【ふしぎな川柳 第五十一夜】不安三千里-佐藤幸子-
- 2015/12/27
- 19:28
信号無視しばらく霧の中歩く 佐藤幸子
わたしだけ蚊に刺されないので不安 丸山進
めりめりを探し続けて三千里 くんじろう
【不安ですか?】
現代川柳には、〈川柳と不安〉っていうトピックがたてられるように思うんですよ。
幸子さんの句は「信号無視」から始まっているんだけれども、その「信号無視」による〈不安〉を回収しようとする動きが語り手にはありません。
そのまま「歩く」。「信号無視」をしてからも「霧の中」だけれど「歩」き続ける。
ここにはなにかを回収しようとする動きがありません。
むしろ、不安を貫徹しようとさえしている。
不安を貫通させようとすることが川柳なのだといってもいいかもしれません。
丸山さんの句だと、「わたしだけ蚊に刺されない」
ことによって「不安」が生じているのですが、川柳なのでそれを追究する余地はありません。「不安」を言及しようとして「不安」で終わってしまう。川柳の範囲では「不安」を解明する余地がなかったことに語り手は気がついてしまうでしょう。川柳そのものが、もしかしたら、不安の発生源だったかもしれなかったことに。
もしかしたらわたしだけ〈川柳〉をやっているから「蚊に刺されない」のかもしれない。〈川柳〉は不安をうむ形式だから。
ところがその〈不安〉をくんじろうさんの句なら逆にたのしんで〈不安の悟達〉をしているようにさえ思います。
「めりめり」がなにかはわかりません。非常に不安ななにか、だとおもいます。〈母〉なら「三千里」探す甲斐はありますが、「めりめり」はその甲斐があるかどうかわからない。
でも「探し続け」ようとしている。
〈不安〉を貫徹しようとしている。
ところで、不安ですか?
正座して時々捻子を巻いている 佐藤幸子
押井守『機動警察パトレイバー2』(1993)。押井アニメーションの主題のひとつに〈不安〉そのものを描くというのがあるように思うんです。不安を描くっていうのは、眼に見えない潜在的事態をそのままに描く、ということです。たとえばこの映画なら、起こっていない戦争が眼にみえないかたちで起こっている事態を描く。雪のふる東京を戦車が進んでいく。でも戦争ではない。戦いは起こっていない。しかし戦争でもある。戦いはずっと前から起こっていたし、ずっと前からこの国は戦争をしていた。そのどちらでもあるしどちらでもない不安を描く。
わたしだけ蚊に刺されないので不安 丸山進
めりめりを探し続けて三千里 くんじろう
【不安ですか?】
現代川柳には、〈川柳と不安〉っていうトピックがたてられるように思うんですよ。
幸子さんの句は「信号無視」から始まっているんだけれども、その「信号無視」による〈不安〉を回収しようとする動きが語り手にはありません。
そのまま「歩く」。「信号無視」をしてからも「霧の中」だけれど「歩」き続ける。
ここにはなにかを回収しようとする動きがありません。
むしろ、不安を貫徹しようとさえしている。
不安を貫通させようとすることが川柳なのだといってもいいかもしれません。
丸山さんの句だと、「わたしだけ蚊に刺されない」
ことによって「不安」が生じているのですが、川柳なのでそれを追究する余地はありません。「不安」を言及しようとして「不安」で終わってしまう。川柳の範囲では「不安」を解明する余地がなかったことに語り手は気がついてしまうでしょう。川柳そのものが、もしかしたら、不安の発生源だったかもしれなかったことに。
もしかしたらわたしだけ〈川柳〉をやっているから「蚊に刺されない」のかもしれない。〈川柳〉は不安をうむ形式だから。
ところがその〈不安〉をくんじろうさんの句なら逆にたのしんで〈不安の悟達〉をしているようにさえ思います。
「めりめり」がなにかはわかりません。非常に不安ななにか、だとおもいます。〈母〉なら「三千里」探す甲斐はありますが、「めりめり」はその甲斐があるかどうかわからない。
でも「探し続け」ようとしている。
〈不安〉を貫徹しようとしている。
ところで、不安ですか?
正座して時々捻子を巻いている 佐藤幸子
押井守『機動警察パトレイバー2』(1993)。押井アニメーションの主題のひとつに〈不安〉そのものを描くというのがあるように思うんです。不安を描くっていうのは、眼に見えない潜在的事態をそのままに描く、ということです。たとえばこの映画なら、起こっていない戦争が眼にみえないかたちで起こっている事態を描く。雪のふる東京を戦車が進んでいく。でも戦争ではない。戦いは起こっていない。しかし戦争でもある。戦いはずっと前から起こっていたし、ずっと前からこの国は戦争をしていた。そのどちらでもあるしどちらでもない不安を描く。
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