【感想】或いはわたしたちはどんなふうにたった一度きりの鍵を使うのか-短詩の鍵-
- 2016/04/25
- 00:48
おねがいねって渡されているこの鍵をわたしは失くしてしまう気がする 東直子
よく眠る人から鍵を渡される ながたまみ
長き夜の外から鍵のかかる部屋 喪字男
【内側の鍵】
鍵をめぐって上から短歌・川柳・俳句と並べてみました。
で、このみっつの鍵をめぐる短詩からわかってくるのは、鍵っていうのは決して〈密室〉や〈自閉〉をつくるものではなくて、たえず〈外〉にむかって送り返されていくものなのではないかと思うんです。
たとえば東さんの歌では「渡されているこの鍵」なので「鍵」にはいつもその渡したひとがひも付けられている。その「鍵」をどうしようが渡したひととつねに行為は関連づけられる。これはながたさんの句もそうです。「よく眠る人」との連関で鍵は存在している。このふたつの鍵は〈関係性〉とつねに連絡づけられている鍵です。その意味で〈閉じる〉ことはできません。鍵をかけようはなくそうがその託した人間はずっと語り手のこころの鍵を握っているから。
たとえば喪字男さんの句も実はそうだとおもうんですね。ここには鍵を託すひとは出てこないけれど、でも「外から鍵のかかる部屋」なんだと語り手が気付いています。部屋への認識として。ということは、語り手は実際の鍵をもったというよりは、〈認識としての鍵〉を手に入れたことになります。だから鍵をかけられようとかけられまいとそれは関係ない。それよりもずっとこの語り手のこころのなかに鍵があることが肝心なのです。
こころという言い方をしたけれど、これは〈逃げられない場所〉のようなものです。でも、根本的な〈鍵〉ってじつは〈それ〉なんじゃないかとおもうんです。物理的な鍵はたいしたことはない。それはいずれひらくものだし、ひらくかひらかないかという二項対立上のたいした鍵ではないのです。
でもじぶんの内側にうまれてしまった鍵はちがいます。もしそれに気がついてしまったら、もう逃げられない。それをかかえて生きていくしかないのです。ときに歌や句にしながら。
わたしは各人がもつ〈鍵〉ってそういうものじゃないかと思うのです。それはときどき言語表現によって外側にでてくる。そしてだれかと、読み手と、関係をもつ。鍵を交換しあうことさえある。そうやって鍵は世界を流通していく。
でもこの世でほんとうに使える鍵は、たったひとつです。そのたったいちどきりの鍵をつかう機会のためにひとはいくえもの部屋をくぐりぬけて生きていくんじゃないかとさえ、おもう。
美しい鍵だ使えば戻れない 竹井紫乙
ヴェンダース『ベルリン・天使の詩』(1987)。ヴェンダースってロードムービーというか長い長い道のりをえんえんと旅すること自体が〈旅〉になっていくような映画が多いように思うんですが、この『ベルリン』ではひとびとの〈内面〉を旅すること自体が〈旅〉になっているように思うんです。で、あるひとりの天使が人間に恋をして人間になりたいと思う。ここでは〈旅〉すること自体が〈旅〉化している旅人が旅をやめるときいったいどういうドラマが成立するのかしないのかが問われているように思うんです。そしてそれもひとつの、たったいちどきりの〈鍵〉じゃないかと。
よく眠る人から鍵を渡される ながたまみ
長き夜の外から鍵のかかる部屋 喪字男
【内側の鍵】
鍵をめぐって上から短歌・川柳・俳句と並べてみました。
で、このみっつの鍵をめぐる短詩からわかってくるのは、鍵っていうのは決して〈密室〉や〈自閉〉をつくるものではなくて、たえず〈外〉にむかって送り返されていくものなのではないかと思うんです。
たとえば東さんの歌では「渡されているこの鍵」なので「鍵」にはいつもその渡したひとがひも付けられている。その「鍵」をどうしようが渡したひととつねに行為は関連づけられる。これはながたさんの句もそうです。「よく眠る人」との連関で鍵は存在している。このふたつの鍵は〈関係性〉とつねに連絡づけられている鍵です。その意味で〈閉じる〉ことはできません。鍵をかけようはなくそうがその託した人間はずっと語り手のこころの鍵を握っているから。
たとえば喪字男さんの句も実はそうだとおもうんですね。ここには鍵を託すひとは出てこないけれど、でも「外から鍵のかかる部屋」なんだと語り手が気付いています。部屋への認識として。ということは、語り手は実際の鍵をもったというよりは、〈認識としての鍵〉を手に入れたことになります。だから鍵をかけられようとかけられまいとそれは関係ない。それよりもずっとこの語り手のこころのなかに鍵があることが肝心なのです。
こころという言い方をしたけれど、これは〈逃げられない場所〉のようなものです。でも、根本的な〈鍵〉ってじつは〈それ〉なんじゃないかとおもうんです。物理的な鍵はたいしたことはない。それはいずれひらくものだし、ひらくかひらかないかという二項対立上のたいした鍵ではないのです。
でもじぶんの内側にうまれてしまった鍵はちがいます。もしそれに気がついてしまったら、もう逃げられない。それをかかえて生きていくしかないのです。ときに歌や句にしながら。
わたしは各人がもつ〈鍵〉ってそういうものじゃないかと思うのです。それはときどき言語表現によって外側にでてくる。そしてだれかと、読み手と、関係をもつ。鍵を交換しあうことさえある。そうやって鍵は世界を流通していく。
でもこの世でほんとうに使える鍵は、たったひとつです。そのたったいちどきりの鍵をつかう機会のためにひとはいくえもの部屋をくぐりぬけて生きていくんじゃないかとさえ、おもう。
美しい鍵だ使えば戻れない 竹井紫乙
ヴェンダース『ベルリン・天使の詩』(1987)。ヴェンダースってロードムービーというか長い長い道のりをえんえんと旅すること自体が〈旅〉になっていくような映画が多いように思うんですが、この『ベルリン』ではひとびとの〈内面〉を旅すること自体が〈旅〉になっているように思うんです。で、あるひとりの天使が人間に恋をして人間になりたいと思う。ここでは〈旅〉すること自体が〈旅〉化している旅人が旅をやめるときいったいどういうドラマが成立するのかしないのかが問われているように思うんです。そしてそれもひとつの、たったいちどきりの〈鍵〉じゃないかと。
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