【感想】こどもだと思っていたら宿でした こんにちは、こどものような宿 笹井宏之
- 2016/03/18
- 00:09
こどもだと思っていたら宿でした こんにちは、こどものような宿 笹井宏之
【忘れること。もっと、忘れること。詩のために】
笹井さんの短歌にとって《健忘》って大事な要素かもしれないなとおもうんですね。ただこれは笹井さんの短歌だけじゃなくって、〈文学〉にとっても《健忘》って大事な機能だとおもうんですよ。わすれること。積極的に、わすれること。
じゃあ、どうしてか。
それはわたしたちが無意識にはめ込まれしまっているカテゴリーを解体し、再構築するからです。《病気》の基本的な機能もそうだとおもうんですが、《健全さ》っていうのは実は《普遍性》と強く結びついています。こうであらねばならない、こういう身体であらねばならない。でもひとは《不健康》になることによって、《健忘》することによって、規制的なカテゴリーをわすれ、あたらしくカテゴリーを創造することができる。それがひとつの詩の原理になるんじゃないかとおもうんですよ。
たとえばうえの歌だと「こどもだと思っていたら宿でした」とカテゴリー・ミステイクしていますね。ところがこのあと語り手は「こんにちは」とこの健忘的事態を言祝(ことほ)ぐわけです。いわばこの事態を歓待している。そして「こどものような宿」と「こども」というカテゴリーと「宿」という分離されたカテゴリーを直喩によって接着させてしまう。そういうマジックが笹井さんの短歌にはあるようにおもう。
笹井さんのわたしの大好きな短歌にこんな短歌があって、わたしはこの短歌のことをずうっとかんがえているんだけれど、これもひとつのカテゴリーミステイクからのマジックの短歌として読むことができるんじゃないかと、おもう。
この森で軍手を売って暮らしたい まちがえて図書館を建てたい 笹井宏之
新藤兼人『午後の遺言状』(1995)。〈老い〉がひとつのテーマになっていると思うんですが、でも〈老い〉ってただ憂うような事態ではなくて、ひとが生きていくことを考えていく場所でもあるとおもうんですね。身体や意識のありかたが老いによってもっともっと前景化してくる。腹痛のときにお腹をふだんより意識するように、老いによって、もしくは老いをみつめることによってもっとわたしたちは忘れていた身体や意識のありかたを思い出すようにおもうんですよ。で、それをなかば喜劇としてなかば悲劇として、そのどちらにも帰着せずに、ただ流れていく川のような場所で描いたとてもいい映画だと思います。老いをテーマにしていてもきちんと大胆な性愛も描いているし。いいね、って思う。
【忘れること。もっと、忘れること。詩のために】
笹井さんの短歌にとって《健忘》って大事な要素かもしれないなとおもうんですね。ただこれは笹井さんの短歌だけじゃなくって、〈文学〉にとっても《健忘》って大事な機能だとおもうんですよ。わすれること。積極的に、わすれること。
じゃあ、どうしてか。
それはわたしたちが無意識にはめ込まれしまっているカテゴリーを解体し、再構築するからです。《病気》の基本的な機能もそうだとおもうんですが、《健全さ》っていうのは実は《普遍性》と強く結びついています。こうであらねばならない、こういう身体であらねばならない。でもひとは《不健康》になることによって、《健忘》することによって、規制的なカテゴリーをわすれ、あたらしくカテゴリーを創造することができる。それがひとつの詩の原理になるんじゃないかとおもうんですよ。
たとえばうえの歌だと「こどもだと思っていたら宿でした」とカテゴリー・ミステイクしていますね。ところがこのあと語り手は「こんにちは」とこの健忘的事態を言祝(ことほ)ぐわけです。いわばこの事態を歓待している。そして「こどものような宿」と「こども」というカテゴリーと「宿」という分離されたカテゴリーを直喩によって接着させてしまう。そういうマジックが笹井さんの短歌にはあるようにおもう。
笹井さんのわたしの大好きな短歌にこんな短歌があって、わたしはこの短歌のことをずうっとかんがえているんだけれど、これもひとつのカテゴリーミステイクからのマジックの短歌として読むことができるんじゃないかと、おもう。
この森で軍手を売って暮らしたい まちがえて図書館を建てたい 笹井宏之
新藤兼人『午後の遺言状』(1995)。〈老い〉がひとつのテーマになっていると思うんですが、でも〈老い〉ってただ憂うような事態ではなくて、ひとが生きていくことを考えていく場所でもあるとおもうんですね。身体や意識のありかたが老いによってもっともっと前景化してくる。腹痛のときにお腹をふだんより意識するように、老いによって、もしくは老いをみつめることによってもっとわたしたちは忘れていた身体や意識のありかたを思い出すようにおもうんですよ。で、それをなかば喜劇としてなかば悲劇として、そのどちらにも帰着せずに、ただ流れていく川のような場所で描いたとてもいい映画だと思います。老いをテーマにしていてもきちんと大胆な性愛も描いているし。いいね、って思う。
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