【ふしぎな川柳 第九十三夜】あっちが主語-Sin-
- 2016/05/02
- 23:58
あの雲は僕が嫌いだ 猫のヒゲ Sin
【僕は僕を嫌いだ】
このSinさんの句でひとつ面白いなと思ったのが「僕が」と言いながらも、主語が「雲は」にあるんですね。「僕が」と言いながらもその「僕」は「雲」の目的語というか対象物なんですよ。
つまりこれって〈雲〉が主体の句なんですね。雲がなにかを考えている句なんです。
でも実は事態ははもっと込み入っているわけです。「猫のヒゲ」みたいに敏感でびりびりしていてマジカルです。
どういうことかというと、「雲は」に「あの」ってついていますよね。この「あの」っていうのは「僕」がつけたものです。「僕」からみて「あの雲」なんですね。だからこれは「僕」が考えている「雲」です。そしてその「雲」が「僕」を嫌っているのです。
つまり、まとめてみると「僕」がみているあの「雲」がこの「僕」を嫌っている、という構造の句になります。すなわち、「僕」が「僕」を嫌っている句なんです、実は。
でも「雲」を介することによって〈それ〉だけではなくなっている。「雲」に主体を託することによって「猫のヒゲ」のように拡散していく。だからほんとうに「僕」が「僕」のことを嫌っているかどうかはわからない。猫のヒゲが謎めいた構造をとっているように。
そんなふうに猫ってマジカルな構造をこちらにもたらすんじゃないかと思うんですよ。それはすごくシンプルですごく複雑という両面の同時性をとるようにおもうんです。
ひとにとっては猫そのものがいつでも〈研修〉を受けるべき学校のような気さえするのです。
猫バスで帰る夕焼けの研修生 守田啓子
佐々部清 『ツレがうつになりまして。』(2011)。この映画に出てくるうつと向き合う夫婦はイグアナを飼っているんですね。で、猫でも犬でもなくイグアナだっていうのが(マンガでもおもしろい味を出しているんですが)ポイントなんじゃないかと思うんです。夫は気圧が低いとじっとしているイグアナをみて、まるで自分のようだと感じる場面があって、で、それってなにかっていうと自分を対象化して投影しながらも、自分を客観視しているんですね。そやってうつから少しずつ回復していく。それってやっぱり犬や猫じゃなくて、イグアナだったんですよね。それがおもしろいなと思って。動物はわたしたちに迂回をさせるんだということ。
【僕は僕を嫌いだ】
このSinさんの句でひとつ面白いなと思ったのが「僕が」と言いながらも、主語が「雲は」にあるんですね。「僕が」と言いながらもその「僕」は「雲」の目的語というか対象物なんですよ。
つまりこれって〈雲〉が主体の句なんですね。雲がなにかを考えている句なんです。
でも実は事態ははもっと込み入っているわけです。「猫のヒゲ」みたいに敏感でびりびりしていてマジカルです。
どういうことかというと、「雲は」に「あの」ってついていますよね。この「あの」っていうのは「僕」がつけたものです。「僕」からみて「あの雲」なんですね。だからこれは「僕」が考えている「雲」です。そしてその「雲」が「僕」を嫌っているのです。
つまり、まとめてみると「僕」がみているあの「雲」がこの「僕」を嫌っている、という構造の句になります。すなわち、「僕」が「僕」を嫌っている句なんです、実は。
でも「雲」を介することによって〈それ〉だけではなくなっている。「雲」に主体を託することによって「猫のヒゲ」のように拡散していく。だからほんとうに「僕」が「僕」のことを嫌っているかどうかはわからない。猫のヒゲが謎めいた構造をとっているように。
そんなふうに猫ってマジカルな構造をこちらにもたらすんじゃないかと思うんですよ。それはすごくシンプルですごく複雑という両面の同時性をとるようにおもうんです。
ひとにとっては猫そのものがいつでも〈研修〉を受けるべき学校のような気さえするのです。
猫バスで帰る夕焼けの研修生 守田啓子
佐々部清 『ツレがうつになりまして。』(2011)。この映画に出てくるうつと向き合う夫婦はイグアナを飼っているんですね。で、猫でも犬でもなくイグアナだっていうのが(マンガでもおもしろい味を出しているんですが)ポイントなんじゃないかと思うんです。夫は気圧が低いとじっとしているイグアナをみて、まるで自分のようだと感じる場面があって、で、それってなにかっていうと自分を対象化して投影しながらも、自分を客観視しているんですね。そやってうつから少しずつ回復していく。それってやっぱり犬や猫じゃなくて、イグアナだったんですよね。それがおもしろいなと思って。動物はわたしたちに迂回をさせるんだということ。
- 関連記事
スポンサーサイト
- テーマ:読書感想文
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:ふしぎな川柳-川柳百物語拾遺-