【感想】焼香の列に並んでいる故人 三宅保州
- 2014/07/09
- 13:25
焼香の列に並んでいる故人 三宅保州
【きちんとした死者】
この句のおもしろさは、生きているひとのルールと死んでいるひとのルールがきちんと過不足なく重ねられているところにあるんじゃないかとおもうんです。
たとえば、死んでいるんだから、生きているひとを無視して焼香してもいいと思うんですが、きちんと生きているひとのルールを守って並んでいる。
もしかしたら、本人が本人の焼香の列に並んでいる可能性もありますよね。ところがその場合もおもしろいのは、やはり「並んでいる」という点で、まったくあわてている様子がみられない。じぶんの死よりもルールが優先されている。
で、これってもしかすると〈死〉と〈並列〉がナチュラルに共存している〈焼香〉という儀式のマニュアル的な滑稽さもつついている句なんじゃないかとおもうんです。
〈死〉という大きな出来事があったにもかかわらず、まだ依然として、いやむしろ依然として、〈儀式〉としての〈ルール〉が顕在化してくる。でも、悲しみや慟哭っていうのはそうした〈ルール〉をつきやぶるものとしていつもあるはずで、もちろん〈喪の遂行〉をするためにひとは〈儀式的〉にふるまうんですが、それでもそうしたひとが秩序だって並んでいること、秩序のなかでイレギュラーな〈死〉がまつられていることのふかしぎさはある。そうしたルールの偏在化が死者にまでおよんでしまって、死んだ本人まで並びはじめてしまっている〈おかしみ〉と〈哀切〉がこの句にはあるようにおもうんですよね。
フィリップ・アリエスが『死と歴史』において、中世の時代にあっては、ドン・キホーテにみられるようにみんなが〈死〉を忌むべきものとしてではなく、みずからの過程として周囲にお別れを告げながらきちんと受容できていたということから〈飼い馴らされた死〉と名付けていましたが、この句にある〈死〉はむしろ〈死〉が〈生〉の側にまで進出し、逆に〈生〉に馴致までしてしまっている様子、いうなれば、〈飼い慣らされにきた死〉とでも呼べそうな死です。
わたしもじぶんが死んだら、この句のように、生者の側のなかにわけいって、いちばんうしろでお菓子のコパンかなんか食べながら正座してみていたいです。赤川次郎かなんか読みながら。ときどきは、そこどいて、なんていわれてじゃけんにされながら。もうしんではいるのだけれど。
満員電車に空席一つ罠だろう 三宅保州
【きちんとした死者】
この句のおもしろさは、生きているひとのルールと死んでいるひとのルールがきちんと過不足なく重ねられているところにあるんじゃないかとおもうんです。
たとえば、死んでいるんだから、生きているひとを無視して焼香してもいいと思うんですが、きちんと生きているひとのルールを守って並んでいる。
もしかしたら、本人が本人の焼香の列に並んでいる可能性もありますよね。ところがその場合もおもしろいのは、やはり「並んでいる」という点で、まったくあわてている様子がみられない。じぶんの死よりもルールが優先されている。
で、これってもしかすると〈死〉と〈並列〉がナチュラルに共存している〈焼香〉という儀式のマニュアル的な滑稽さもつついている句なんじゃないかとおもうんです。
〈死〉という大きな出来事があったにもかかわらず、まだ依然として、いやむしろ依然として、〈儀式〉としての〈ルール〉が顕在化してくる。でも、悲しみや慟哭っていうのはそうした〈ルール〉をつきやぶるものとしていつもあるはずで、もちろん〈喪の遂行〉をするためにひとは〈儀式的〉にふるまうんですが、それでもそうしたひとが秩序だって並んでいること、秩序のなかでイレギュラーな〈死〉がまつられていることのふかしぎさはある。そうしたルールの偏在化が死者にまでおよんでしまって、死んだ本人まで並びはじめてしまっている〈おかしみ〉と〈哀切〉がこの句にはあるようにおもうんですよね。
フィリップ・アリエスが『死と歴史』において、中世の時代にあっては、ドン・キホーテにみられるようにみんなが〈死〉を忌むべきものとしてではなく、みずからの過程として周囲にお別れを告げながらきちんと受容できていたということから〈飼い馴らされた死〉と名付けていましたが、この句にある〈死〉はむしろ〈死〉が〈生〉の側にまで進出し、逆に〈生〉に馴致までしてしまっている様子、いうなれば、〈飼い慣らされにきた死〉とでも呼べそうな死です。
わたしもじぶんが死んだら、この句のように、生者の側のなかにわけいって、いちばんうしろでお菓子のコパンかなんか食べながら正座してみていたいです。赤川次郎かなんか読みながら。ときどきは、そこどいて、なんていわれてじゃけんにされながら。もうしんではいるのだけれど。
満員電車に空席一つ罠だろう 三宅保州
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