【短歌】戦争の…(毎日新聞・毎日歌壇2016年5月2日・加藤治郎 選)
- 2016/05/03
- 00:20
戦争の時も殺人は殺人 個人の死を問う刑事フォイルは 柳本々々
(毎日新聞・毎日歌壇2016年5月2日・加藤治郎 選)
【いつも、ただ、たった、ひとりの】
NHKでやっていたドラマ『刑事フォイル』って終わってしまったんですが、個人的にすごく面白かったんですね。
何が面白かったかっていうと、第二次世界大戦中に殺人事件を操作する刑事の話なんだけれども、戦争中だからあちこちで空襲をうけたりしてひとが死んでゆくわけです。毎日意味もなくばたばた人が倒れていくなかで、刑事フォイルはたった〈ひとり〉の死の意味を問いかけていく。
もちろん、フォイルはじぶんじしんで、〈なんの意味があるのか〉とも問いかけているし、周囲からも問いかけられるわけです。こんなにひとが死んでいるんだからたったひとり殺されたっていいじゃないか、と。それよりやることがあるだろうと。
でも、よくないんですね。たびたびフォイルは戦争と国家の圧力的な枠組みに負けて犯罪者を一時的に取り逃してしまうこともあるけれど、でもよくないんですね。続けなければいけない。なぜなら、そこで〈ひとりの死の意味〉を手放すと、あとは死が数に還元されるしかなくなってしまう。〈ひとりの死〉の意味を問わなくなったときに実は〈みんなが死んでいる〉というその〈みんな〉さえもが消えるんですね。ひとりは、みんなにつながっているから。
だから、〈ひとりの死〉のいみを問いつづけなければならない。でも、戦争ってまさにそこに尽きるんではないかとおもったんです。いや、ミステリーってそうなんじゃないかと。殺人事件が起きたとしても、日々どこかでいろんなひとが死んでいるわけですよ。だからいつも〈ひとりの死〉って〈みんなの死〉とともにある。その拮抗のなかで、なやみながら、問いかけていかなければならないんじゃないかと思ったんです。
そういう〈枠組み〉のミステリーってわたしははじめてだったんです。だから去年から今年にかけて『刑事フォイル』をみながら、〈みんなの死〉のなかの〈ひとりの死〉ってなんだろうとずっと思ってたんですよ。
つまり、殺人って誰が殺したかではなくて、どの死と死のあいだに挟まれてあることを考えてみることも大事なんではないかと。
『刑事フォイル』の原題は、“ foyle's war ”。『フォイルの戦争』です。戦争はいつもだれ《の》戦争なのか。
歩いてもあるいても病棟だノブがあちこちころがってら 加藤治郎
(毎日新聞・毎日歌壇2016年5月2日・加藤治郎 選)
【いつも、ただ、たった、ひとりの】
NHKでやっていたドラマ『刑事フォイル』って終わってしまったんですが、個人的にすごく面白かったんですね。
何が面白かったかっていうと、第二次世界大戦中に殺人事件を操作する刑事の話なんだけれども、戦争中だからあちこちで空襲をうけたりしてひとが死んでゆくわけです。毎日意味もなくばたばた人が倒れていくなかで、刑事フォイルはたった〈ひとり〉の死の意味を問いかけていく。
もちろん、フォイルはじぶんじしんで、〈なんの意味があるのか〉とも問いかけているし、周囲からも問いかけられるわけです。こんなにひとが死んでいるんだからたったひとり殺されたっていいじゃないか、と。それよりやることがあるだろうと。
でも、よくないんですね。たびたびフォイルは戦争と国家の圧力的な枠組みに負けて犯罪者を一時的に取り逃してしまうこともあるけれど、でもよくないんですね。続けなければいけない。なぜなら、そこで〈ひとりの死の意味〉を手放すと、あとは死が数に還元されるしかなくなってしまう。〈ひとりの死〉の意味を問わなくなったときに実は〈みんなが死んでいる〉というその〈みんな〉さえもが消えるんですね。ひとりは、みんなにつながっているから。
だから、〈ひとりの死〉のいみを問いつづけなければならない。でも、戦争ってまさにそこに尽きるんではないかとおもったんです。いや、ミステリーってそうなんじゃないかと。殺人事件が起きたとしても、日々どこかでいろんなひとが死んでいるわけですよ。だからいつも〈ひとりの死〉って〈みんなの死〉とともにある。その拮抗のなかで、なやみながら、問いかけていかなければならないんじゃないかと思ったんです。
そういう〈枠組み〉のミステリーってわたしははじめてだったんです。だから去年から今年にかけて『刑事フォイル』をみながら、〈みんなの死〉のなかの〈ひとりの死〉ってなんだろうとずっと思ってたんですよ。
つまり、殺人って誰が殺したかではなくて、どの死と死のあいだに挟まれてあることを考えてみることも大事なんではないかと。
『刑事フォイル』の原題は、“ foyle's war ”。『フォイルの戦争』です。戦争はいつもだれ《の》戦争なのか。
歩いてもあるいても病棟だノブがあちこちころがってら 加藤治郎
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