【短歌】<降ります>の…/話し合い…(毎日新聞 毎日歌壇2016年8月1日 加藤治郎 特選/東京新聞 東京歌壇2016年7月31日 東直子 特選)
- 2016/08/01
- 08:19
<降ります>のボタンをすべて失った世界、素晴らしいバスに乗るふたり 柳本々々
(毎日新聞 毎日歌壇2016年8月1日 加藤治郎 特選)
話し合いってどうすればいいんだろうレンジにかけるアイスクリーム 柳本々々
(東京新聞 東京歌壇2016年7月31日 東直子 特選)
【素晴らしいバスはほんとうに素晴らしかったのか】
さいきん加藤治郎さんの『雨の日の回顧展』をずっと読んでいて、そのなかに自動翻訳システムによる短歌が出てくるんです。英語を日本語に自動翻訳するとへんな日本語の質感が出てくることがありますよね。たぶんそれを通してできあがった短歌だと思うんですがたとえば、
手術前の手術台よいこはみんなならんで手術後の手術台 加藤治郎
この短歌には(*自動翻訳システムによる)と注がついていて、隣に自動翻訳をする前の英文が併記されているんです。
でも不思議だったのは、もしその注がついていけなければ、ふつうにすっと加藤さんの短歌として受け取ってしまうのではないかということです。そもそもが加藤さんの短歌にはそうした翻訳の際に生じる歪みのような文体で書かれていたのではないかと思うんです。
その歪みの文体から生まれていたものってなにかっていうと、普遍的価値観をアイロニカルにとらえる視線だったんではないかと思うんです。たとえばこの歌では「よいこ」っていう率直な価値観がでてくるけれど、「手術前の手術台」「手術後の手術台」に挟まれた文体によって「よいこ」の意味が反転しつづける。「手術前の手術台」に「みんな」でならぶのはほんとうに「よいこ」なのか、いったいなにが「よい」のかわからなくなる。そういう「よい」がどこまでも転々としていくような風景がここにはあるのかなって思うんです。むき身の、なまみの価値観がたえず反転する風景。
もっといえば、この世界を「素晴らしい世界」だと《口で唱えて》断定するときに、「ぜんぜん素晴らしくないじゃないか」と《頭で》わかってしまうのが加藤さんの短歌なんじゃないかと。
ベビー・ブルー、ベビー・ピンクは変だろうだって誰もが惨事なんだから 加藤治郎
分けあえば食べ物甘し指摘挙手拒否指示指定座ってなさい 東直子
(毎日新聞 毎日歌壇2016年8月1日 加藤治郎 特選)
【加藤治郎さんから頂いた選評】かつては<降りますランプ>(穂村弘)に取り囲まれて幸せだった。降りることができない現在を問いかける。
話し合いってどうすればいいんだろうレンジにかけるアイスクリーム 柳本々々
(東京新聞 東京歌壇2016年7月31日 東直子 特選)
【東直子さんから頂いた選評】電子レンジで、あっという間にドロドロにとけていくアイスクリームが、話し合おうとしても方法が分からずおろおろしてしまう感覚と通じる。
【素晴らしいバスはほんとうに素晴らしかったのか】
さいきん加藤治郎さんの『雨の日の回顧展』をずっと読んでいて、そのなかに自動翻訳システムによる短歌が出てくるんです。英語を日本語に自動翻訳するとへんな日本語の質感が出てくることがありますよね。たぶんそれを通してできあがった短歌だと思うんですがたとえば、
手術前の手術台よいこはみんなならんで手術後の手術台 加藤治郎
この短歌には(*自動翻訳システムによる)と注がついていて、隣に自動翻訳をする前の英文が併記されているんです。
でも不思議だったのは、もしその注がついていけなければ、ふつうにすっと加藤さんの短歌として受け取ってしまうのではないかということです。そもそもが加藤さんの短歌にはそうした翻訳の際に生じる歪みのような文体で書かれていたのではないかと思うんです。
その歪みの文体から生まれていたものってなにかっていうと、普遍的価値観をアイロニカルにとらえる視線だったんではないかと思うんです。たとえばこの歌では「よいこ」っていう率直な価値観がでてくるけれど、「手術前の手術台」「手術後の手術台」に挟まれた文体によって「よいこ」の意味が反転しつづける。「手術前の手術台」に「みんな」でならぶのはほんとうに「よいこ」なのか、いったいなにが「よい」のかわからなくなる。そういう「よい」がどこまでも転々としていくような風景がここにはあるのかなって思うんです。むき身の、なまみの価値観がたえず反転する風景。
もっといえば、この世界を「素晴らしい世界」だと《口で唱えて》断定するときに、「ぜんぜん素晴らしくないじゃないか」と《頭で》わかってしまうのが加藤さんの短歌なんじゃないかと。
ベビー・ブルー、ベビー・ピンクは変だろうだって誰もが惨事なんだから 加藤治郎
分けあえば食べ物甘し指摘挙手拒否指示指定座ってなさい 東直子
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