【感想】落ち着いて驚かないで聞いてくれ実は前から君がすっすす 泳二
- 2016/06/03
- 14:03
落ち着いて驚かないで聞いてくれ実は前から君がすっすす 泳二
【わたし大渋滞】
これは「落ち着いて驚かないで」いられなかったのが実は「すっすす」と発してしまう語り手の方だったっていうことなんですよね。じぶんがもはや落ち着かず驚いてしまっていたという。
でももう一度頭から読んだときに実は「すきです」っていう感情って、落ち着いていても・驚かずにいてもダメなものなんじゃないかって思えてくると思うんです。ほんとうに「すきです」を発話するためには、へんな話だけれど「すきです」と発話できてしまうことは駄目で、つっかえるしかないんじゃないかと。
つまりちょっとおもしろいなと思うのは、〈すきです〉っていう発話は、けっして〈わたし〉と〈あなた〉のあいだだけのものではないっていうことです。
この語り手は「すきです」と言おうとしてつかえてしまったけれど、そのときに〈わたし〉対〈わたし〉のコミュニケーションも発生している。〈ちゃんといえると思ったわたし〉と〈思いがけなく動揺しはじめたわたし〉とのあいだに。
「すきです」ってそういう〈思いがけないあなた〉をふやすと同時に、〈思いがけないわたし〉もふやしていくことだと思うんですよ。
だから「落ち着いて驚かないで聞いてくれ」は「落ち着かないで驚いて聞いてくれ」として今無数にふえていっている〈動揺するわたしの群れ〉にも投げかけれているとおもうんです。むしろ「すき」ってことばは、そうやってわたしをわたしのうしろに陸続とふやしていくことなんじゃないか。わたしの大渋滞。
すっとぼけたアスパラガスの顔をして今年の夏が立ち上がりたり 泳二
(『川柳×短歌 月めくり』かばん関西)
ヒッチコック『知りすぎた男』(1955)。来客があったんだけれど、主人公夫婦は事件に巻き込まれてしまう。で、とりあえず部屋で待っていてと主人公夫婦は出ていっちゃうんだけれど、そのあいだ来客たちは部屋でずっと待っているんですね。で、ラストまで夫婦は帰ってこないからずっと主人公夫婦の部屋で来客たちは待っていて、やがて疲れてみんな眠っちゃうんだけれど、眠っても待っている。で、ラスト主人公夫婦がばたばた帰ってきてみんなが眼がさめて映画はとうとつに終わるんだけれど、なんかこの〈ずっと待たされる〉ことってヒッチコックのひとつのテーマにも思うんですよね。泳二さんの短歌にならうなら、「すきです」とすっと発話できないこと。その屈託のなかに、いろんな隠そうとした無意識があらわれてくる。そういう〈長い長い遅延〉がポジティブにあらわれているのがこのどこか明るい映画『知りすぎた男』なんじゃないかとおもう。
【わたし大渋滞】
これは「落ち着いて驚かないで」いられなかったのが実は「すっすす」と発してしまう語り手の方だったっていうことなんですよね。じぶんがもはや落ち着かず驚いてしまっていたという。
でももう一度頭から読んだときに実は「すきです」っていう感情って、落ち着いていても・驚かずにいてもダメなものなんじゃないかって思えてくると思うんです。ほんとうに「すきです」を発話するためには、へんな話だけれど「すきです」と発話できてしまうことは駄目で、つっかえるしかないんじゃないかと。
つまりちょっとおもしろいなと思うのは、〈すきです〉っていう発話は、けっして〈わたし〉と〈あなた〉のあいだだけのものではないっていうことです。
この語り手は「すきです」と言おうとしてつかえてしまったけれど、そのときに〈わたし〉対〈わたし〉のコミュニケーションも発生している。〈ちゃんといえると思ったわたし〉と〈思いがけなく動揺しはじめたわたし〉とのあいだに。
「すきです」ってそういう〈思いがけないあなた〉をふやすと同時に、〈思いがけないわたし〉もふやしていくことだと思うんですよ。
だから「落ち着いて驚かないで聞いてくれ」は「落ち着かないで驚いて聞いてくれ」として今無数にふえていっている〈動揺するわたしの群れ〉にも投げかけれているとおもうんです。むしろ「すき」ってことばは、そうやってわたしをわたしのうしろに陸続とふやしていくことなんじゃないか。わたしの大渋滞。
すっとぼけたアスパラガスの顔をして今年の夏が立ち上がりたり 泳二
(『川柳×短歌 月めくり』かばん関西)
ヒッチコック『知りすぎた男』(1955)。来客があったんだけれど、主人公夫婦は事件に巻き込まれてしまう。で、とりあえず部屋で待っていてと主人公夫婦は出ていっちゃうんだけれど、そのあいだ来客たちは部屋でずっと待っているんですね。で、ラストまで夫婦は帰ってこないからずっと主人公夫婦の部屋で来客たちは待っていて、やがて疲れてみんな眠っちゃうんだけれど、眠っても待っている。で、ラスト主人公夫婦がばたばた帰ってきてみんなが眼がさめて映画はとうとつに終わるんだけれど、なんかこの〈ずっと待たされる〉ことってヒッチコックのひとつのテーマにも思うんですよね。泳二さんの短歌にならうなら、「すきです」とすっと発話できないこと。その屈託のなかに、いろんな隠そうとした無意識があらわれてくる。そういう〈長い長い遅延〉がポジティブにあらわれているのがこのどこか明るい映画『知りすぎた男』なんじゃないかとおもう。
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