【感想】落ちてきた君は重たし星月夜 佐々木貴子
- 2016/02/20
- 01:00
落ちてきた君は重たし星月夜 佐々木貴子
【天空の俳句】
わたしは『天空の城ラピュタ』を観るたびにいつも貴子さんのこの句を思い出すんで、かってにこれは〈ラピュタ俳句〉だと思っているんですが、下五の「星月夜」という季語によってもういちど上昇するというか、空へ重心がうつるのがいいなと思うんですね。考えてみると、ラピュタも〈落ちる→上る〉という巨大なベクトルをなぞったアニメなんですよね。上っていくと次々シーンや関係性が変わっていくわけです。落ちると遭遇し、上ると次の場面展開に。あの、シータを取り戻すために乗り込んでいったときにドーラが気絶してカムバックするシーンやパズーとシータが軽飛行機をとばされてラピュタに〈不時着〉するのもそうじゃないかと思う。
そういう下にぐんと重力がかかってから一気に上昇するシーン展開っていうのがこの貴子さんの句と映画『ラピュタ』には共通するところがあるのかなっておもうんです。
で、さいきんまた『天空の城ラピュタ』の「バルス!」という破壊の呪文について考えていてですね、「バルス祭り」という言葉が生まれたようにラピュタが放送されるとみながみな「バルス!」っていっせいに唱えますよね。
みながみな唱えるのってどういうことかっていうと、「バルス!」って言葉は《すごく憶えやすい》からですよね。短いから。ほとんど2音ですよね。というかもうほとんど《バッ!》っていう1音なんだとおもうんですね。だから、とっても、《言いやすい》。唱えやすいんです。
で、おぼえやすいのはいいと思うんです。パワフルな呪文なので、間違えがないよう、ちゃんと記憶できたほうがいい。ただ《言いやすい》のはどうかと思う。たとえば「あれ自分おぼえてるかな」って確かめるために確認のために間違えて「ばるす…」って言っちゃうことがありますよね。それから泥酔してるときに間違っていいきもちで「ばるす」って言っちゃうこともあるかもしれない。あとはこの呪文ってすごく短いんだけど短すぎるために極端な言い方をするとほかの言い方に混ざって発話されてしまうこともある。「がんばるっす!」ってシータが発話したしゅんかん、わきでラピュタの崩壊がはじまっちゃうかもしれない。寝言とかで「ばるす…」って言っちゃって朝起きたらラピュタが崩壊している場合もある。
ともかく問題は滅びの呪文なのにその《言いやすさ》にあるんじゃないかと思うんです。
っていうことは逆に考えてみてもいいんじゃないかともおもったんです。むしろ、頻繁にこの「滅びの呪文」は唱えられてきたんじゃないかと。
なにかあるたびにこの「滅びの呪文」を唱えて、クリーンアップしてラピュタはながらえてきた。アップデート失敗したな、と思ったら、「バルス」と唱えて、リカバリーする。
ムスカが「何度でもラピュタはよみがえるさ」といっていたけれど、「何度でも《わたし》はよみがえるさ」じゃないところがムスカが実はラピュタの本質をとらえていたところだったんじゃないかとおもうんです。
だから実は「バルス」って気軽に唱えられてきた呪文でもあったのではないか。
どんなことがあってもラピュタ《さえ》残ればいいんだというある意味では富野由悠季的な全滅思想。
みな死んで赤い風船だけ残る 佐々木貴子
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