【感想】選択肢は三つ ポピーに水を遣る、猫を飼ふ、ぼくの恋人になる 山田航
- 2014/07/14
- 05:53
選択肢は三つ ポピーに水を遣る、猫を飼ふ、ぼくの恋人になる
蜂蜜を落とせラジオのスイッチを捻れ火照つたまぶたをさぐれ
なんだつて混ぜたがる癖 不揃ひな本棚 窓に揺れる靴下
山田航『さよならバグ・チルドレン』
【バグる夕焼け、夕焼けの〈外部〉へ】
山田航さんの歌集を読んでいてひとつある特徴として思うのが、〈並列〉としての主題があるのではないか、ということです。
で、そんなみっつの歌を三首抜き出してみたんですが、こうしてならべてみておもうのは、どれも三つ並んでいるということです。
もっというと、不揃いとしての〈三つ揃い(スリーピース)〉がここにはみられるとおもうんですね。
たとえばいちばん上の歌なんですが、「ポピーに水を遣る」と「猫を飼ふ」と「ぼくの恋人になる」が並列化して並んでいます。選択肢が三つということは、〈選択肢〉というレベルを通して、語り手はこれら三つの位階を解除し、それぞれをすべて押しならべ平準化したかたちで提示したということです。ここではおそらく〈ポピーへの水やり〉と〈猫を飼うこと〉と〈付き合うこと〉が等価にあります。しかしその〈不揃いのスリーピース〉は、定型だからこそなしえている〈裏技〉です。もしここに定型以上の文脈(コンテクスト)が入り込んでくれば、この三つの平準化は崩壊し、位階化され、ばらばらになってしまうかもしれないという定型の外部にあっては不均衡としての緊張がはしる世界観があります。
ほかの「蜂蜜」と「ラジオ」と「まぶた」が並列化したうたも、「癖」と「本棚」と「靴下」もおそらく、これらのスリーピースにある一定の緊密さを与えているのは〈定型〉なのではないかとおもいます。定型という世界観に語り手が守られているかぎり、この〈選択肢の提示〉としての世界観は守り抜かれます。しかし、裏を返せば、そのことによって語り手は語らないかたちで定型の〈外部〉を語っているのではないかとおもうんですね。
つまりこれら〈並列〉のうたの主題とは、〈定型〉の〈外部〉を主題にもつ歌。バグとしての定型を逆照射されるかたちで、かんがえぬき、いきぬくうたといえるのではないでしょうか。
バグとはおそらく〈自閉〉していくうシステムにおいてなお〈外部〉を思考しつづけるというラディカルな〈思想〉のことだったのではないでしょうか。自閉するシステムにバグとしてのほころびを見出し、そこから〈夕陽〉がもれだしてしまっていることを感じ取る思想家が〈バグ・チルドレン〉と呼ばれたのではないか、と。
いつの日か誰かわかつてくれるだらう 夕焼けもまた自閉してゆく 山田航
蜂蜜を落とせラジオのスイッチを捻れ火照つたまぶたをさぐれ
なんだつて混ぜたがる癖 不揃ひな本棚 窓に揺れる靴下
山田航『さよならバグ・チルドレン』
【バグる夕焼け、夕焼けの〈外部〉へ】
山田航さんの歌集を読んでいてひとつある特徴として思うのが、〈並列〉としての主題があるのではないか、ということです。
で、そんなみっつの歌を三首抜き出してみたんですが、こうしてならべてみておもうのは、どれも三つ並んでいるということです。
もっというと、不揃いとしての〈三つ揃い(スリーピース)〉がここにはみられるとおもうんですね。
たとえばいちばん上の歌なんですが、「ポピーに水を遣る」と「猫を飼ふ」と「ぼくの恋人になる」が並列化して並んでいます。選択肢が三つということは、〈選択肢〉というレベルを通して、語り手はこれら三つの位階を解除し、それぞれをすべて押しならべ平準化したかたちで提示したということです。ここではおそらく〈ポピーへの水やり〉と〈猫を飼うこと〉と〈付き合うこと〉が等価にあります。しかしその〈不揃いのスリーピース〉は、定型だからこそなしえている〈裏技〉です。もしここに定型以上の文脈(コンテクスト)が入り込んでくれば、この三つの平準化は崩壊し、位階化され、ばらばらになってしまうかもしれないという定型の外部にあっては不均衡としての緊張がはしる世界観があります。
ほかの「蜂蜜」と「ラジオ」と「まぶた」が並列化したうたも、「癖」と「本棚」と「靴下」もおそらく、これらのスリーピースにある一定の緊密さを与えているのは〈定型〉なのではないかとおもいます。定型という世界観に語り手が守られているかぎり、この〈選択肢の提示〉としての世界観は守り抜かれます。しかし、裏を返せば、そのことによって語り手は語らないかたちで定型の〈外部〉を語っているのではないかとおもうんですね。
つまりこれら〈並列〉のうたの主題とは、〈定型〉の〈外部〉を主題にもつ歌。バグとしての定型を逆照射されるかたちで、かんがえぬき、いきぬくうたといえるのではないでしょうか。
バグとはおそらく〈自閉〉していくうシステムにおいてなお〈外部〉を思考しつづけるというラディカルな〈思想〉のことだったのではないでしょうか。自閉するシステムにバグとしてのほころびを見出し、そこから〈夕陽〉がもれだしてしまっていることを感じ取る思想家が〈バグ・チルドレン〉と呼ばれたのではないか、と。
いつの日か誰かわかつてくれるだらう 夕焼けもまた自閉してゆく 山田航
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