【ふしぎな川柳 第七十一夜】覚えていますか、あばら-北原おさ虫-
- 2016/02/01
- 00:28
あるようで無い蓮根の肋ぼね 北原おさ虫
山の彼方か鱧の肋か水無月の なかはられいこ
肋骨を弾くと遠い夏が鳴る 瀧村小奈生
肋から一枚取り出す請求書 中川喜代子
肋骨を夜の電車が通過する ながたまみ
【覚えていますか肋】
川柳は、たぶん、あばらのことを好きなんですね。
あばらは川柳のことを好きじゃないかもしれないけれど、川柳はあばらのことを好きなんだと思う。
だから、いくらあばらが川柳のことを忘れても、川柳はあばらのことを忘れないとおもうんですよ。
というよりも、ふだん、あばらを意識していますか。
あばらにふれたり、さわったり、鳴らしたり(鳴らさなくていいけど)、話しかけたりしていますか(話しかけなくていいけど)。
おさ虫さんの句のように「あるようで無い」あばらの存在感を描くのがひとつの川柳の立ち位置なのかなって思うんですね。それは「蓮根の肋ぼね」のように、まあ〈無い〉ものなんだけれど、でも蓮根にあばらあるんだよ知ってた? っていわれると、うん知ってたよ、って言いそうにもなりますよね。蓮根ってちょっとありそうじゃないですか、ふくざつそうだしね。だから、そこらへんの微妙なぶぶんを再構築するのが川柳なんじゃないかとおもってるんです。
でも、それにしても、川柳はあばらを大好きなわけです。
『川柳ねじまき』を読んでいたら、アバラの句がいっぱいあって、これはもう『川柳あばら』なのかと思ったくらいです(これは冗談です)。
でもふだん、あばらって意識しないでしょう。どうして川柳がそんなにあばらを好きなのか、謎なんですよ。
でも、なかはらさんがご自身の句集の「あとがき」でこんなふうに書かれていたんです。「どうしようもない弱い者たち、はかない事たち」を「忘れてしまわないように」じぶんは〈川柳〉という〈ことば〉を選んだのかもしれない、って。
「どうしようもない弱い者たち、はかない事たち」。それは〈あばら〉でもある、とわたしは思うんです。あばらって身体のマイノリティですよね、たぶん。でも、そこに川柳はまなざしをそそぎ、物語をあたえる。
川柳の立ち位置って、そこにあるようにおもう。
もちろん、あばらだけじゃない。脇毛にも眼をそそぐ。世界大戦にも。
脇毛も世界大戦もまだあります 丸山進
『ウルトラマン』(1966)。ウルトラマンってあばらがあらわになっているヒーローの物語なんじゃないかと思うんですよ。ウルトラマンの弱点って、さんぷんしか地球で戦えないことじゃなくて、いつもあばらをあらわにしていることなんじゃないかと。というよりも、〈素っ裸〉という可傷性で戦わなければならなかったことだと。たとえば鉄腕アトムってあばら感はないんですよね。ロボットというのはあるけれど。でもウルトラマンにはあばら感がある。ウルトラマンの系譜を引き継いでいる巨神兵やエヴァンゲリオンにもあばら感がある。このあばら感の可傷性ってなんなんだろうって考えるんです。〈傷つきやすさ〉をもったヒーローが日本のヒーローだった。じゃあ日本はアメリカというウルトラマンにずっと守られながらどういうあばら感をもっていたのか。
山の彼方か鱧の肋か水無月の なかはられいこ
肋骨を弾くと遠い夏が鳴る 瀧村小奈生
肋から一枚取り出す請求書 中川喜代子
肋骨を夜の電車が通過する ながたまみ
【覚えていますか肋】
川柳は、たぶん、あばらのことを好きなんですね。
あばらは川柳のことを好きじゃないかもしれないけれど、川柳はあばらのことを好きなんだと思う。
だから、いくらあばらが川柳のことを忘れても、川柳はあばらのことを忘れないとおもうんですよ。
というよりも、ふだん、あばらを意識していますか。
あばらにふれたり、さわったり、鳴らしたり(鳴らさなくていいけど)、話しかけたりしていますか(話しかけなくていいけど)。
おさ虫さんの句のように「あるようで無い」あばらの存在感を描くのがひとつの川柳の立ち位置なのかなって思うんですね。それは「蓮根の肋ぼね」のように、まあ〈無い〉ものなんだけれど、でも蓮根にあばらあるんだよ知ってた? っていわれると、うん知ってたよ、って言いそうにもなりますよね。蓮根ってちょっとありそうじゃないですか、ふくざつそうだしね。だから、そこらへんの微妙なぶぶんを再構築するのが川柳なんじゃないかとおもってるんです。
でも、それにしても、川柳はあばらを大好きなわけです。
『川柳ねじまき』を読んでいたら、アバラの句がいっぱいあって、これはもう『川柳あばら』なのかと思ったくらいです(これは冗談です)。
でもふだん、あばらって意識しないでしょう。どうして川柳がそんなにあばらを好きなのか、謎なんですよ。
でも、なかはらさんがご自身の句集の「あとがき」でこんなふうに書かれていたんです。「どうしようもない弱い者たち、はかない事たち」を「忘れてしまわないように」じぶんは〈川柳〉という〈ことば〉を選んだのかもしれない、って。
「どうしようもない弱い者たち、はかない事たち」。それは〈あばら〉でもある、とわたしは思うんです。あばらって身体のマイノリティですよね、たぶん。でも、そこに川柳はまなざしをそそぎ、物語をあたえる。
川柳の立ち位置って、そこにあるようにおもう。
もちろん、あばらだけじゃない。脇毛にも眼をそそぐ。世界大戦にも。
脇毛も世界大戦もまだあります 丸山進
『ウルトラマン』(1966)。ウルトラマンってあばらがあらわになっているヒーローの物語なんじゃないかと思うんですよ。ウルトラマンの弱点って、さんぷんしか地球で戦えないことじゃなくて、いつもあばらをあらわにしていることなんじゃないかと。というよりも、〈素っ裸〉という可傷性で戦わなければならなかったことだと。たとえば鉄腕アトムってあばら感はないんですよね。ロボットというのはあるけれど。でもウルトラマンにはあばら感がある。ウルトラマンの系譜を引き継いでいる巨神兵やエヴァンゲリオンにもあばら感がある。このあばら感の可傷性ってなんなんだろうって考えるんです。〈傷つきやすさ〉をもったヒーローが日本のヒーローだった。じゃあ日本はアメリカというウルトラマンにずっと守られながらどういうあばら感をもっていたのか。
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