【短歌】つっぷせば…(東京新聞・東京歌壇2016年8月14日・東直子 特選)
- 2016/08/14
- 20:24
つっぷせば床との仲が素晴らしくどんな姿勢にも希望があるよ 柳本々々
(東京新聞・東京歌壇2016年8月14日・東直子 特選)
【東さんから頂いた選評】床につっぷす図は、落ち込んだ心を示す比喩としても使われるが、「床との仲が素晴らしい」と発想の転換を測れば「希望」にもなれる。
【前進という前のめり】
カフカがこんなことを言っていたんですよ。
僕は自分の知る限り、生きることの必要条件を何ひとつそなえてこなかった。そうではなくただ、普遍的な人間的弱さだけをそなえていた。この弱さで──この点ではものすごい力だ──僕は、自分の時代のネガティヴなものを力強く取り込んできた。
カフカ「八つ折りノートH」
たぶん、カフカにとって「弱さ」って「ものすごい力」だったんじゃないかと思うんですよ。で、もっと言えば、「文学とは僕そのものなのです」とカフカは言っていたけれど、〈文学〉って「弱さ」が「ものすごい力」になる場所なんじゃないかとおもうんです。
そういうところに〈文学〉と言われるものの最後の希望みたいなものがあるような気がするんです。
もちろん、ひとは「ものすご」くもなんともなく、ただだらしなく、シンプルに、つっぷすこともある。
でも、じぶんがどれだけ絶望しても、あふれる生のちからとともにつっぷすことだってあるんじゃないか。ふしぎなことだけれど。
光りながら、ときどき、つっぷしているひとがいる。
生には不可思議な光がある。つっぷすことにも。
ひとしきり語りつくしたあとの手に桃をもらって雨にふられて 東直子
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