【ふしぎな川柳 第九十七夜】けっこう走ろうよ―久保田紺―
- 2016/05/04
- 00:05
傾いたままで結構はしれます 久保田紺
【過剰性、わたしたちの】
紺さんの句集を読んでいたときに紺さんの川柳のなかの〈過剰性と向き合う態度〉っていうのが割と大事なのかなって思ったんです。
たとえば、「傾いたままで結構はしれます」ってひとつの過剰性だと思うんです。傾いて〈まで〉ひとは走らなければならないのか、ってことなんだけれども、でも紺さんの川柳のひとつの答えは、いや「結構」それでもいけるんだよ、っていうことです。
「傾いたままで結構はしれ」るんだよと。
たとえばこんな紺さんの句。
大切にしすぎて行方わからない 久保田紺
これもひとつの〈過剰性への態度〉だとおもうんです。大切にしすぎた結果、その大切なものの「行方」がわからなくなる。これってなにが大事かというと、「大切」というひとの態度を〈過剰性〉ととらえている点だとおもうんです。大切って実はていねいさとか細やかさではなくて、ときに〈過剰性〉なんだと。
そういう〈過剰性〉の枠組みから日常をとらえていく視点が紺さんの川柳にはあったんじゃないかと思うんです。だから私は紺さんの川柳を読んでいたときに、江國香織さんの詩集を思い出したんじゃないかと思うんです。
重かったはずだ心を込められて 久保田紺
江國香織さんの小説にも過剰なひとたちがたくさん出てきますよね。ボーダーを〈一時的な愛〉によって踏み越えてしまうひとたちが。でもそれってひとがもっている〈過剰性〉と向き合うことになる。江國香織さんが小説で〈浮気〉や〈不倫〉に重点をおいているのって、まさにそれこそがひとが〈過剰性〉と向き合う現場だからじゃないかって思うんですね。
立ち尽くす使い切れない火を持って 久保田紺
アンダーソン『ダージリン急行』(2007)。この映画の挿入歌にキンクスの「this time tomorrow」が入るシーンがあってそのシーンがすごくよいんですね。だいたいみんな傾いたまま全速力で電車を追いかけて走っているシーンです。で、たぶんこのシーンだけ観たらこの映画のほぼすべてがわかってしまうのではないかというシーンなんですよね。兄弟たちがばらばらになりそうになりながらでもいっしょになって走る。電車においつくかどうかわからない。でも走る。誰かが転ぶかもしれない。でも走る。そうするとひとりひとりがけっこう走れることにきづく。いろんなことがあるけれど、ぜんぜんうまくいかないけれど、それでも、けっこう走れることに、きづく。
【過剰性、わたしたちの】
紺さんの句集を読んでいたときに紺さんの川柳のなかの〈過剰性と向き合う態度〉っていうのが割と大事なのかなって思ったんです。
たとえば、「傾いたままで結構はしれます」ってひとつの過剰性だと思うんです。傾いて〈まで〉ひとは走らなければならないのか、ってことなんだけれども、でも紺さんの川柳のひとつの答えは、いや「結構」それでもいけるんだよ、っていうことです。
「傾いたままで結構はしれ」るんだよと。
たとえばこんな紺さんの句。
大切にしすぎて行方わからない 久保田紺
これもひとつの〈過剰性への態度〉だとおもうんです。大切にしすぎた結果、その大切なものの「行方」がわからなくなる。これってなにが大事かというと、「大切」というひとの態度を〈過剰性〉ととらえている点だとおもうんです。大切って実はていねいさとか細やかさではなくて、ときに〈過剰性〉なんだと。
そういう〈過剰性〉の枠組みから日常をとらえていく視点が紺さんの川柳にはあったんじゃないかと思うんです。だから私は紺さんの川柳を読んでいたときに、江國香織さんの詩集を思い出したんじゃないかと思うんです。
重かったはずだ心を込められて 久保田紺
江國香織さんの小説にも過剰なひとたちがたくさん出てきますよね。ボーダーを〈一時的な愛〉によって踏み越えてしまうひとたちが。でもそれってひとがもっている〈過剰性〉と向き合うことになる。江國香織さんが小説で〈浮気〉や〈不倫〉に重点をおいているのって、まさにそれこそがひとが〈過剰性〉と向き合う現場だからじゃないかって思うんですね。
立ち尽くす使い切れない火を持って 久保田紺
アンダーソン『ダージリン急行』(2007)。この映画の挿入歌にキンクスの「this time tomorrow」が入るシーンがあってそのシーンがすごくよいんですね。だいたいみんな傾いたまま全速力で電車を追いかけて走っているシーンです。で、たぶんこのシーンだけ観たらこの映画のほぼすべてがわかってしまうのではないかというシーンなんですよね。兄弟たちがばらばらになりそうになりながらでもいっしょになって走る。電車においつくかどうかわからない。でも走る。誰かが転ぶかもしれない。でも走る。そうするとひとりひとりがけっこう走れることにきづく。いろんなことがあるけれど、ぜんぜんうまくいかないけれど、それでも、けっこう走れることに、きづく。
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