【短歌】リポビタン…(東京新聞・東京歌壇2016年7月3日・東直子 選)
- 2016/07/03
- 19:17
リポビタンDのでらでらするような黄色のようなふるさとに向かう 柳本々々
(東京新聞・東京歌壇2016年7月3日・東直子 選)
【短歌とガジェット】
短歌における〈ガジェットの力〉のようなものってあると思うんですね。
ベランダに落ちた煙草の灰を踏みあなたのいない夜は綺麗だ 灰野やもり
たとえばこの灰野さんの歌でいうと、まず出だしにある「ベランダ」が強力なガジェットになっているように思うんです。ベランダはもちろんもともと実利的に部屋に備わっているものですよね。外に出て何かを干したりだとか室外機が置けたりだとかガーデニングをしたりだとか。
でもひとは〈そうではないやりかたで〉ベランダを使い始める。たとえばなんとなく夜の空気が吸いたくてベランダにでたり、喫煙のためにベランダにでたり、喧嘩をしてひとりベランダにでたり、死にたくなって仮想自殺をするためにベランダにでることだってある。
そうするとベランダそのものがノスタルジックな場所になっていくとおもうんですね。で、ノスタルジーってなんなのかっていうとたぶん〈無駄〉ができてはじめて現れる〈投影〉じゃないかとおもうんですよ。
なにもない道やなにもない廃墟やなんでもない夕陽や使いにくくなった自転車や、ともかく実用的じゃなくなったときにはじめてそこに想念を投影できる〈無駄な空白〉がうまれる。
それがノスタルジーの正体なんじゃないかとおもうんです。そしてその意味でノスタルジーはガジェット=玩具と親和するんじゃないか。
リポビタンDの瓶が、ベランダが、ガジェットのようになるとき、そこに詩を投影する余白がうまれる。
日常は小さな郵便局のよう誰かわたしを呼んでいるよな 東直子
(東京新聞・東京歌壇2016年7月3日・東直子 選)
【短歌とガジェット】
短歌における〈ガジェットの力〉のようなものってあると思うんですね。
ベランダに落ちた煙草の灰を踏みあなたのいない夜は綺麗だ 灰野やもり
たとえばこの灰野さんの歌でいうと、まず出だしにある「ベランダ」が強力なガジェットになっているように思うんです。ベランダはもちろんもともと実利的に部屋に備わっているものですよね。外に出て何かを干したりだとか室外機が置けたりだとかガーデニングをしたりだとか。
でもひとは〈そうではないやりかたで〉ベランダを使い始める。たとえばなんとなく夜の空気が吸いたくてベランダにでたり、喫煙のためにベランダにでたり、喧嘩をしてひとりベランダにでたり、死にたくなって仮想自殺をするためにベランダにでることだってある。
そうするとベランダそのものがノスタルジックな場所になっていくとおもうんですね。で、ノスタルジーってなんなのかっていうとたぶん〈無駄〉ができてはじめて現れる〈投影〉じゃないかとおもうんですよ。
なにもない道やなにもない廃墟やなんでもない夕陽や使いにくくなった自転車や、ともかく実用的じゃなくなったときにはじめてそこに想念を投影できる〈無駄な空白〉がうまれる。
それがノスタルジーの正体なんじゃないかとおもうんです。そしてその意味でノスタルジーはガジェット=玩具と親和するんじゃないか。
リポビタンDの瓶が、ベランダが、ガジェットのようになるとき、そこに詩を投影する余白がうまれる。
日常は小さな郵便局のよう誰かわたしを呼んでいるよな 東直子
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