【感想】元彼や LINE にゐなくなつても好き 佐藤文香
- 2016/02/21
- 07:49
元彼や LINE にゐなくなつても好き 佐藤文香
此の河は絶えず流れゆき/一つでも浮かべてはならない花などが在るだろうか/無い筈だ/僕を認めてよ 椎名林檎「月に負け犬」
【フローする俳句】
『しばかぶれ』の「ヒビのブブン」から佐藤さんの一句です。
この『しばかぶれ』、中山奈々さんの特集が奈々さんをめぐる旧作(文香さん選)・新作・小論・しばかぶれメンバーによる奈々さんの一句鑑賞・エッセイ・年表・ブロマイドなど決して突き放した距離感ではなく、〈隣にいる奈々さん〉としての立体的な奈々さんの俳句イメージが誌面構成されているおもしろい俳誌だったんですが、文香さんの俳句作品はすべて「横書き」になっているのも面白いなと思ったんですね。
で、この連作「ヒビのブブン」のなかに「●SNS編」という一連があるんだけれど、あらためて考えてみるとわたしたちが短詩に〈いま〉出会うときって実はほとんど〈横書き〉でであってしまっている現状があるんじゃないかと思うんです。むしろデフォルトが〈横書き〉になっている。これは形式的問題というよりは、日々の生活のエコノミーの問題というか、わたしたちのふだんの〈読書〉ってネットなわけですよね。ネットから短詩を知ることが多くなっている。で、そこからわたしたちは興味があれば句集といった縦書きテキストに向かったりする。
ニコニコ動画ってありますよね、ニコニコ動画って〈横書き〉のコメントが動画のさいちゅうにだーっと流れていくんだけれども、今振り返ってみるとニコニコ動画のメディアの特徴ってネットメディアをめぐる〈無常観〉を〈的確に〉とらえていたところにあるんじゃないかとおもうんです。
コメントを入れてもさーっと流れて消えていく。そこでは言葉をいかに残すかというよりは、その場その場に即応しつつ〈インパクトはあるが消えてしまう状況〉を〈消える言葉〉で言語化しながら動画をたのしんでいた。そういう〈無常観〉が前提としてあったんじゃないかとおもう。
横書きってどこかでそういうフローな流れる言葉と即応しあっていると思うんだけれど、
元彼や LINE にゐなくなつても好き 佐藤文香
元好きな人のふたりの息子かな 〃
いいね!と押してサラダの味は永遠 〃
みたいな〈フローできないわたし〉の句が〈横書き〉で構成されていくのってちょっと面白いなっておもったんです。「LINEにゐなくなつても好き」だし、「元好きな人」に「ふたりの息子」がいることを意識してしまうし、「いいね!」ボタンにさえ「永遠」を感じる。
横書き言語はフローする言葉なんだけれど、そのなかでフローできない〈わたし〉を綴る。
だとしたら横書きの俳句の位相っていうか、〈横書きの俳句〉はいつもどこをたゆたっているんだろうって思うんです。〈横書きの短詩〉はといいかえてみてもいい。
上から下への縦書きはたぶんベクトルとしては中性的なんですよ。ニュートラルというか(と言っちゃだめかもしれないけれど)。でも横書きは左から右へだからゲームのスーパーマリオの進行方向みたいに偏差があるわけですよね(たしか演劇の理論では右にはいつも〈強い人間〉がいて左には〈弱い人間〉がいる(よくアニメでも敵は画面右にいます)。舞台の右って上手(かみて)っていわれてますよね。落語では上手の方に向いてご隠居さんに話しかけたりする。能だと下手の左からあの世の亡霊がやってきますよね。上手は生きてる人間の世界です)。
これは読み込みすぎだとも思うけれど、そういう〈横書き〉のなかで恋愛感情の偏差みたいなものが出てくるんじゃないかと思うんです。縦書きのようにすましてはいられないというか。
フローする世界のなかでフローできない〈わたし〉が綴る「ヒビのブブン」。それは〈偏差〉だから「ブブン」なんです。しかももっと偏っ カタカナで「ブブン」。だからこそ、そうした偏った一方向的な時間のフローのなかでこんなふうな〈時間をさかのぼる〉句が意味をもってくるんじゃないかともおもう。
君は鮭♂つぶやきを遡る 佐藤文香
『ニコニコ動画』(2006~)。ニコニコ動画でわたしがおもしろいなっていつも思ってたのが〈消える〉ということが前提の思想がニコニコ動画圏では共有されていたことだったとおもうんですよ。〈消すとふえる〉というタグがあるように、どこかでこんなんやったら消えるんだろう、運営から消されるんだろうなっていうのがどこかであった。でも、フローして消えていく〈コメントの共同体的記憶〉によって残っていくなにかがあった。それってちょっと共同体の根っこのありかたみたいでニコニコ動画が生まれた当時おもしろいなって思って観ていました。わたしたちは消えるんだけれども、でもここでいまこうしてあったことはわたしたちの誰かはわすれないだろう、というような。ちょっとロマン主義的でもあった気もします。ネットの奥にも魂があるんだというか。
