【短歌】水中の…(東京新聞・東京歌壇2016年5月1日・東直子 選)
- 2016/05/01
- 16:38
小さな子ツィゴーツィゴーとブランコを揺らす無人の公園、僕だ 安西大樹
自我を決定づけるのは、実は記憶や知性ではない。それらは正確であればあるほど、「情報」として、自我を拡散し匿名化してしまう。自我を決定づける重要な要因は「関係」によって限界を設定された「時間」(=締め切り)そのものなのだ。 斎藤環『文学の徴候』
【わたしだ】
以前から、短歌において〈わたし〉が〈わたし〉だと名乗るそのしゅんかんってとても興味があって、で、安西さんのこの東京歌壇の短歌をみたときに、〈わたし〉が〈わたし〉だと名乗ることができるのはそれは短歌の〈終わり〉がやってきたからと言うこともできるのかなって思ったんです。
形式的な問題として、最後の三音で「僕だ」と名乗らないと終わってしまう。気づいたから〈終わる〉のではなく、〈終わる〉から気づいたのではないか。そんなふうにおもうんですね。
で、なんでそんな逆の発想をするのかというと、〈終わり〉ってわたしがわたしであることの確定と意外に関係しているんじゃないかとおもうんです。たとえば、この日までにこれをやらなければいけない〈締め切り日〉ってありますよね。それを過ぎるともうどんな結果を出そうが無意味になってしまう。でもだからこそ、その〈締め切り〉が直前のわたしをどんどん決定し、確定していく。わたしはこれだ、と。わたしはこれ以外ありえないのだ、と。そして締め切りによって確定される。
そういう〈終わり〉から確定されるわたしってあるんじゃないかとおもうんですよ。だから、締め切りってこわいけれど、きもちいいものだとおもうんですよ。
ぜったいに書き換えできない、手をふれることのできない「この日までに」という言説がいかに大事かということ。
水中の手紙には手を触れないで燃え上がる声で朗読をする 柳本々々
(東京新聞・東京歌壇2016年5月1日・東直子 選)
桜桃忌に姉は出かけてゆきましたフィンガーボウルに水を残して 東直子
自我を決定づけるのは、実は記憶や知性ではない。それらは正確であればあるほど、「情報」として、自我を拡散し匿名化してしまう。自我を決定づける重要な要因は「関係」によって限界を設定された「時間」(=締め切り)そのものなのだ。 斎藤環『文学の徴候』
【わたしだ】
以前から、短歌において〈わたし〉が〈わたし〉だと名乗るそのしゅんかんってとても興味があって、で、安西さんのこの東京歌壇の短歌をみたときに、〈わたし〉が〈わたし〉だと名乗ることができるのはそれは短歌の〈終わり〉がやってきたからと言うこともできるのかなって思ったんです。
形式的な問題として、最後の三音で「僕だ」と名乗らないと終わってしまう。気づいたから〈終わる〉のではなく、〈終わる〉から気づいたのではないか。そんなふうにおもうんですね。
で、なんでそんな逆の発想をするのかというと、〈終わり〉ってわたしがわたしであることの確定と意外に関係しているんじゃないかとおもうんです。たとえば、この日までにこれをやらなければいけない〈締め切り日〉ってありますよね。それを過ぎるともうどんな結果を出そうが無意味になってしまう。でもだからこそ、その〈締め切り〉が直前のわたしをどんどん決定し、確定していく。わたしはこれだ、と。わたしはこれ以外ありえないのだ、と。そして締め切りによって確定される。
そういう〈終わり〉から確定されるわたしってあるんじゃないかとおもうんですよ。だから、締め切りってこわいけれど、きもちいいものだとおもうんですよ。
ぜったいに書き換えできない、手をふれることのできない「この日までに」という言説がいかに大事かということ。
水中の手紙には手を触れないで燃え上がる声で朗読をする 柳本々々
(東京新聞・東京歌壇2016年5月1日・東直子 選)
桜桃忌に姉は出かけてゆきましたフィンガーボウルに水を残して 東直子
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