【川柳連作と散文】「カフカ忌」(『川柳の仲間 旬』206・2016年7月)
- 2016/07/29
- 04:36
かっこいいカフカ走る走る走る
音質を変えたいために風邪をひく
ああこれはかわいい僧侶うれしくて
能面を鞄のなかに入れている
グリーンのよしだ・よしおが止まらない
この部屋はいつも出口がふたつある
手伝ってほしそうな眼のスフィンクス
てっぺんを持って歩けるようにする
ふりだしに立つ頭上からヘリコプター
I can't see わたしはあしたカフカです
柳本々々「カフカ忌」(『川柳の仲間 旬』206・2016年7月)
カフカの『変身』で最後に家族みんなでピクニックに行くシーンがあるよね。息子が虫になって死んだっていうのに、空はこの上なく晴れて、これからの輝いた未来も不思議と予期されて、みんな、きらきらしている。微笑んでさえいるんだ。なんでだろう、と私は言う。どういうことなのかと。でもときどき、うつむいたままきらきらしてるひとがいるでしょう、とあなたが言う。びっくりするんだけれど、とても暗い顔で、ふらふらしながら、きらきらしてるの。そう、と私は言う。そうだ。そう言えばカフカはこんなふうに書いていた。「私は這いつくばることだけはめっぽううまいんです」
*
【題「テーマ」】
きのうからテーマの中に俺がいない 柳本々々
渡辺のテーマがきょうは流れてる 〃
このテーマ、テーマのふりをしてないか? 〃
*
人の心によりそえればいい 池上とき子
黄緑が緑の世話焼くピカソの絵 桑沢ひろみ
大量にのみこむかんじ花冷えだ 千春
ビル折れて茶漬けへと茶を注ぐこと 川合大祐
雨がくるでんぐり返るどんでん返る 樹萄らき
空を見るだんだん透ける現在地 小池孝一
親業は豚にしっかり殺されている 竹内美千代
青蛙二匹溶けあうこともなく 大川博幸
友眠る悔いの言葉をたたきつけ 丸山健三
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