此の河は絶えず流れゆき/一つでも浮かべてはならない花などが在るだろうか/無い筈だ/僕を認めてよ 椎名林檎「月に負け犬」
【フローする俳句】
『しばかぶれ』の「ヒビのブブン」から佐藤さんの一句です。
この『しばかぶれ』、中山奈々さんの特集が奈々さんをめぐる旧作(文香さん選)・新作・小論・しばかぶれメンバーによる奈々さんの一句鑑賞・エッセイ・年表・ブロマイドなど決して突き放した距離感ではなく、〈隣にいる奈々さん〉としての立体的な奈々さんの俳句イメージが誌面構成されているおもしろい俳誌だったんですが、文香さんの俳句作品はすべて「横書き」になっているのも面白いなと思ったんですね。
で、この連作「ヒビのブブン」のなかに「●SNS編」という一連があるんだけれど、あらためて考えてみるとわたしたちが短詩に〈いま〉出会うときって実はほとんど〈横書き〉でであってしまっている現状があるんじゃないかと思うんです。むしろデフォルトが〈横書き〉になっている。これは形式的問題というよりは、日々の生活のエコノミーの問題というか、わたしたちのふだんの〈読書〉ってネットなわけですよね。ネットから短詩を知ることが多くなっている。で、そこからわたしたちは興味があれば句集といった縦書きテキストに向かったりする。
ニコニコ動画ってありますよね、ニコニコ動画って〈横書き〉のコメントが動画のさいちゅうにだーっと流れていくんだけれども、今振り返ってみるとニコニコ動画のメディアの特徴ってネットメディアをめぐる〈無常観〉を〈的確に〉とらえていたところにあるんじゃないかとおもうんです。
コメントを入れてもさーっと流れて消えていく。そこでは言葉をいかに残すかというよりは、その場その場に即応しつつ〈インパクトはあるが消えてしまう状況〉を〈消える言葉〉で言語化しながら動画をたのしんでいた。そういう〈無常観〉が前提としてあったんじゃないかとおもう。
横書きってどこかでそういうフローな流れる言葉と即応しあっていると思うんだけれど、
元彼や LINE にゐなくなつても好き 佐藤文香
元好きな人のふたりの息子かな 〃
いいね!と押してサラダの味は永遠 〃
みたいな〈フローできないわたし〉の句が〈横書き〉で構成されていくのってちょっと面白いなっておもったんです。「LINEにゐなくなつても好き」だし、「元好きな人」に「ふたりの息子」がいることを意識してしまうし、「いいね!」ボタンにさえ「永遠」を感じる。
横書き言語はフローする言葉なんだけれど、そのなかでフローできない〈わたし〉を綴る。
だとしたら横書きの俳句の位相っていうか、〈横書きの俳句〉はいつもどこをたゆたっているんだろうって思うんです。〈横書きの短詩〉はといいかえてみてもいい。
上から下への縦書きはたぶんベクトルとしては中性的なんですよ。ニュートラルというか(と言っちゃだめかもしれないけれど)。でも横書きは左から右へだからゲームのスーパーマリオの進行方向みたいに偏差があるわけですよね(たしか演劇の理論では右にはいつも〈強い人間〉がいて左には〈弱い人間〉がいる(よくアニメでも敵は画面右にいます)。舞台の右って上手(かみて)っていわれてますよね。落語では上手の方に向いてご隠居さんに話しかけたりする。能だと下手の左からあの世の亡霊がやってきますよね。上手は生きてる人間の世界です)。
これは読み込みすぎだとも思うけれど、そういう〈横書き〉のなかで恋愛感情の偏差みたいなものが出てくるんじゃないかと思うんです。縦書きのようにすましてはいられないというか。
フローする世界のなかでフローできない〈わたし〉が綴る「ヒビのブブン」。それは〈偏差〉だから「ブブン」なんです。しかももっと偏っ カタカナで「ブブン」。だからこそ、そうした偏った一方向的な時間のフローのなかでこんなふうな〈時間をさかのぼる〉句が意味をもってくるんじゃないかともおもう。
君は鮭♂つぶやきを遡る 佐藤文香
『ニコニコ動画』(2006~)。ニコニコ動画でわたしがおもしろいなっていつも思ってたのが〈消える〉ということが前提の思想がニコニコ動画圏では共有されていたことだったとおもうんですよ。〈消すとふえる〉というタグがあるように、どこかでこんなんやったら消えるんだろう、運営から消されるんだろうなっていうのがどこかであった。でも、フローして消えていく〈コメントの共同体的記憶〉によって残っていくなにかがあった。それってちょっと共同体の根っこのありかたみたいでニコニコ動画が生まれた当時おもしろいなって思って観ていました。わたしたちは消えるんだけれども、でもここでいまこうしてあったことはわたしたちの誰かはわすれないだろう、というような。ちょっとロマン主義的でもあった気もします。ネットの奥にも魂があるんだというか。
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