【ふしぎな川柳 第八十八夜】死にました、よ-岩田多佳子-
- 2016/04/08
- 18:24
やわらかい指で差されて死にました 岩田多佳子
ここは、いったいどこだろう、なんの物音もない。そのような、無限に静寂な、真暗闇に、笠井さんは、いた。
太宰治「八十八夜」
【形式のなかであなたと暮らす】
さいきんちょっと現代川柳にはなぜ〈口語形式〉が多いんだろうって考えていたんです。
ぜったいに非経済的なはずなんです。17音しかないわけですから、口語なんて饒舌な形式を選ぶのは間違っている。しかも、〈ていねいな口語〉なんです。ていねいにすればさらに饒舌になって意味はほとんど盛り込めなくなってしまう。だから意味の経済性で考えると口語を選択するのは間違っている。
間違っているのに、現代川柳は〈ていねいな口語〉をえらぶ。
それがいつもすごく不思議なんです。でもそこには、《だからこそ》、現代川柳が志向しているなにかがあるうように思う。
で、ひとつ思ったのが、そもそも〈口語〉ってなんだろうってことです。多佳子さんの句では「死にました」でこれが口語だとわかります。口語というのは、〈話している〉ということですから、そこには誰か〈聴き手〉がいるはずです。その〈聴き手〉がいるからこそ、その〈聴き手〉に対してていねいに話しかけているわけです。「死にました」と。
そのとき思うのは、〈口語〉っていうのは〈誰かに話しかける〉形式だということです。つまり、ずっと〈誰か〉を気にしながらそこに言語を盛り込んでいく形式だということです。まず「はじめに言葉ありき」ではなく、まず「はじめに誰かありき」なのです。
つまり、ずっと〈世界〉に対して〈対話〉しているのが、問いかけているのが川柳なのではないかと思うんです。だから川柳は〈ていねいな口語〉を選ぶのではないかと。上から居丈高に話すのではない。あなたにていねいに語りかけ、問いかけ、反論されたいとも思っている。
それが川柳の対話形式なんじゃないかとおもうんです。
産まれたわ40トンの水と朝 岩田多佳子
コッポラ『地獄の黙示録』(1979)。この映画ってたぶん、ずっと主人公が自身と対話している映画で、で、たぶん最後まで一歩もその〈対話〉から出られなかったところに〈地獄〉があったんじゃないかと思うんです。ベトナム戦争に行った。奥地の狂気の共同体にたどりついた。でも結局〈対話〉の循環のようなところから抜け出せなかった。戦争が終わってもずっとそれは抜け出せないだろう。伊藤計劃さんじゃないんですけど、そういう〈頭のなかに地獄がある〉ことをスペクタクルに描いた映画なんじゃないかとおもうんです。
ここは、いったいどこだろう、なんの物音もない。そのような、無限に静寂な、真暗闇に、笠井さんは、いた。
太宰治「八十八夜」
【形式のなかであなたと暮らす】
さいきんちょっと現代川柳にはなぜ〈口語形式〉が多いんだろうって考えていたんです。
ぜったいに非経済的なはずなんです。17音しかないわけですから、口語なんて饒舌な形式を選ぶのは間違っている。しかも、〈ていねいな口語〉なんです。ていねいにすればさらに饒舌になって意味はほとんど盛り込めなくなってしまう。だから意味の経済性で考えると口語を選択するのは間違っている。
間違っているのに、現代川柳は〈ていねいな口語〉をえらぶ。
それがいつもすごく不思議なんです。でもそこには、《だからこそ》、現代川柳が志向しているなにかがあるうように思う。
で、ひとつ思ったのが、そもそも〈口語〉ってなんだろうってことです。多佳子さんの句では「死にました」でこれが口語だとわかります。口語というのは、〈話している〉ということですから、そこには誰か〈聴き手〉がいるはずです。その〈聴き手〉がいるからこそ、その〈聴き手〉に対してていねいに話しかけているわけです。「死にました」と。
そのとき思うのは、〈口語〉っていうのは〈誰かに話しかける〉形式だということです。つまり、ずっと〈誰か〉を気にしながらそこに言語を盛り込んでいく形式だということです。まず「はじめに言葉ありき」ではなく、まず「はじめに誰かありき」なのです。
つまり、ずっと〈世界〉に対して〈対話〉しているのが、問いかけているのが川柳なのではないかと思うんです。だから川柳は〈ていねいな口語〉を選ぶのではないかと。上から居丈高に話すのではない。あなたにていねいに語りかけ、問いかけ、反論されたいとも思っている。
それが川柳の対話形式なんじゃないかとおもうんです。
産まれたわ40トンの水と朝 岩田多佳子
コッポラ『地獄の黙示録』(1979)。この映画ってたぶん、ずっと主人公が自身と対話している映画で、で、たぶん最後まで一歩もその〈対話〉から出られなかったところに〈地獄〉があったんじゃないかと思うんです。ベトナム戦争に行った。奥地の狂気の共同体にたどりついた。でも結局〈対話〉の循環のようなところから抜け出せなかった。戦争が終わってもずっとそれは抜け出せないだろう。伊藤計劃さんじゃないんですけど、そういう〈頭のなかに地獄がある〉ことをスペクタクルに描いた映画なんじゃないかとおもうんです。
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