【感想】輪廻など信じたくなし限りなく生まれ変わってたかが俺かよ 松木秀
- 2016/03/07
- 13:30
輪廻など信じたくなし限りなく生まれ変わってたかが俺かよ 松木秀
【かなしみをかなしめない】
この松木さんの歌の「たかが」っていうのがけっこう大事だと思っていて、これって「輪廻転生」という概念が〈平板化〉しているっていうことだと思うんですよ。「たかが俺かよ」でもあるんだけれど、同時に、「たかが輪廻転生」でもある。そういう価値が平板化していく時代をうたっているのが松木秀さんの短歌なんじゃないかとおもうんです。「たかが」の発見というか、概念がさまざまに平板化していることに気がついてしまっている。
さいきんずっと山田航さんの『桜前線開架宣言』を読んでいるんですが、そのなかで松木さんの歌をみていったときに「かなしみ」を歌った歌がおおいなとおもったんです。
カップ焼きそばにてお湯を切るときにへこむ流しのかなしきしらべ 松木秀
かなしきはスタートレック 三百年のちにもハゲは解決されず 〃
オホーツク紋別かなし自殺者の数にばっかり引用されて 〃
これらにある〈かなしみ〉って「たかがかなしみ」のようにも思えるんですよ。〈ほんとうに切実なかなしみ〉はそこにはない。
たとえば近代短歌では「かなしみ」は、
石をもて追はるるごとく
ふるさとを出でしかなしみ
消ゆる時なし 石川啄木
というふうに〈せつじつ〉なものだった。みずからの存在の疎外とかなしみが結びついていた。
でも松木さんの短歌のなかのかなしみは、そういう存在を引き受けるかなしみというよりも、もはや存在をひきうけられなくなってしまったかなしみを《あえて》浮き彫りにしているように思うんですね。存在と等価でも等量でもないかなしみです。わたしでなくてもいい「かなしみ」というか。明日には忘れてしまうであろう「消ゆる時」もあるかなしみ。
だから「かなしみ」という概念が疲弊しきったその〈よれたかなしみ〉がここにはあるんじゃないかとおもう。なにがかなしいのかといえば、実はそれこそがかなしいんじゃないかと。すなわち、かなしみという概念が平板化し、疲弊しきってしまったことが。かなしみをかなしめないことが。
松木さんの短歌ってそういう〈概念の疲弊化〉を浮き彫りにしてるんじゃないかとおもうんですね。
でもそういう概念が平板化していくなかに《隙間》をみつけることがある。平板と平板の《隙間》がリアルになっていってしまうことに、ふっと、きづいちゃうしゅんかんが、ある。かなしくもたのしくもきもちよくもこわくもほほえましくもおかしくもしたしくもなつかしくもない「闇」を。
ああ闇はここにしかないコンビニのペットボトルの棚の隙間に 松木秀
ティム・バートン『ビートルジュース』(1988)。ティム・バートンってホラーの平板化をむしろ積極的に引き受けたひとだと思うんですよ。魂とか流血とか死とか死体とか惨殺とかそういうものはむしろチープなものなんだと。でもチープととらえたときにそこにはじめて生まれる死への独創性や造型が生まれる場合があるんだと。この映画、だいすきなんですが、そういうティム・バートン色がすごく最上のかたちで出ている生者をお祓いするバイオ・エクソシスト映画になっているんじゃないかと思うんです。
【かなしみをかなしめない】
この松木さんの歌の「たかが」っていうのがけっこう大事だと思っていて、これって「輪廻転生」という概念が〈平板化〉しているっていうことだと思うんですよ。「たかが俺かよ」でもあるんだけれど、同時に、「たかが輪廻転生」でもある。そういう価値が平板化していく時代をうたっているのが松木秀さんの短歌なんじゃないかとおもうんです。「たかが」の発見というか、概念がさまざまに平板化していることに気がついてしまっている。
さいきんずっと山田航さんの『桜前線開架宣言』を読んでいるんですが、そのなかで松木さんの歌をみていったときに「かなしみ」を歌った歌がおおいなとおもったんです。
カップ焼きそばにてお湯を切るときにへこむ流しのかなしきしらべ 松木秀
かなしきはスタートレック 三百年のちにもハゲは解決されず 〃
オホーツク紋別かなし自殺者の数にばっかり引用されて 〃
これらにある〈かなしみ〉って「たかがかなしみ」のようにも思えるんですよ。〈ほんとうに切実なかなしみ〉はそこにはない。
たとえば近代短歌では「かなしみ」は、
石をもて追はるるごとく
ふるさとを出でしかなしみ
消ゆる時なし 石川啄木
というふうに〈せつじつ〉なものだった。みずからの存在の疎外とかなしみが結びついていた。
でも松木さんの短歌のなかのかなしみは、そういう存在を引き受けるかなしみというよりも、もはや存在をひきうけられなくなってしまったかなしみを《あえて》浮き彫りにしているように思うんですね。存在と等価でも等量でもないかなしみです。わたしでなくてもいい「かなしみ」というか。明日には忘れてしまうであろう「消ゆる時」もあるかなしみ。
だから「かなしみ」という概念が疲弊しきったその〈よれたかなしみ〉がここにはあるんじゃないかとおもう。なにがかなしいのかといえば、実はそれこそがかなしいんじゃないかと。すなわち、かなしみという概念が平板化し、疲弊しきってしまったことが。かなしみをかなしめないことが。
松木さんの短歌ってそういう〈概念の疲弊化〉を浮き彫りにしてるんじゃないかとおもうんですね。
でもそういう概念が平板化していくなかに《隙間》をみつけることがある。平板と平板の《隙間》がリアルになっていってしまうことに、ふっと、きづいちゃうしゅんかんが、ある。かなしくもたのしくもきもちよくもこわくもほほえましくもおかしくもしたしくもなつかしくもない「闇」を。
ああ闇はここにしかないコンビニのペットボトルの棚の隙間に 松木秀
ティム・バートン『ビートルジュース』(1988)。ティム・バートンってホラーの平板化をむしろ積極的に引き受けたひとだと思うんですよ。魂とか流血とか死とか死体とか惨殺とかそういうものはむしろチープなものなんだと。でもチープととらえたときにそこにはじめて生まれる死への独創性や造型が生まれる場合があるんだと。この映画、だいすきなんですが、そういうティム・バートン色がすごく最上のかたちで出ている生者をお祓いするバイオ・エクソシスト映画になっているんじゃないかと思うんです。
- 関連記事
-
-
【感想】裏側に入れてほしくてあたらしく覚えてしまう脚の曲げ方 田丸まひる 2014/12/16
-
【感想】「きみはきのふ寺山修司」公園の猫に話してみれば寂しき 荻原裕幸 2015/06/05
-
【感想】鈴木晴香「降りそうで降らない」(短歌連作) 2015/09/28
-
【感想】乳房ふたつ横むきに寝てわれとちがふ考へごとをしてゐるやうな 米川千嘉子 2016/03/14
-
【感想】ああ海が見えるじゃないか柳谷さん自殺しなくてよかったですね 柳谷あゆみ 2014/05/04
-
スポンサーサイト
- テーマ:読書感想文
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:々々の短歌感想