【感想】心音のリズムも熱も知っていて今なにをしているか知らない 千原こはぎ
- 2016/01/13
- 00:01
心音のリズムも熱も知っていて今なにをしているか知らない 千原こはぎ
世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ… 『更級日記』
【わたしの今とわたしから逃れ去った今】
この歌を読んだとき私が感じたのが〈短歌〉っていう形式は〈いま〉を逃してしまうものなのかもしれないな、っていうことです。
もっというと、〈いま〉の逃してしまった〈いま〉を歌うものなのかな、ともおもうんですね。
「心音のリズムも熱も知っていて」というのは自分が思いをかけた相手だとは思うのだけれど、でもこれって〈短歌〉にもいえることではないかとおもうんですよ。というのは、短歌というのは定型に出来事の「心音のリズムも熱も」込めるものだからです。「知ってい」るものとして。
でもそのときその「心音のリズムも熱も知ってい」るものとして短歌定型におさめたがゆえに得られる〈いま〉と逃してしまう〈いま〉がある。
短歌定型におさめたがゆえに「今なにをしているか」という現在進行形のアメーバのようなイベント性はわからなくなってしまう。その〈わからない〉というかたちとして手放すのも短歌のひとつのかたちなのかなっておもったんです。
つまり、短歌っていうのは〈心音の今〉は手に入れられるかわりに、〈出来事の今〉は手放してしまう。でもそうしたかたちで〈記憶〉していくことを引き受けようとする表現形態なんじゃないか。
だから、定型っていうのはひとつの〈あきらめ〉のかあちなのかなともおもうんです。これだけ私は知っているのに、私はその知っている今が、私から逃れていくことも知っている。
こころごと汲み取ってくれるひとがいて春のひなたに寝ころぶここち 千原こはぎ
山賀博之『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987)。後にエヴァンゲリオンでも有名になるガイナックスがつくったアニメ映画なんですが、この映画の面白さってどんなに歴史的に重大な出来事をやったとしても、それがぜんぜん〈知られない〉こともある。その歴史的重要さと、でもそれがまったく誰も知られないで終わるかもしれないっていう歴史の率直さが描かれているように思うんです。歴史ってどうプラスしても〈ゼロの歴史〉があって、むしろ〈ゼロ〉の状態にしておくためにずっとそのつど起こっていく歴史的イベントがある。それは誰にも記録や記憶されない。当事者だけが知っている〈ゼロの歴史〉なんですよ。その当事者感覚って歴史に回収されないかたちでずっと残っていくんだと思うんですよ。この歴史を加速させないでゼロに維持しておくための感覚って物語感覚にも近いんじゃないかとおもうんです。だから最後に主人公が宇宙船から歴史に向かって語りかけるモノローグは、そのゼロ感覚に近いんじゃないかとおもう。庵野秀明が参加していて作画も緻密で、主人公の声は森本レオで、声優も豪華で、音楽は坂本龍一がやっているので、音もよいという何度もみることができるアニメです。
世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ… 『更級日記』
【わたしの今とわたしから逃れ去った今】
この歌を読んだとき私が感じたのが〈短歌〉っていう形式は〈いま〉を逃してしまうものなのかもしれないな、っていうことです。
もっというと、〈いま〉の逃してしまった〈いま〉を歌うものなのかな、ともおもうんですね。
「心音のリズムも熱も知っていて」というのは自分が思いをかけた相手だとは思うのだけれど、でもこれって〈短歌〉にもいえることではないかとおもうんですよ。というのは、短歌というのは定型に出来事の「心音のリズムも熱も」込めるものだからです。「知ってい」るものとして。
でもそのときその「心音のリズムも熱も知ってい」るものとして短歌定型におさめたがゆえに得られる〈いま〉と逃してしまう〈いま〉がある。
短歌定型におさめたがゆえに「今なにをしているか」という現在進行形のアメーバのようなイベント性はわからなくなってしまう。その〈わからない〉というかたちとして手放すのも短歌のひとつのかたちなのかなっておもったんです。
つまり、短歌っていうのは〈心音の今〉は手に入れられるかわりに、〈出来事の今〉は手放してしまう。でもそうしたかたちで〈記憶〉していくことを引き受けようとする表現形態なんじゃないか。
だから、定型っていうのはひとつの〈あきらめ〉のかあちなのかなともおもうんです。これだけ私は知っているのに、私はその知っている今が、私から逃れていくことも知っている。
こころごと汲み取ってくれるひとがいて春のひなたに寝ころぶここち 千原こはぎ
山賀博之『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987)。後にエヴァンゲリオンでも有名になるガイナックスがつくったアニメ映画なんですが、この映画の面白さってどんなに歴史的に重大な出来事をやったとしても、それがぜんぜん〈知られない〉こともある。その歴史的重要さと、でもそれがまったく誰も知られないで終わるかもしれないっていう歴史の率直さが描かれているように思うんです。歴史ってどうプラスしても〈ゼロの歴史〉があって、むしろ〈ゼロ〉の状態にしておくためにずっとそのつど起こっていく歴史的イベントがある。それは誰にも記録や記憶されない。当事者だけが知っている〈ゼロの歴史〉なんですよ。その当事者感覚って歴史に回収されないかたちでずっと残っていくんだと思うんですよ。この歴史を加速させないでゼロに維持しておくための感覚って物語感覚にも近いんじゃないかとおもうんです。だから最後に主人公が宇宙船から歴史に向かって語りかけるモノローグは、そのゼロ感覚に近いんじゃないかとおもう。庵野秀明が参加していて作画も緻密で、主人公の声は森本レオで、声優も豪華で、音楽は坂本龍一がやっているので、音もよいという何度もみることができるアニメです。
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