重なり合いながらつくられているとおもうんですよね。
一石さんの句ではそれが「羊のフォルム」になっているし(〈羊のフォルム〉によって〈働く〉ことが包まれている)、ひらくさんの歌ではそれは〈循環する曜日の正しさ〉としてフォルムがあらわれてくる。
じぶんがもたらす形式ではなくて、〈場〉のほうから、職場がじぶんに訪れてくるフォルムというものがあるとおもうんですよ。そしてそのフォルムを生きるということが〈働く〉ということにもなってくるとおもうんですよ。
ちなみにわたしはめちゃくちゃ忙しいときに睡眠時間があまりにないので自分でふやすために目覚ましを30分ごとにセットして、睡眠時間を30分ごとに分節していたことがあるんだけれども(つまり、ゼノンの定理というか、アキレスは亀に追いつかない原理をつかってみて睡眠時間を形式的に増殖させようとおもったのです)、そのときに、〈形式〉はむこうからやってくるんだな、とおもったんです。
そして、もちろん、その〈形式〉がときどきこわれることも、つなげなかった月曜があることも、わたしたちは〈働く〉ことをとおして知るのです。
護岸工事の音もまぬけな月曜日へたくそだった今日の仮病を 法橋ひらく
エルマンノ・オルミ/アッバス・キアロスタミ/ケン・ローチ『明日へのチケット』(2006)。三人の監督による三つの短編がひとつになっている映画なんですが、それぞれ無関係なのではなくて、登場人物たちはすべておなじ列車に乗っているという特徴があります。そして三つの短編をすべて通過する人物たちも出てくる。そのとき、〈列車〉というフォルムがかれらにとっては〈むこう側〉からくる空間になっている。フォルムとしての列車は、他者とであう空間であったり、回想する空間であったり、いさかう空間であったり、対話する空間であったりもする。とくに最初のオルミの時系列が列車が進むにつれ錯綜していく短編がとてもすてきなつくりになっています。ひとは乗客に恋をするのか、それとも列車に恋をするのか。
いつもより正しくつなぐ月曜日つながるためにはたらいている 法橋ひらく
「働く意欲」によって両者を分かつ分割線は、そんなに強固なものなのだろうか。生の可能性を縮減されるただなかで、「でも働くしかない」と思うことと「もう働けない」と思うこと、あるいは「働きたいと思い、体が動くこと」と「働きたいと思っても、体が動かないこと」とのあいだには、いかなる違いがあるのだろうか。 湯浅誠+仁平典宏
【短詩と労働】
短詩のなかでどんなふうに〈働く〉ということが歌われるのかを考えたときに、〈働く〉ということによってその〈働く〉を包んでいる形式(フォルム)がどう〈変化〉しているかを歌うことが、〈働く〉を歌う、ということにつながってもいるんじゃないかとおもうんですよね。
〈働く〉っていうことは、ある固有の〈場〉に参入しながら、普遍的な交換体系のなかに入っていくことです。その場その場の固有のルールに則りながらも、普遍的には労働と資本を交換して生活をつくっていく。
だから、その職場職場によって、〈働く〉ことを包み込む固有のフォルムがそのふたつの体系が重なり合いながらつくられているとおもうんですよね。
一石さんの句ではそれが「羊のフォルム」になっているし(〈羊のフォルム〉によって〈働く〉ことが包まれている)、ひらくさんの歌ではそれは〈循環する曜日の正しさ〉としてフォルムがあらわれてくる。
じぶんがもたらす形式ではなくて、〈場〉のほうから、職場がじぶんに訪れてくるフォルムというものがあるとおもうんですよ。そしてそのフォルムを生きるということが〈働く〉ということにもなってくるとおもうんですよ。
ちなみにわたしはめちゃくちゃ忙しいときに睡眠時間があまりにないので自分でふやすために目覚ましを30分ごとにセットして、睡眠時間を30分ごとに分節していたことがあるんだけれども(つまり、ゼノンの定理というか、アキレスは亀に追いつかない原理をつかってみて睡眠時間を形式的に増殖させようとおもったのです)、そのときに、〈形式〉はむこうからやってくるんだな、とおもったんです。
そして、もちろん、その〈形式〉がときどきこわれることも、つなげなかった月曜があることも、わたしたちは〈働く〉ことをとおして知るのです。
護岸工事の音もまぬけな月曜日へたくそだった今日の仮病を 法橋ひらく
エルマンノ・オルミ/アッバス・キアロスタミ/ケン・ローチ『明日へのチケット』(2006)。三人の監督による三つの短編がひとつになっている映画なんですが、それぞれ無関係なのではなくて、登場人物たちはすべておなじ列車に乗っているという特徴があります。そして三つの短編をすべて通過する人物たちも出てくる。そのとき、〈列車〉というフォルムがかれらにとっては〈むこう側〉からくる空間になっている。フォルムとしての列車は、他者とであう空間であったり、回想する空間であったり、いさかう空間であったり、対話する空間であったりもする。とくに最初のオルミの時系列が列車が進むにつれ錯綜していく短編がとてもすてきなつくりになっています。ひとは乗客に恋をするのか、それとも列車に恋をするのか。
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