【ふしぎな川柳 第四十六夜】音がする―倉本朝世―
- 2015/12/13
- 14:14
海鼠(なまこ)踏んだらトウキョウと音がした 倉本朝世
【句のそれから】
音って、音でしかないんですよ。あたりまえなんだけれども。
だから、音を分節化して意味をもたせるのはいつも聴き手=語り手であるにんげんなんですね。
だから海鼠を踏んだ音は〈TO・KYO〉という無意味な響きだったんだけれどもそこに「トウキョウ」と意味をもたせたのは〈踏んだ語り手〉の方だったとおもうんです。
だからこの句からひとつ読みとれるのは語り手の〈東京〉に対するまずひとつの意識のありかただとおもうんですよ。もし〈TO・KYO〉と音がなれば、それを〈東京〉と分節化する志向性を語り手はもっている。
で、大事なことは、語り手じしんもそれに気が付いていないっていうことなんじゃないかとおもうんです。
どうしてかっていうと、「海鼠踏んだら」だから、突発的な事態だったわけです。予想外の音律だったわけですよ、〈TOKYO〉って音の響きは。
だからここには少なくともふたつのレベルの予想外があるはずです。
ひとつめは、なまこを踏んだら〈TOKYO〉と音が鳴ったこと。
ふたつめは、語り手がそれをとっさに〈トウキョウ=東京〉と意味づけてしまったこと。
こうしたふたつの思惑を越えた出来事が起こってしまったのがこの句だとおもうんですね。たった17音のなかでふたつも思惑違いのことが起こってしまった。
これからおそらく語り手はそのふたつの予想外をなんとか回収しなければならないはずです。しかも語り手はなんとなくではあるけれど、たぶん、みずからの〈東京意識〉もきがついたはずです。
だから、すべては、これから、なのです。
句はいつも、起こってしまった出来事の、これから、を描いているのです。
東京の雪のみっともなさの中 矢島玖美子
森田芳光『それから』(1985)。森田芳光映画のおもしろさのひとつにキャスティングがあると思うんですが、松田優作を漱石の主人公にかけあわせたところがこの映画のいちばんのおもしろさというか予想外の〈音律〉だと思うんですよ。松田優作ってたぶんキャラクターとしては次の瞬間どう動くのかわからない狂気のようなものをもっているとおもうんですよ(内面をうつさない瞳とか)。でもそれって実は漱石的な物語のベクトルと非常に近かったというか、漱石の物語も次の瞬間すべての事態が破局・破綻しているとかそういことが起こっているわけですよね。だからこの映画をとおして、漱石ってじつは非常に松田優作的文学なんじゃないかとおもったんですよ。
【句のそれから】
音って、音でしかないんですよ。あたりまえなんだけれども。
だから、音を分節化して意味をもたせるのはいつも聴き手=語り手であるにんげんなんですね。
だから海鼠を踏んだ音は〈TO・KYO〉という無意味な響きだったんだけれどもそこに「トウキョウ」と意味をもたせたのは〈踏んだ語り手〉の方だったとおもうんです。
だからこの句からひとつ読みとれるのは語り手の〈東京〉に対するまずひとつの意識のありかただとおもうんですよ。もし〈TO・KYO〉と音がなれば、それを〈東京〉と分節化する志向性を語り手はもっている。
で、大事なことは、語り手じしんもそれに気が付いていないっていうことなんじゃないかとおもうんです。
どうしてかっていうと、「海鼠踏んだら」だから、突発的な事態だったわけです。予想外の音律だったわけですよ、〈TOKYO〉って音の響きは。
だからここには少なくともふたつのレベルの予想外があるはずです。
ひとつめは、なまこを踏んだら〈TOKYO〉と音が鳴ったこと。
ふたつめは、語り手がそれをとっさに〈トウキョウ=東京〉と意味づけてしまったこと。
こうしたふたつの思惑を越えた出来事が起こってしまったのがこの句だとおもうんですね。たった17音のなかでふたつも思惑違いのことが起こってしまった。
これからおそらく語り手はそのふたつの予想外をなんとか回収しなければならないはずです。しかも語り手はなんとなくではあるけれど、たぶん、みずからの〈東京意識〉もきがついたはずです。
だから、すべては、これから、なのです。
句はいつも、起こってしまった出来事の、これから、を描いているのです。
東京の雪のみっともなさの中 矢島玖美子
森田芳光『それから』(1985)。森田芳光映画のおもしろさのひとつにキャスティングがあると思うんですが、松田優作を漱石の主人公にかけあわせたところがこの映画のいちばんのおもしろさというか予想外の〈音律〉だと思うんですよ。松田優作ってたぶんキャラクターとしては次の瞬間どう動くのかわからない狂気のようなものをもっているとおもうんですよ(内面をうつさない瞳とか)。でもそれって実は漱石的な物語のベクトルと非常に近かったというか、漱石の物語も次の瞬間すべての事態が破局・破綻しているとかそういことが起こっているわけですよね。だからこの映画をとおして、漱石ってじつは非常に松田優作的文学なんじゃないかとおもったんですよ。
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