【ふしぎな川柳 第九十八夜】「どうしても」って使ったことがありますか?-樋口由紀子-
- 2016/05/05
- 01:44
どうしても桜の下に来てほしい 樋口由紀子
【カラフルなオカルト】
「どうしても」ってすごい言葉ですよね。そういえば、じぶんの人生で「どうしても」って使ったことあるかなあってちょっと考えるくらいにインパクトの強い言葉です。
この句がおもしろいのって上5で、インパクトの大きい「どうしても」というストレートな欲動を出しておきながらも、中7から〈すこし隠す〉ところにポイントがあるんじゃないかと思うんです。
「桜の下に来てほしい」って、それは〈なんでだろう〉って思うわけです。なにかあるんだろう、と。でも語り手は「どうしても」と語っておきながら、そこは隠したわけですよね。
「桜の下」に来てもらえば、「どうしても」に匹敵するなにかがあなたを待っているんだと。でもその「どうしても」に匹敵するなにかが今はつまびらかにできない。すっと、隠す。
わたしは樋口さんの川柳ってときどき〈隠れる主題〉があるんじゃないかと思うんです。これまでとりあげてきた、
三十六色のクレヨンで描く棺の中 樋口由紀子
てんぷらの衣の中を呪文が通る 〃
明るいうちに隠しておいた鹿の肉 〃
これも〈隠れる主題〉なんじゃないかと思うんですよ。「棺の中」で「てんぷらの衣の中」でどこか隠された場所で、〈どうしても〉しておきたいことやものが生起する。でもそれはどこかからっとしていて、明るいんですね。クレヨンで描いたようなカラフルさがある。そういう〈明るいオカルト〉というテーマがあるのかなあっておもうんです。たぶん、桜の下も明るいと思うんですよね。花びらが月の光に照らされて。
〈明るいオカルト〉だから、たとえば花の中にわけいっても、からっとこんなふうに語り手は、おもう。
どうってことあれへんかった花の中 樋口由紀子
串田和美『K.ファウスト』(2012)。この舞台でおもしろかったのが、メフィストフェレス演じる串田和美さんが薔薇柄のシャツを来ていたことだったんですね。たしかその上に革ジャンを着ていたとおもう。で、マクドナルドを食べていたとおもう。そのときに、ああそうか、メフィストフェレスって徹底的に〈俗っぽい〉んだなっておもったんです。ファウスト博士は〈俗になりきれない俗人〉なんですね。どこかで知識を捨てられない。でもメフィストフェレスはちがう。知識なんてものはいらない。名前もいらない。てらうべき自分もない。だから〈俗っぽさ〉を引き受けてもなんの恐怖もない。別にそれで彼は彼が崩れない。そういう〈明るいオカルト〉を引き受けたのがメフィストフェレスなのかなあって思ったんです。なにかは隠しているんです。ずるさはあるので。でもそれを〈明るく〉隠す。それはちょっと新しいんじゃないか。
【カラフルなオカルト】
「どうしても」ってすごい言葉ですよね。そういえば、じぶんの人生で「どうしても」って使ったことあるかなあってちょっと考えるくらいにインパクトの強い言葉です。
この句がおもしろいのって上5で、インパクトの大きい「どうしても」というストレートな欲動を出しておきながらも、中7から〈すこし隠す〉ところにポイントがあるんじゃないかと思うんです。
「桜の下に来てほしい」って、それは〈なんでだろう〉って思うわけです。なにかあるんだろう、と。でも語り手は「どうしても」と語っておきながら、そこは隠したわけですよね。
「桜の下」に来てもらえば、「どうしても」に匹敵するなにかがあなたを待っているんだと。でもその「どうしても」に匹敵するなにかが今はつまびらかにできない。すっと、隠す。
わたしは樋口さんの川柳ってときどき〈隠れる主題〉があるんじゃないかと思うんです。これまでとりあげてきた、
三十六色のクレヨンで描く棺の中 樋口由紀子
てんぷらの衣の中を呪文が通る 〃
明るいうちに隠しておいた鹿の肉 〃
これも〈隠れる主題〉なんじゃないかと思うんですよ。「棺の中」で「てんぷらの衣の中」でどこか隠された場所で、〈どうしても〉しておきたいことやものが生起する。でもそれはどこかからっとしていて、明るいんですね。クレヨンで描いたようなカラフルさがある。そういう〈明るいオカルト〉というテーマがあるのかなあっておもうんです。たぶん、桜の下も明るいと思うんですよね。花びらが月の光に照らされて。
〈明るいオカルト〉だから、たとえば花の中にわけいっても、からっとこんなふうに語り手は、おもう。
どうってことあれへんかった花の中 樋口由紀子
串田和美『K.ファウスト』(2012)。この舞台でおもしろかったのが、メフィストフェレス演じる串田和美さんが薔薇柄のシャツを来ていたことだったんですね。たしかその上に革ジャンを着ていたとおもう。で、マクドナルドを食べていたとおもう。そのときに、ああそうか、メフィストフェレスって徹底的に〈俗っぽい〉んだなっておもったんです。ファウスト博士は〈俗になりきれない俗人〉なんですね。どこかで知識を捨てられない。でもメフィストフェレスはちがう。知識なんてものはいらない。名前もいらない。てらうべき自分もない。だから〈俗っぽさ〉を引き受けてもなんの恐怖もない。別にそれで彼は彼が崩れない。そういう〈明るいオカルト〉を引き受けたのがメフィストフェレスなのかなあって思ったんです。なにかは隠しているんです。ずるさはあるので。でもそれを〈明るく〉隠す。それはちょっと新しいんじゃないか。
- 関連記事
-
-
【ふしぎな川柳 第七十六夜】くろいつぶつぶ-小池正博- 2016/02/03
-
【ふしぎな川柳 第八十八夜】死にました、よ-岩田多佳子- 2016/04/08
-
【ふしぎな川柳 第八十夜】みっつめの耳-野沢省悟- 2016/02/23
-
【ふしぎな川柳 第七夜】そろそろたましいのはなしをしよう-八上桐子- 2015/11/05
-
【ふしぎな川柳 第四十二夜】知らんけど-谷じゃこ- 2015/12/09
-
スポンサーサイト
- テーマ:読書感想文
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:ふしぎな川柳-川柳百物語拾遺-