【短歌連作】「だいたいが、熊。」『かばん』2016年3月号掲載作
- 2016/04/01
- 06:29
【詞書】私はだいたいにおいて春の熊のように健康なのだ 村上春樹
お別れに新巻鮭を差し出した不器用なあなた熊の教室
トレンチを着込んだクマがささやいた「お嬢さん俺だお逃げなさい」 春
縞々のスイムスーツのクマさんが「お逃げなさい」と抱き締める夏
「お逃げなさい」クマに云われてあたふたと Google Earth を取り出して、秋
雪はもう降らないのかとシロクマに訊かれる冬だ 答えなんてない
花束を背中にあててクマがいう「あなたはきっと二番目の少女」
春の淵ですべてのおわりに立っているあなたに熊が呉れた荒巻
バスが来て、男の子・猫・女の子・クマ・俺が乗る、春の混沌
柳本々々「だいたいが、熊。」『かばん』2016年3月号掲載作
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【添え書きの園】
トレンチコートを着込んだクマに背中からぴすとるを突きつけられながら「お逃げなさい」と言われた私は、ともかく私がお嬢さんではないということを自身で確認した。耳元で「最後のパスワードは『シロイカイガラノイヤリング』」とクマに言われ、「わかった」と言って私は春の野に駆け出した。お得意のわかったふりをしたのである。
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【新春題詠「さっき」】
さっきから彗星の音がするみたい 膝を抱いたまま眠りこむ神父 柳本々々
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福島直広さん、三澤達世さんから歌評をいただきました。ありがとうございました!
少しずつ小さくなっていくCの向きを三回ずつ言わされる 福島直広
氷ありてあなたの中に問いかけを投げてもかつんと音するばかり 三澤達世
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