【感想】精子以前、子のない頃の父の食う牛丼以前、牛や稲穂や 工藤吉生
- 2014/07/15
- 05:39
精子以前、子のない頃の父の食う牛丼以前、牛や稲穂や 工藤吉生
【宇宙史における牛丼(キラキラしてる)】
下の句の「牛丼以前、牛や稲穂や」をみてみるとわかりやすいと思うんですが、「牛丼」が、〈「牛肉」→「牛」〉と〈「米」→「稲穂」〉のそれぞれの加工前に遡行しています。
となると、上の句の「精子」も同じような構造をとっているはずで、「精子」は時間を逆流するかたちで「牛丼を食べ精子を製造している父」に還元されています。
この歌はこうした同じ構造を反復することによって57577の〈外部〉にもさらに膨大な無限反復があるのではないかということを想像させているように思うんです。
たとえばこうした定型のベクトルが進むことによって時間が逆に転流している流れをくみ取るならばこの「精子以前」の前に潜在的に置かれているのは、すべてのにんげんを含めた〈わたし〉かも知れないとも思うんですね。〈わたし以前〉、そのもっと前には、前にいけばいくほど時は未来にむかうので、〈わたしの死以前〉があるかもしれないし、さらに前にさかのぼれば〈すべての死以前〉があるかもしれない。
ただこの歌のおもしろいところは、この歌では前に進むにつれて時間が過去にむかっていくんですが、「牛や稲穂」よりさらに時間がすすんでいった場合、おそらく未来にさかのぼっていった〈場所〉とおなじ〈場所〉にたどりつくことになるのではないかというところです。〈すべての死=すべての生(はじまり)〉としての場所。
しかし、それはもちろん〈同じ場所=同一〉でありながらも〈同じ場所=同質〉ではないわけです。なぜなら、その〈すべてのX〉と〈すべてのX〉の場所のあいだには、「父」と「牛丼」と「牛」と「稲穂」が含まれているからです。とくにこの「父」の食べる「牛丼」こそが宇宙にとっては円環的である歴史をうちくだき、直線的な生きられた歴史をかたちづくる根拠になっている点がおもしろいと思います。
この語り手にとって、父の食べた牛丼は、円環する宇宙史をひっくりかえすくらいに「価値」のある「歴史的事象」だったのだと思うのです。だからそれはたとえ宇宙史にあっても反復しえない、一回性としての〈キラキラ〉です。
つまりわたしはこの歌のおもしろさは一見円環的な時間構造を語りかけながらも、「牛丼」というどこにでもあるが・しかしそのつど一回的に生きられる記号を持ち込むことによって直線的な時間構造に組み換えた歌としてのおもしろさがあるのではないかと思うのです。そのとき、牛丼は宇宙に匹敵するのです。
歴史上すべてが大事教科書をキラキラさせる君のイエロー 工藤吉生
【宇宙史における牛丼(キラキラしてる)】
下の句の「牛丼以前、牛や稲穂や」をみてみるとわかりやすいと思うんですが、「牛丼」が、〈「牛肉」→「牛」〉と〈「米」→「稲穂」〉のそれぞれの加工前に遡行しています。
となると、上の句の「精子」も同じような構造をとっているはずで、「精子」は時間を逆流するかたちで「牛丼を食べ精子を製造している父」に還元されています。
この歌はこうした同じ構造を反復することによって57577の〈外部〉にもさらに膨大な無限反復があるのではないかということを想像させているように思うんです。
たとえばこうした定型のベクトルが進むことによって時間が逆に転流している流れをくみ取るならばこの「精子以前」の前に潜在的に置かれているのは、すべてのにんげんを含めた〈わたし〉かも知れないとも思うんですね。〈わたし以前〉、そのもっと前には、前にいけばいくほど時は未来にむかうので、〈わたしの死以前〉があるかもしれないし、さらに前にさかのぼれば〈すべての死以前〉があるかもしれない。
ただこの歌のおもしろいところは、この歌では前に進むにつれて時間が過去にむかっていくんですが、「牛や稲穂」よりさらに時間がすすんでいった場合、おそらく未来にさかのぼっていった〈場所〉とおなじ〈場所〉にたどりつくことになるのではないかというところです。〈すべての死=すべての生(はじまり)〉としての場所。
しかし、それはもちろん〈同じ場所=同一〉でありながらも〈同じ場所=同質〉ではないわけです。なぜなら、その〈すべてのX〉と〈すべてのX〉の場所のあいだには、「父」と「牛丼」と「牛」と「稲穂」が含まれているからです。とくにこの「父」の食べる「牛丼」こそが宇宙にとっては円環的である歴史をうちくだき、直線的な生きられた歴史をかたちづくる根拠になっている点がおもしろいと思います。
この語り手にとって、父の食べた牛丼は、円環する宇宙史をひっくりかえすくらいに「価値」のある「歴史的事象」だったのだと思うのです。だからそれはたとえ宇宙史にあっても反復しえない、一回性としての〈キラキラ〉です。
つまりわたしはこの歌のおもしろさは一見円環的な時間構造を語りかけながらも、「牛丼」というどこにでもあるが・しかしそのつど一回的に生きられる記号を持ち込むことによって直線的な時間構造に組み換えた歌としてのおもしろさがあるのではないかと思うのです。そのとき、牛丼は宇宙に匹敵するのです。
歴史上すべてが大事教科書をキラキラさせる君のイエロー 工藤吉生
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