【お知らせ】「【短詩時評 8復】ニューウェーブをめぐるデジタル・ジャーニー-帰りの旅-」『BLOG俳句新空間 第33号』
- 2015/12/25
- 00:12
『 BLOG俳句新空間 第33号』にて「【短詩時評 8復】 ニューウェーブをめぐるデジタル・ジャーニー-帰りの旅-」という文章を載せていただきました。『BLOG俳句新空間』編集部にお礼申し上げます。ありがとうございました!
貴方はずっと物語をするだけだ。絶対自分のことは喋らない。貴方が兄貴をどう思っていたかも、僕をどう思っているかも話してくれない。僕はもしかしたらもうすぐパンクして引退するかもしれないけど、それでも貴方はまた新しい誰かに新しい別の物語をしてやるだけなんだろうね?
高岸優子『DQ』
今回書いた記事を一言でいうと、1990年代前半にあらわれたニューウェーブ短歌っていうのは〈デジタルメディアに対する感受性〉だったのではないかという主旨の文章です。
だから実は短歌の話〈だけでなく〉、メディアの話〈でも〉あったのではないかと思うんです。
そのデジタルメディアの中に、短歌という形態をとおして、〈抒情〉を見出していたひとたちがいた。その〈感性〉のありかた。
アニメ評論家の氷川竜介さんが機動戦士ガンダムを論じた文章のなかで〈ニュータイプ〉についておもしろいことをいっていて、〈ニュータイプ〉っていうのは「ガンダム」という善悪だけではくくれない新しいアニメーションがあらわれたときにそのアニメーションを感受できるオーディエンスのことだったのではないかとも言っていて、それってやっぱり〈メディアへの感性〉だったとも思うんです。新しいアニメ表現があらわれたときに、その新しい形式を感受するひとたちがいる。
たいてい表現の刷新はメディアの刷新とともに行われますから、表現への感性はメディアへの感性とも足並みをそろえているはずです。
(私はニュータイプでは、シャリア・ブルが好きだ)
たとえば当時の
電気店横目に見つつわれといふ孤独を照らすには何ワット? 荻原裕幸
この角にむかし誰かが棲みゐしと欠けたる記憶液晶のごとし 〃
さかさまに電池を入れられた玩具(おもちゃ)の汽車みたいにおとなしいのね 穂村弘
という短歌がどうして〈人間〉ではなく〈電化〉を通して〈抒情〉や〈詩〉を見出しているんだろうというのも気になっていました。ゼロワンで割り切れるところに割り切れなさを見出してしまう詩歌というか。
俵万智さんが人間と人間の会話=対話をやりとりしていた(「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日)のとはちがって、穂村さんの短歌では言わば人間と「電池」が会話=対話しあっているのです。
ニューウェーブとは、そうした電気器具やデジタルメディアの席巻への親近性、そしてそのデジタルメディアの感受・親近からの主体の立て方だったのではないかと思うんです。ひとつのみかたとして。
〈電化〉や〈デジタル化〉っていうのは、いわば人間の内面とは違ったかたちのもうひとつの〈見えなくなる世界〉だったと思うんですよね。ライトバースで俵万智さんがいわば〈恋愛〉の不可視領域を描いたのだとしたら、ニューウェーブにおいてこれら短歌は〈電化/デジタル化〉の見えない領域を描いているようにも思うんです。いまや電化やデジタルのほうが人間らしい、と(1990年代前半の話ですがこの頃、バーチャルリアリティという〈バーチャル〉の〈人間らしさ〉が出てきます。セガのゲーム「バーチャファイター」は1993年です)。
で、この流れってテン年代の岡野大嗣さんの短歌が、もうデジタル領域にさえ詩がなくなっちゃったんじゃないか、デジタルのなかでさえ絶望しかないんだというところに行き着くような気もしているんです。
でも、それはそうなんですよね。黒瀬陽平さんが、10年代はたしか〈残念なネットの時代〉っておっしゃっていたけれど、だんだんネットってそんなに効力がないってわかってきた時代でもある。デジタルのなかには絶望しかないんじゃないかと。
ネットの果てにいってみたら、けっきょく、絶望しかなかった。
クリスマスにも、デジタルのなかからクリスマスの文法やクリスマスの言説を学び、それに追いついたり追いつかなかったりすることでライトな絶望を学ぶっていうことはあるわけです。
そういえば穂村弘さんにクリスマスを機械化したこんな歌がありました。
トナカイがオーバーヒート起こすまで空を滑ろう盗んだ橇で 穂村弘
僕は一人だし、貴方も一人だって言う、そんならもう一人のいるところはこの電話の中しかないじゃないか。何で兄貴の声はあんなにすっきりと近くに聞こえたんだ。それは兄貴がこの回線の中に住みついてしまったからじゃないのか。ねえ十二月さん、そうは思いませんか。兄貴は回線を貴方のもとまでさかのぼって貴方のすぐそばで話を聞いている。きっとこの回線の中で。十二月さん兄貴のことを話してみてよ。
高岸優子『DQ』
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