【あとがき】藤本和子『リチャード・ブローティガン』のあとがき
- 2014/07/21
- 01:06
六月十一日のこと。暁はまだだった。午前四時に電話が鳴ったときには、夫の祖母がアメリカで急死したのか? というようないやな予感がして、わたしは半睡の状態で、兎小屋ふうと形容されていた原宿のマンションの寝室兼客間兼仕事部屋から電話機がおいてある小さな台所まで、前のめりにどたどたと足をはこんだ。
「もし、もし?」
「わたしだ、リチャードだ、じつに驚くべきことだ。深夜から詩を書きはじめたのだが、ペンを手にしたとたん、詩がどんどん誕生して、とまらないほどになって、じつに驚くべきことなのだ!(……)ものすごいんだ。驚くべきイマジネーションの津波だ」と新宿のホテルに滞在中のリチャード・ブローティガンはつづけた。
(……)
そのときのことは「東京/一九七六年六月十一日」(『東京日記』)という詩に記されている。
きょう早くに
ノートに書いた
五篇の詩は
パスポートとおなじ
ポケットにおさめてある。詩も
パスポートだからね。
八年後、一九八四年にブローティガンはみずからの命をたった。
藤本和子「あとがき」『リチャード・ブローティガン』
「もし、もし?」
「わたしだ、リチャードだ、じつに驚くべきことだ。深夜から詩を書きはじめたのだが、ペンを手にしたとたん、詩がどんどん誕生して、とまらないほどになって、じつに驚くべきことなのだ!(……)ものすごいんだ。驚くべきイマジネーションの津波だ」と新宿のホテルに滞在中のリチャード・ブローティガンはつづけた。
(……)
そのときのことは「東京/一九七六年六月十一日」(『東京日記』)という詩に記されている。
きょう早くに
ノートに書いた
五篇の詩は
パスポートとおなじ
ポケットにおさめてある。詩も
パスポートだからね。
八年後、一九八四年にブローティガンはみずからの命をたった。
藤本和子「あとがき」『リチャード・ブローティガン』
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